2017年8月

笹のいえ

ひとりばえ

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こぼれ種が発芽してそのまま育つ野菜を、地域の人たちは「ひとりばえ」と呼ぶ。

人間の力を借りずに、野菜が自力で生えてくるからそんな名前なんだろうと推測するけど、
高知に来る前は聞いた覚えがないので、地域限定の表現かもしれない。

笹のいえでは、その辺で種を選別したり、食べ終わった野菜をポイっとすることがあるので、そのまま種が残り、
意外なところで意外なものが育っていたりする。

草の中で見つけた小さな苗は、何科の野菜かくらいは見当が付くけれど、品種まではわからない。
そういえば、去年この辺で傷んだトマトを捨てたな、とか、スイカの種を飛ばしたな、とか遠い記憶を辿る。

手塩に掛けて育てた野菜たちが虫や病気で元気が無いときでも、
雑草に囲まれる厳しい環境で逞しく育っていくひとりばえは、生命力に溢れ大きく育つことが多い。
この環境に適した遺伝子を持っていそうだから、種を採っておいて翌年に蒔くこともある。

棚に蔓をスルスルと伸ばしたかぼちゃのひとりばえが実をつけはじめた。
形はバターナッツみたいだけど、色はロロン(かぼちゃの品種)みたい。味はどうかな。

交雑が珍しくないひとりばえにはこんな楽しみ方もある。

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私の一冊

川田康富

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「ハートビート」 キャロリン・キャサディ 渡辺洋一(訳) 新宿書房

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土佐町の人々

お山のお母さん 2

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計美さんは、とにかく朝から晩までフル回転で体を動かし、てきぱきと働く。そばで見ているだけでいそがしい。
忙しいという字は「心をうしなう」と書くけれど、計美さんのいそがしさはそのような忙しさではない。自分のやるべきことに愛情をもった「いそがしさ」。 

計美さんがどんな人なのかを伝えるには、まず、大根を間引きをする時の話をしたい。
大根の種をまき、芽が出てきて少し大きくなってきたら間引きをする。私は間引きが苦手だ。かわいそうな気がするし、これを間引いちゃったら大根にならないじゃないか、と思うともったいないと思ってしまう。だから躊躇してかなり遠慮気味に間引きをする。でも計美さんはちがう。
「え?そんなに間引いちゃうんですか?」と思わず聞いてしまうくらい、さっさっとどんどん間引く。計美さんが間引いた後は畑がすっきり見える。
「これくらいせんと大根が太らんきね。思い切りが必要!」と笑って計美さんは言う。その潔さがかっこいいし、気持ちがいい。

 

次は「季節の宅急便」の話を。
毎年のお中元やお歳暮の時期、計美さんは豊喜さんに「ちょうどいい大きさ」の段ボールをスーパーからたくさんもらってきてもらう。季節の品々いろいろと手紙を入れて送るために。
中に入れるものは送る人によって違っていて、切り干し大根、味噌、こんにゃく、おもち、干し芋、漬物、野菜がある時は野菜…など、全部計美さんがつくったもの。冬には水菜やほうれん草を入れたり、大根を育てていない人には大根を入れたり、送る本人に「何を入れてほしいか?」と聞いたりもするそうだ。
何人にも送るので、キャベツを箱に入れたと思ったのに入っていなかったとか、お礼の電話があって「この瓶に入っているものはなに?」と聞かれるけど「何人も送ったき、わからん。あけてみや!」と言ったりする、と笑いながら教えてくれた。ひとつひとつを新聞紙で包んで箱につめるから「何が入っちゅうか楽しみに開ける」という人もいるのだそうだ。

箱を開ける前の楽しみ。開けた時の驚き。中に入っている手紙を読む時間。そのあとの気持ちのやりとり。時間がたってからも心に思い浮かぶ思い出。

こんなにたくさんのよろこびを生み出す宅急便、他にあるだろうか。

「送った人からは、この山にないものを送ってもらうのよ、物々交換!」とたくましく笑う計美さんが私は大好きだ。本当にいきいきとそのことを話す計美さんの表情を見ていると、宅急便が届いて「わあ!」と歓声をあげている人たちの顔が見えるような気持ちがする。

「喜んでくれるからそれがうれしくて毎年送る。私の唯一の楽しみよ」

ずっと前から、そう思っているのだろうということはわかっていたはずだった。でもその言葉を聞いた時、そうだったのか、と初めてそのことを知ったような気持ちがした。計美さんが少し前かがみになりながら私のことをまっすぐ見ながら話す表情やその時の声の感じで、それが心からの言葉であることが実感として伝わってきた。計美さんはずっとずっとその思いで、大切な人たちに宅急便を送り続けてきたのだ。

そして次に手紙の話を。
お家に行ったあと、お礼の手紙を書くといつもお返事をくれる。ある日、計美さんから届いたはがきには、家の周りに咲き始めた紫陽花のことや私のこどもたちを気遣うことばが並び、文章の最後はこう結ばれていた。

「いつでもあがっていらっしゃい。お山のお母さんより」。

お山のお母さん。
この言葉がほんとうにうれしくて何度も何度も読み返した。

それからはこう思うようになった。「私にはお母さんがふたりいる」。
私を生んでくれたお母さんと、お山のお母さん。
そのはがきは私の大切な宝物。いつも手帳にはさんである。

 

 

最後にご主人の豊喜さんとのことを。
豊喜さんも働きもので、早朝から高知市内へ野菜の配達に行ったり、帰ってきたら田畑の手入れや機械の修理、木を切り出し、その木で大きな作業小屋まで作ってしまう。私は豊喜さんの笑顔が大好きで豊喜さんが笑ってくれると何だか嬉しくなってしまうのだが、それは計美さんも一緒のようで、笑いながら話している豊喜さんを好ましそうに見ている。そして絶妙なタイミングで計美さんが合いの手を入れて、みんなが笑顔になるのだ。

おふたりにはお子さんが4人いて、こどもたちが育ち盛りの時は豊喜さんは他の仕事もしながら、ずっと二人三脚で仕事も子育てもしてきたのだそうだ。二人で乗り越えてきただろうたくさんの苦労や、積み重ねてきたお互いへの信頼が豊喜さんと計美さんのやりとりからにじみでていて、それはきっとこれからも決して揺るがないのだろう。

計美さんと豊喜さんは、農業高校の学生や農業インターンの受け入れもしている。たくさんある仕事を手伝ってもらうためというよりも「若い人たちと話していると面白いし、自分たちの刺激になる」とおふたりは言う。いくつになっても人から学び続ける姿勢が本当に素敵だなと思う。

 

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私の一冊

藤田純子

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「くねくねさんのいちにち きょうはマラカスのひ」 樋勝朋巳 福音館書店

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4001プロジェクト

森岡拓実 史織 藍 (上ノ土居)

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私の一冊

和田亜美

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「ここはグリーン・ウッド」 那州雪絵 白泉社

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土佐町ポストカードプロジェクト

2017 Jun

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高須 (台)| 渡貫ほの波

 

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私の一冊

藤田英輔

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「最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常」 二宮敦人 新潮社

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4001プロジェクト

Lajos Gyokos, Nikolett, Zorka, Levente

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