うちでは自家製醤油を造っている。
しかし、「自家製」と呼ぶには恥ずかしいほど、たくさんの方たちが関わっているお醤油だ。
醤油麹(こうじ)は、春先に醤油の醸造所から分けてもらう。到着後すぐに水と塩を加えて樽に入れ、月に一二度天地返しをして発酵を促す。そして霜が降りるころ、「搾り師さん」に搾ってもらう。
言葉にすると簡単だが、複雑な発酵技術や製造の管理を素人でも可能にしたこの方法を創りだし、大切に伝えてきた搾り師さんたちに感謝したい。
同じように仕込んでも、気象条件や保管場所などの影響で、毎年異なる醪(もろみ)ができあがる。その状態を理解し、保存性などを考慮して、一番良い状態の醤油が搾れるのは、彼らの豊富な経験と知識のお陰だ。また、次回より美味しい醤油を造るためのアドバイスも受けられる。
大豆と小麦、塩、水が原材料の、本物の醤油だ。
この醤油が美味しい。
外食するときは「マイ醤油」を持参することもある。味噌やお酢と並んで、僕らの暮らしで欠かせない調味料だ。
これまで、搾り師さんを呼んだり、こちらから行ったりして、搾ってもらっていた。暮らしで使う醤油を考えたとき、いつからか「自分で搾りたい」という想いが湧くようになった。
長野に住む知り合いの搾り師さんにお願いして、今年の醪を自分で搾らせてもらうことになった。搾りの現場は何度となく見ているが、最初から最後まで自分でやるのは初めてだった。搾り師さんから手ほどきを受け、周囲の手を借りて、どうにか無事に醤油を搾り終えることができた。
高知に戻ってきて、おりを取り除くために数日間放置し、瓶詰めする。
一年間使う醤油の完成だ。
自分で醪を管理することで、日々の生活で無理なく面倒を見られるし、責任を持つことができる。できた醤油は売りものではなく、あくまでも、暮らしの中で消費される。毎日の食事はもちろん、お返しや物々交換にも喜ばれ、重宝している。
最初に書いた通り、このお醤油にはいろんな人が関わっている。
重い樽の移動や洗い物のときはお手伝いが必要だし、一日に複数の樽を搾るときは他の人の作業を一緒にすることもある。お昼の準備や子どもたちの相手もしながら、一緒に時間を共有する。醤油がつないだ縁が生まれる。
そんな出会いも醤油造りの楽しみのひとつだ。