メディアとお手紙

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高知新聞 閑人調  11

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とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただいています。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。

鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載されます。

 

ハチミツ

「もしもし、今家におるろうか?」。

9月のある朝、知り合いの猟師さんから電話がかかってきた。玄関の呼び鈴が鳴りドアを開けると、日焼けした猟師さんが立っていた。

差し出してくれたのは、大きな瓶に入ったハチミツ。「今年はミツがたくさん取れたけえ」。山にいくつか巣箱を構えていて「今年は去年よりミツバチが多かった」と言う。ありがたくいただいた。

以前、別の猟師さんにハチミツを取るところを見せてもらった。巣箱に近づくと、足裏から響くようなうなりがブンブンひっきりなしに聞こえる。

刺されないよう帽子に防虫ネットをつけて顔を覆い、長袖長ズボン、厚手のゴム手袋をして巣箱を慎重に動かす。巣箱の屋根を取ると、中には見事な黄金色、六角形が規則正しく組み合わされた層が連なり、ミツバチがびっしりしがみついていた。

その層をざるでこすとポタポタとミツが落ちる。ミツバチのために少し層を残しておくのだと教えてくれた。

瓶のハチミツは、ミツバチの営みとそれを知る人の知恵の結晶。ひとさじいただくと、じんわりと身体が喜んでいるのが分かる。この土地のハチミツ、何というぜいたく。猟師さん、ありがとうございます。

(風)

 

2023年9月26日、高知新聞の「閑人調」というコラムに掲載された記事です。今回は、知り合いの猟師さんが届けてくれたハチミツについて。

9月のある日、猟師さんからハチミツの大瓶をいただきました。とろりとしたハチミツが詰まった瓶はズシリと重く、受け取った瞬間よろめいてしまったほど。いくつか構えていた巣箱に今年はたくさんミツバチが入り、ハチミツがたくさん取れたといいます。

ビタミンやミネラルなど豊富な栄養素が多く含まれ、殺菌効果も高いハチミツ。風邪ひいたかな?という時にひと匙なめると効果抜群!暖かくしてぐっすり眠ったら、かなりの確率で次の日には良くなります。

古代エジプト文明の壁画にもハチミツを採取する姿が描かれていたり、「日本書紀」にもハチミツに関する記述があるそう。きっとその時代の人間もハチミツの効能を知っていたに違いありません。

猟師さんにいただいたハチミツは、もったいなくてなかなか蓋を開けられず。しばらく飾っておいたのですが、いよいよ耐えられなくなってひと匙いただきました。

じんわりと身体に染み込んでいくハチミツ。土佐町で取れたハチミツをいただくなんて、最高のぜいたくです。猟師さん、大事にいただきます。ありがとうございました。

 

 

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高知新聞 閑人調 10

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とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただくことになりました。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。

鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載される予定です。

 

夏のお祭り

夏、 土佐町各地でお祭りが開かれた。ちょうちんの明かりのもと、よさこいや土佐町音頭といった盆踊り、りんごあめやかき氷などの夜店、花火も上がってとてもにぎやかだった。

お祭りの最後は抽選会。あるお祭りの抽選会では、ガラガラを回して出てくる木札に番号が書いてあり、その番号の抽選券を持つ人が景品を手にする。

景品はかなり実用的でクーラーボックスや町指定のごみ袋半年分、自転車、ビール1ダースなど。その 中で私が一番欲しかった物はすげがさだった。

土佐町に引っ越してきたばかりの頃、すげがさをかぶり田畑で働いている人を見た時は驚いた。時代劇や社会科の資料集で見たことがあったすげがさを実際に使ってみると、内側の五徳と呼ばれる輪っかに頭がはまって風通しがよく、顔にちょうどいい日陰を作ってくれる。

いよいよ次の景品はすげがさ。マイクを持った人が 声高にゆっくりと番号を読み上げた。残念ながら最初の数字から違った。番号を呼ばれて走っていったのは小さな男の子だった。
結局私は何も当たらなか った。 が、踊って笑ってとても楽しかった。お祭りを 大事にしている人がいるからお祭りは開かれる。そう感じた4年ぶりのお祭りだ った。

(風)

 

2023年9月7日、高知新聞の「閑人調」というコラムに掲載された記事です。今年の夏、4年ぶりに開催された夏祭りのひとコマを書きました。

夏の間、土佐町の各地で行われる夏祭り。どのお祭りでも盆踊りを踊り、夜店が出て抽選会があって花火が上がる。お祭りに合わせて帰ってくる人もいて、どこもわいわいと賑やかです。

この記事が掲載された後、ある方から「このお祭りは“野中祭”じゃないかねえ」と聞かれました。そうです、その通り!

野中祭の抽選会は「ガラガラを回し、出てきた木札の番号が当たり」というシステム。そのガラガラと木札の風情が最高なのです。当たった人が次の景品の当たり番号を出すため、ガラガラを回せます。未だあのガラガラに触れたことがない私、来年こそ回してみたい!そして願わくば、すげがさを手に入れたい!景品を選ぶ方々。来年の野中祭の景品の一品に、是非ともすげがさ入れてくださるよう、お願いいたします。

四年ぶりのお祭りに集った人が皆、とてもいい顔をしていたことが印象的でした。準備してくださった方々、ありがとうございました。

 

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高知新聞 閑人調 9

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とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただくことになりました。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。

鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載される予定です。

 

ろいろい

制作に5年をかけた絵本がついに完成した。土佐町をテーマにした絵本で、題名は「ろいろい」。「ろいろい」は土佐弁で、うろうろするという意味だ。

蛇腹式でひとつながりになっているページをのばすと、主人公が歩く道々で出合う四季の風景や行事、歴史や言い伝え、町の人の姿が描かれている。

絵本に何を描くのか?制作チームから出てきたのは町の日常の風景だった。お祭りや棚田や街並み、神社や川や星空、そして町の人。「昔はボンネットバスが走っちょった」「田の草取りに背蓑(せみの)は欠かせない」「もちまきも!」。町の今昔が描かれ、登場する物事はこれからもこの町にあってほしいという願いでもあった。

この絵本を制作するにあたり、町の方たちに大変お世話になった。昔の写真を見せてもらい、各地の風習の意味を教えてもらった。解説書も作り、伝統行事の歴史的背景や言い伝えを詳しく書いた。稲叢山の桜、虫送り、かじ蒸し…。

これらの風景画あるのは、この地で生きてきた先人たちがいたからこそ。だから今の私たちの暮らしがある。そのひとつながりの中で私たちは生きている。絵本を通し、そのことが少しでも伝わればうれしい。

(風)

 

2023年8月23日に高知新聞に掲載されたコラム「閑人調」です。「とさちょうものがたり」でも紹介している土佐町の絵本「ろいろい」のことを書きました。

ここにも書きましたが、絵本「ろいろい」が完成したのは町の方たちのおかげです。本当にたくさんの方にお世話になりました。土佐町の今昔の話を聞かせてもらい、昔の写真を見せてもらい、資料をお借りしたり、たくさんのご協力があったからこそできた一冊です。

絵本のページをめくり、家族や友人との会話のきっかけになれたら嬉しく思います。そして、町の今昔の姿を知ることで、次の世代へ引き継いでいこうとする思いに少しでも繋がればと願っています。

もうすぐ販売も始まります!この絵本の舞台は土佐町ですが、どこに住んでいようと共感してもらえる内容になっていると思います。町の方たちや町内外の方たちに愛される一冊になりますように。

 

土佐町の絵本ろいろい ①

 

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高知新聞 閑人調 8

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とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただくことになりました。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。

鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載される予定です。

 

川で泳ぐ

青く澄みきった川。アユやアメゴの泳ぐ川。岩の上からザブンと飛び込むと耳元で水の粒がはじけ、暑さでぼんやりした身体が一気に目覚める。

高知に来るまで川で泳ぐなんてしたことがなかった。せいぜい足を水につけたり、網で魚を捕まえるくらい。川へ行って遊ぶことは、1日がかりの特別なイベントだった。

ところが今は「今日も暑いなあ。川行くか!」。タオルとゴーグル片手に近所の川へ。2時間ほど泳いで気分爽快。川はとても身近な存在になった。

私のお気に入りの場所は、飛び込める岩や子どもが遊べる浅瀬があり、木漏れ日がきらめいて小指ほどの魚たちが泳ぐ。セミと小鳥の鳴き声、水のせせらぎ。大きく息を吸い込んで水に潜れば、小さな悩みのあれこれは、まあいいかと思えてくる。

ただ7月下旬から「テジロ」と呼ばれるアブがブンブン寄ってくるのには参る。手足が白くハエのような風貌できれいな川にいる。血を吸うのでかわの吸血鬼と呼ばれ、水面から出た手足や顔の周りをしつこく飛び回り、とても厄介だ。

でも、逃げ回ってばかりもいられない。手でたたき、ひっくり返ったテジロを魚の餌となれとばかり、川へ投げるようになった自分に成長を感じている。

(風)

 

2023年8月4日に高知新聞に掲載されたコラム「閑人調」です。タイトルは「川で泳ぐ」。

夏、子どもたちに何度も「川に行きたい!」とせがまれます。そう言われたら「よっしゃ、川行くか!」といそいそと水着に着替え、タオルとゴーグルを持って、近所の川へ。車で10分もしないところに、お気に入りのきれいな川があるなんて、なんて幸せなことでしょう。

岩から飛び込んだり、浮き輪でぷかぷか浮いたり、浅瀬に座ってぼんやりしたり、満足するまで遊んだら、家に帰ってアイスを食べる。これ、最高。

本当は、夏休みの間ずっと川で遊びたいのに7月下旬からはテジロが出現。いつも行く川にテジロが出ると、もっと川の下流で泳ぎますが、やっぱりいつものあの川が最高だなと思うのです。

 

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高知新聞 閑人調 7

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とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただくことになりました。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。

鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載される予定です。

 

ねむの花

今年のねむの花が咲いた。梅雨から本格的な夏へ移り変わる頃、圧倒的な万緑のなかに優しげな桃色が加わる。

よく見ると元は白く、まるで小さな花火のようなその花は、田のあぜや川近くの大きな木にいくつもいくつも現れる。

まぶしい夏空を背景に咲くこの花を見つけると思い出すことがある。

「ねむの花が咲いたら、大豆のまきどきだよ」

近所のおばあちゃんが教えてくれた言葉だ。大豆や小豆などの豆はこの時期にまくとよく育つという。

おばあちゃんは前の年に収穫して取っておいた種をまいて小豆を育て、あんこを炊いておはぎを作っていた。届けてくれるたびに子どもたちは「おばあちゃんのおはぎだ!」と小躍りしていた。今年もきっと、ねむの花を目印に種をまいたことだろう。

この地の花や木々、空や風、山の色が「この仕事をする季節がきましたよ」と教えてくれる。それはデータや決められた予定とは違う、この地で生きる人たちが培ってきたその土地ならではのカレンダー。

その暦が身体の内にあるかないか、知っているかいないかだけで目の前の風景も世界の見え方も変わる気がする。それは人間にとって大切なこと。そんな気がしてならない。

(風)

 

2023年7月19日、高知新聞に掲載された記事「閑人調」です。

7月、土佐町の道々でよく見かけるねむの花。ふわふわっとした、優しげな桃色の花を枝にいくつもつけます。高知に来てから初めて知った花で、とても好きになりました。

以前、近所のおばあちゃんが、その花を見ながら「そろそろ大豆をまかないかんねえ」「ねむの花が咲いたら、大豆のまきどきだよ」と教えてくれたことがありました。そう聞いてから、毎年咲くねむの花を見るたび、おばあちゃんの言葉を思い出します。その言葉を思い出すたび、おばあちゃんの顔と佇まいが心に浮かびます。

木や花、空や風を感じながら季節の移り変わりを知り、その時にするべき仕事をする。おばあちゃんのような培われてきた知恵と体感を持つ人をそばに感じるだけで、何か大切なことを思い出させてもらっている気持ちがします。

 

 

 

 

 

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高知新聞 閑人調 6

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とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただくことになりました。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。

鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載される予定です。

 

スモモ

中学生の息子は大のスモモ好きである。まだ保育園児だった頃、収穫に行って好きなだけ取って好きなだけ食べ、スモモ好きに拍車がかかった。

それから早10年、「昔、取らせてもらったことがあったよね」とスモモ片手に懐かしそうに話す。幼い頃から相変わらず、畳に寝転びながら幸せそうに食べる姿は我が家の風物詩だ。

先日、近所の人が「スモモ取りに来や〜」と声をかけてくれた。大きなカゴを抱え、娘と収穫に行った。遠くから見てもたわわに実っているのが分かる。

真っ赤に熟れたスモモからは甘い香りがして、たまらずガブリ。みずみずしく、口の中が甘酸っぱさでいっぱいに。娘が「スモモが木になるなんて知らなかった」と言った。娘にとっては、今回が初めての収穫だったのだ。

娘も息子もスモモの深い紅色を忘れることはないだろう。それが甘くおいしいことも、枝をつかむように実をもいだことも、斜面を転がるスモモを追いかけたことも。

コンクリートの上では得られない体感を得られていることを幸せに思う。高知で生まれ育った人には当然と思える物事かもしれない。けれど私には、かけがえのないものとして輝いて見える。

(風)

 

2023年7月3日の高知新聞に掲載された「閑人調」の記事です。今回の記事の題名は「スモモ」。

6月はスモモの季節。土佐町の人から「これ、うちでとれたもんやけど」とスモモをいただきました。淡い黄色のもの、うっすら紅いもの、真っ赤なものと色もさまざま。ガブリとかじると、甘酸っぱい果汁がポタポタ。もう一個、と手が伸びます。

6月のある日、近所の人が「スモモ取りに来や〜」と声をかけてくれました。これは、その時のことを書いたものです。

高知新聞の「閑人調」の担当者の方に原稿を送ると、「斜面を転がるスモモを追いかけた」というくだりを「そうそう!」と共感してくださいました。高知ではよくある風景のようです。6月、高知のあちこちでスモモを追いかけている人がいるのかと思うと、何だか楽しいです。

高知で暮らしている人たちは、案外、同じような原風景を共有しているのかもしれません。

 

 

 

 

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高知新聞 閑人調 5

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とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただくことになりました。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。

鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載される予定です。

 

梅仕事

今年も梅の季節がやって来た。産直市で梅の姿を見つけ、1年ぶりに懐かしい 友人に会ったような気持ちになる。毎年、わが家では梅シロップを作る。このシロップを水や炭酸水で割ってごくごく飲む。これで夏バテ知らず、暑い夏に欠かせない飲み物だ。

まず梅をきれいに洗って水気を拭き取り、ヘタをようじで取り除いてガラス瓶に入れていく。コロンと弾む音が心地良い。瓶の底が梅で隠れたら次は氷砂糖を。この作業を交互に繰り返していくと黄緑色の梅と透明な氷砂糖の層が出来上がる。この色合いを眺めながら、今年の梅仕事を無事終えた達成感を味わうのもまた良い。

今年は小学校5年生の次女と一緒に作った。保育園児の頃から手伝っているので、もうすっかり一人前の仕事ぶりだ。次女の楽しみは氷砂糖。瓶に入れるタイミングで自らの口にもパクリ。 そういえば氷砂糖を買う時から既にウキウキしていた。

そんな次女を見て、私自身もそうだったことを思い出した。母が梅酒を漬ける時に口に入れてくれた氷砂糖、それが何よりの楽しみ だったことを。

長女と長男もしてきた梅仕事。子どもたちが大人になった時、この季節の恒例行事をふと思い出してくれたらうれしい。

2023年6月12日に高知新聞に掲載されたコラム「閑人調」です。

我が家の恒例行事である「梅仕事」、梅シロップ作りのことを書きました。

子どもたちと一緒に梅を洗い、梅のヘタを取って、氷砂糖と一緒に瓶へ。氷砂糖を口に入れながらの作業はとても楽しいです。

「梅、いるかよ?」と近所の人が声をかけてくれることもあり、そんな時はさらに梅シロップを仕込みます。いくつも並んだ瓶を見てはちょっとした達成感を味わえるものお楽しみです。

この記事を読んでくださった方が「うちも梅シロップ作ってるから、いつでも家に寄ってね。ごちそうします」とメッセージをくれました。

四季折々の野菜や果物が地元で手に入ること。それらを工夫して使い、周りの人が喜ぶものを作ること。それはこの地の人たちがずっと昔から大切にしてきたことです。それがどんなに豊かなことであるか、日々噛みしめています。

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高知新聞 閑人調 5

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とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただくことになりました。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。

鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載される予定です。

 

初ガツオ

産直市の魚売り場へ行った。今が旬と言わんばかり、 今にもピチピチ飛び跳ねそうな魚が並んでいた。初ガツオだった。黒潮に乗ってはるばる太平洋を北上してきた初物、 目が合ったからには夕飯のおかずは決まりだ。でも丸ごと一匹をさばく自信は恥ずかしながらゼロ。冊を買うことにした。

売り場に並んだ冊には皮がついている。刺身にするには皮をはいだ方がいいのだろうか。店員さんに聞くと「皮付き、皮なし、どっちもいけるよ。好みは人それぞれ!」と笑う。
よく見ると皮は2種類。青味を帯びた黒、そして銀色に光って筋が入ったもの。違いがわからず、隣で熱心に選んでいたおんちゃんに聞いた。

「黒は背中、銀は腹じゃ。腹は脂が乗ってたたきにするとうまいで!わしは腹が好きじゃ」とガハハと笑う。 そして「ほら見てみい。背 中と腹の色が違うろう」と氷の上のカツオの群れを指差した。本当だ!

せっかくだから背も腹も買い、夜、皮付きのまま厚めに切っていただいた。背と腹の味の違いを考えながら食べたのだが、私の舌ではよく分からなかった。

が、初ガツオは口の中でとろけ、幾度となく店員さんとおんちゃんの笑顔を思い出させた。とても良い5月の一日だった。

 

2023年5月30日に高知新聞に掲載されたコラム「閑人調」です。

今回は産直市に並んでいた初ガツオのことを書きました。

氷の上に並んだカツオたちはピチピチと銀色に光り、ぎろりとこちらを見ていました。はるばる太平洋を北上してきたのかと思うと、何とも愛しくなってきます。

冊をどう選んだらいいのか迷う私に、産直市の店員さんは「皮付き皮なしどちらが美味しいか」、おんちゃんは「背と腹の違い」を教えてくれました。
お二人とのこういったやりとりも、初ガツオをさらに美味しくしてくれました。

高知の食、高知の人。その掛け算が高知の魅力です。

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高知新聞 閑人調 3

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このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。

鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載される予定です。

 

日常

5月。田んぼに水が入り、水面はまるで鏡のように空の雲を映す。苗床では稲の赤ちゃんが緑の絨毯のように生えそろい、田植えの日を待っている。

ある日の夕方、田んぼのそばでカメラを構えていた。「何を撮りゆうが?」背後の声に振り向くと、近所の人だった。「田んぼに映った夕焼け雲が奇麗やと思って」と答えると、 その人は笑って言った。「私には毎年、いや毎日見慣れた風景やけど」

撮影していたのは自宅から徒歩1分。私にとっても見慣れているはずの場所だった。でも、その日常の風景をはっとするほど美しいと思うことがある。この日もそうだった。

ある時は道端に咲く小さな花だったり、山並みの上に浮かぶ黄金色の月だったり。雨が降ったあとの川の蒼さやウグイスの声も然り。一見何げない、身近な存在にあらためて気付く時、今まで一体何を見ていたのかと愕然とする。

私たちが生きる世界は美しさを併せ持つ。その美しさは身近なところにもちりばめられ、見ようとしないと見えないものがある。逆に言えば、見ようとしたら見えるということだ。

何げない日常が今日という日を支えてくれている。日常が 特別。高知に来て、尚更そう感じている。

(風)

 

2023年5月11日、高知新聞に掲載された「閑人調」です。

仕事や子どものこと、家のこと…。次から次へやること満載、一つ終えると新たなもう一つがやってくる。常にやるべきことを考えて、それをこなすことで精一杯。夜ごはんの後はバタンキュー、畳の上でいつの間にか寝ていたなんてしょっちゅうです。そのたびに、今日もやってしまったと自己嫌悪。
そんな日々の中でも、時々目が覚めるような美しさやうれしさに出会うことがあります。ちょっとした余白を与えてもらったような、自分の呼吸を思い出すような感覚を得ます。
「日常が特別」。つい忘れがちなこのことを、この地の自然やこの地の人が思い出させてくれます。

 

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高知新聞 閑人調 2

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とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただくことになりました。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。

鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載される予定です。

 

灯り

12年前、土佐町に引越して来てから、近所のおじいちゃんとおばあちゃんに大変お世話になってきた。2人は軽トラックにお米や野菜を載せ、たびたび家に来てくれた。土地勘もなく知り合いもいなかった時分、2人と交わすあいさつやおしゃべりにどんなに助けられてきただろう。

息子と山師であるおじいちゃんは年の離れた友人のようだった。一緒にタケノコを掘り、ビワやアケビを採った。学校から帰るとすぐ2人の家へ走り、一緒にテレビで時代劇や相撲を見るのを楽しみにしていた。

おばあちゃんが藁を綯う手は美しく、その技はまるで魔法のようだった。綯った縄に吊り下げられて揺れる柿と澄み渡った冬の青空。その光景は、高知の原風景の一つとなっている。

ある夕暮時、息子が「おじいちゃんちに灯りがついたねえ」とつぶやいたことがあった。そのことを伝えると「わしらあも同じことを思いゆう。(筆者宅に)灯りがついたなあって」。その言葉を思い出すたび、心に灯りがともる。違う土地で生まれ育った者同士が出会い、人生が重なる不思議と尊さを思う。

息子をかわいがってくれたおじいちゃんは4年前に亡くなった。でもきっと、今もどこかで見守ってくれている気がする。

(風)

 

2023年4月26日に、二本目の記事「灯り」が掲載されました。

「とさちょうものがたり」でも何度かお伝えしてきた、近所のおじいちゃんとおばあちゃんのことを書きました。
人こそ違えど、人はこういったつながりに助けられているんじゃないかなと思います。

先日、久しぶりにおばあちゃんに会いに行きました。コロナ禍では手紙を何度かやり取りしていたのですが、実際に会えることは何にも勝る。本当に素晴らしいことです。

この記事を読んだおじいちゃんの娘さんからお手紙をいただきました。この記事をお仏壇に供えてくださっているとのこと。

 ありがとうございます。

今日もあかりが灯る 1

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