ふたつの言葉
正文さんと弥生さんが大切にしていた言葉があったそうです。
一つ目は、大石順教尼の教えでもあった「禍福一如(かふくいちにょ)」。
禍も幸福も表裏一体、心の持ちようや捉え方一つで変わるという意味です。
「両腕がないから不幸なのではない。両腕がないから学び知り得ることがある。大事なのはその心のあり方だ」と正文さんはよく話していたといいます。
言葉としては理解できても、それを体現するのが難しい。でも正文さんは体現していた。「だから、正文さんにそう言われたら何も言えなかった」と弥生さんは言います。
二つ目は「言葉少なく、真実を優しく語る」。
「実際やると、これってすごく難しいんです。自分のことをわかってもらおうと思ったらたくさん話すし、真実なんだけど尾ひれがついてたり、“優しく”が感傷的になったり。でも、正文さんには優しさがあって愛があるから、何を言われても素直に受け取れた。それはお互いにそうだった。どんな言い方をしても、お互いに変にとらなかった」と弥生さん。
毎晩、正文さんと弥生さんは向き合って座り、今日あったことや感じたことを話していたそうです。
「手伝って、と名前を呼ばれたけど、めんどくさいなと思って聞こえないふりをしていました。ごめんね」
弥生さんがそう言うと、正文さんは「自分でできたから、それ以上は呼ばなかった。大丈夫だよ」と答えたそうです。
そうやって、小さな「あれ?」を解決していった。相手に何か思うところがあっても、まあいいやと受け流すことは誰にでもある。でもその小さなことがいつの間にか大きくなって火種になったりする。だから、話す。正直に話すことは勇気も根気もいるけれど、お互いを芯から理解するためにとても大切な行為なのだと思います。
でも、そう言うのは容易い。大事なのはどう体現するかです。正文さんも弥生さんも実践、実動の人。そして正直で優しい。だからお二人の周りには話し、笑い、助けてくれる仲間たちが集うのだと思います。
今回の展覧会にも大阪から餅和枝さんが来て、物販の販売などお手伝いをしてくれました。各地で展覧会が開催されるたび、「手伝うよ!」と集まってきて、会場の設営や準備、販売等を助けてくれるのだそうです。「本当にありがたいことです」と弥生さんは話していました。