「街と山のあいだ」 若菜晃子 アノニマ・スタジオ
岡山県にある「スロウな本屋」さんでこの本を購入しました(スロウな本屋さんでは「とさちょうものがたりZINE」を置いてくださっています)。大きな町に行く時には本屋さんや図書館へ足を運びます。今まで知らなかった、思いがけない本と出会えることが楽しみのひとつです。
以前、親しい友人が言っていました。「本屋や図書館の棚を眺めていると、ふと手を伸ばしたくなる本があって、それがその時の自分に不思議とぴったりの本だったりする。私、本の神様がいると思うんだよね」。
その気持ち、よくわかります。
この本も、きっと本の神様が出会わせてくれたのでしょう。
山の雑誌の編集者だった若菜さんが、これまでに登ってきた数々の山での記憶を記した本です。
『それは子どもの頃の初夏の記憶だったか、大人になってからの山での出来事だったか、定かではないけれども、私の内に昔からある、自然のなかで美しいものを見たときに決まって心中から湧き上がる、言葉にはしがたい懐かしみを伴った、喜びの感情であった。それは生きてきた長い年月の間に蓄積された感覚のようでもあり、生まれたときからもっている感情でもあるようで、あるいは期せずして現れるこれが、たましいのふるえなのかもしれない』
私も確かに若菜さんと同じような気持ちを味わったことがある、と思えます。
この地で暮らしている今、山に登らずとも、田んぼの畔を歩いている時に見つける小さな花や、雨上がりの夕方に山にかかる雲の隙間からのぞく桜色の空からも、その「ふるえ」を感じるのです。
鳥山百合子