「THE NORTH WOODS」 大竹英洋 クレヴィス
「THE NORTH WOODS」は北米大陸に広がる森林地帯の呼称で、世界最大級の原生林の一つ。オオカミやバイソンをはじめ、ホッキョクグマやムースなど野生動物が多く生息し、7000年以上昔から、先住民が狩猟採集の暮らしを営んできた土地です。
写真家大竹英洋さんは20年以上この地をフィールドとし、撮影を続けてきました。その集大成としての写真集がこの「THE NORTH WOODS」です。
この一冊から、この土地に生きる動物たちの息遣いや、この土地に吹いているだろう風の音が聞こえてくるような気がします。
動物だけでなく、アカリスが岩の上に残した松ぼっくりの殻や、雪の上に残されたワタリガラスの羽の模様、湖に張ったガラスのような薄氷など、一見何気ない、でもこの地で重ねられている瞬間を映した写真の数々は、私たちが生きている大地は美しく尊いことを思い出させてくれます。
この土地の先住民アニシナべの民であるソファイア・ラブロースカスさんが、この写真集に文章を寄せていますが、その中に「彼は、わたしたちに、そして、多くのコミュニティとそのテリトリーに、いつも多大なる敬意をはらってきました」という一文があります。
アニシナべの民は、祖先からの知恵や教えを口伝えの物語として受け継いでおり、物語を語り、聞き入ることは未来への命綱だといいます。ソファイアさんは「その物語を信じてくれてありがとう」と大竹さんに伝えています。
その一文を読んだ時、この写真集から伝わってくるのは「THE NORTH WOODS」という土地の素晴らしさはもちろん、何よりも大竹さんの人間性なんだとあらためて思いました。
ある場所に足を踏み入れるとき、この地で脈々と引き継がれてきた営みや文化に敬意を払うこと。決して驕り高ぶらず、謙虚であること。目の前の人と丁寧に向き合うこと。その姿勢は人との関係を作り、互いを理解するためにとても大切なことのように思います。
「THE NORTH WOODS」。今この瞬間もこの土地で動物たちは生き、太古の昔から暮らし続けている人たちがいる。そう思うだけで、ちょっと前を向く元気をもらいます。