「100年たったら」 石井睦美文,あべ弘士絵 アリス館
出会った瞬間から、親しみをもったあの人。そばにいるとしっくりとして、心地よさを感じる友人。もしかしたらその人は、遠い昔どこかで一緒にすごしたことがある、大切な存在だったのかも? そんなことを思うようになったのは、この絵本を読んだからです。
ずっと昔、広い草原にたったひとりで暮らすライオンがいました。ほかに動物はなく、ライオンは草や虫を食べて飢えをしのいでいました。ある時、ライオンの目の前に、ぼろぼろの翼をしたちいさな旅鳥のヨナキウグイスが降り立ちます。鳥はライオンに自分を食べればよいといいますが、ライオンは断ります。その時から、ライオンと鳥の、穏やかで幸せな暮らしがはじまります。
けれどもヨナキウグイスに残された時間はわずかしかありませんでした。別れが迫ってきたとき、ずっと一緒にいたいというライオンに鳥は「100年たったら、またあえる」と言い残してこと切れます。
100年後、ライオンは貝に、鳥は波に生まれ変わっていました。また100年たったとき、ライオンはおばあさんに、鳥は赤いひなげしの花になっていました。
そうやって100年ごとに、ライオンと鳥は生まれ変わり、ある時は魚と漁師に、ある時はチョークと黒板に、あるときはリスと雪のひとひらに生まれ変わっていました。そして…。
生まれ変わり、再会しても、お互いのことは知らないままのライオンと鳥。それでも一緒にいると、なにかしら嬉しい気持ちになるのです。そうして流れていく長いながい時間を思うと、切なさの少し混じった“哀しい幸せ”を感じるのでした。