「峠」 司馬遼太郎 新潮社
友人から勧められた一冊。 友人曰く、生前の司馬遼太郎さんが「もっとも思い入れの強い作品は?」と聞かれ答えたのが、「燃えよ剣」とこの「峠」だったのだそうです。
司馬さんの著作は結構読んでいたつもりでいたのですが、これはアンテナから漏れていました。ただ読んでみると非常に面白い。派手さはあまりないので、司馬さんの著作の中でも渋い方の作品ですね。
主人公は河井継之助(かわいつぎのすけ)。幕末期の越後長岡藩家老になった人物です。
家老になる以前に江戸に学び、長岡藩で唯一と言っていいほどに鋭敏に時流を嗅ぎ取っていた人物だそうです。
幕末の動乱の最中、その継之助が思い描いたものは、自身が率いる長岡藩を、まるでスイスのように「武装中立国」とすること。これは横浜で出会ったスイス人商人との交流の中で生まれたアイデアでしたが、継之助は実際に当時最新鋭であったガットリング砲を購入し、「武力による中立」を目指します。
歴史の結果を言ってしまうと、薩長軍でも幕軍でもないという存在は、当時の時流に飲み込まれ、継之助が思い描いた「中立」は叶わず、長岡藩は幕軍の一員として戦わざるをえなくなります。継之助のアイデアは結果的に上手くいかなかったわけですが、それでもその先見性と、理想を実現化する行動力には、「こんな人が日本にいたのか」と驚かされます。
2枚目の写真は、継之助が考えていた「知識」と「行動」についての一部。「行動」しなければ「知識」など何の役にも立たん、というようなセリフはこの「峠」の中でなんども繰り返し出てくる言葉です。
継之助の書簡などから司馬遼太郎が導き出した言葉であるのでしょうが、なんとなく司馬さん自身の言葉を継之助にアテ書きしているようにも感じられます。