「熊楠の星の時間」 中沢新一 講談社
明治期の大天才と呼ばれ、未だにその思考の深さの底が見えないと言われる孤高の博学者・南方熊楠の思考の一端を中沢新一が解説した本です。
中沢新一は熊楠関連の本を多数著していますが、これはその中でもとても読みやすい一冊。
日本全体が西洋文化をより優れたものとして吸収しようと躍起になっていた時代にあって、その博識を認められ大英博物館に自由に出入りできた熊楠が、晩年言い続けていたこと。それは、
「西洋的・科学的思考ではこの世界の仕組みを十全に説明することができない」
ということ。
それは熊楠がメインの研究対象としていた粘菌の生態が、生と死を分離して考える西洋科学の枠外にあるようなものだったのが大きな理由なのだそうです。つまり粘菌の世界の当たり前は「生きているのに死んでいる」「死んでいながら生きている」といったような摩訶不思議な状態。
そこで熊楠は西洋科学ではなく、仏教の華厳経に答えを見出します。その過程で生み出された南方マンダラは今でも多くの謎を含んでいると言われ、たくさんの人々を魅了し続けています。
うわ、長くなっちゃったし理屈っぽくなっちゃった。
最後にちょっとだけ付け加えたいことは、熊楠の面白いところは生涯一貫してアウトローの気風があるところ。日本人である熊楠に差別的な言動をしてきたイギリス人職員をぶっとばした(2度も)ことが原因で大英博物館にいられなくなるし、帰国しても出世や地位にはとんと興味がなく、在野の研究者としての生涯を全うする、そういったところも含めてとても面白い本です。
興味ある方はぜひ!