2020年2月

笹のいえ

軒先に掛かるもの

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うちの軒先にはいろんなものが干される。

日替わりで掛かるのは洗濯物だが、季節によって変化する干物(ほしもの)がある。
特に雨が少なく、空気が乾燥する晩秋から冬の間は、天日干しのベストシーズンだ。

11月。大豆を株ごと収穫してきて、ある程度まとめてから竹竿に吊るす。乾燥してくると、さやがパチパチと音を立て、丸々とした大豆が弾け出る。足元に転がる豆を見て、そろそろだなと脱穀作業をはじめる。

雨の降った次の日、立て掛けてある原木から顔を出す椎茸。
採りたてを調理してももちろん美味しいが、乾燥させたら旨みがギュッとなって、驚くほど美味しくなる。天日である程度乾燥させてから、薪ストーブの近くで仕上げする。どんこは保存が効くし、出汁としても欠かせない食材。食卓には一年中無くてはならない存在だ。

干柿は子どもたちのおやつや料理の甘みとして大活躍する。冷たく乾燥した冬の風にさらして柿を美味しくするのだが、今冬は例年に比べて暖かい日が多く、待てど暮らせど寒くならずに難儀した。気温や湿度が高いと吊るした柿にカビが来たり、虫がたかったりして、傷んでしまう。かと言って、いつまでも木に生らせておくと、鳥や獣たちに食べられたり、実が熟れすぎて干し柿には不向きだ。ギリギリまで待って、少し寒くなってきた時期にそれっと収穫し、皮を剥いて干した。
その後しばらく寒い日が続き美味しい干柿まであと少し、というところで、また暖かくなってしまった。結局途中で干すのを断念し、冷凍庫に保存した。

大根が大量にあるときは、自家製沢庵を作る。二本ひと組になるように葉っぱを縛って、軒先に干す。適度に水分が抜けて全体がしんなりとしてきたら、樽に並べる。塩とぬかを入れ、重石をして、一二ヶ月待つのが一般的な作り方。うちの場合は、自家製の柿酢と砂糖を追加して、「なんちゃってたくあん」にする。これなら一日二日で水が上がり、食べられる。

木で柚子が黄色く熟すころ、収穫したものを使って「ゆべし」を作る。
ゆべしと聞くとクルミなどを使った餅菓子をイメージする方が多いが、うちで作るのは別のもの。
柚子の中身を取り出し、味噌とナッツや胡麻などを混ぜたものを詰めて蒸し、冷めたら和紙などで包んで干す(写真)。二週間後くらいから食べられ、最初は柔らかく柚子の香りもフレッシュな味わいが楽しめる。数ヶ月経つとさらに水分が抜け滋味深い風味になる。スライスすれば、ご飯や日本酒と良く合う珍味だ。

それから、茹でた(蒸した)サツマイモを薄く切って乾燥させた、ほしかも作りたい。寒い間にあれも干したい、これも軒先に、と欲が出る。

今シーズンは、いつ冬が来たの?というくらい暖かい日が続き、そのまま春が来たという印象だ。例年なら一番寒さの厳しい2月になっても気温が高く、過ごしやすい日が多い。それはそれでとてもありがたいことだが、寒い季節には寒いからこそ美味しくなるもの、うまくいくことがある。

 

*子嶺麻流「なんちゃってたくあん」作り方

今日の保存食

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私の一冊

古川佳代子

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「想像ラジオ」 いとうせいこう 河出書房新社

小説家、タレント、作詞家、俳優…。様々な肩書を持ついとうせいこう氏の小説には、不思議な浮遊感があるように思います。

東日本大震災から2年後の2013年3月11日に発行された本書は、いとうさんらしいテイストはしっかりありながら、深く心に染みる鎮魂の物語でした。「想像」という電波を使って「あなたの想像力の中」だけで聞こえるというラジオ番組が、深夜2時46分、DJアークによって突然始まります。アークがいるのは海沿いの小さな町を見下ろす杉の木のてっぺん。彼も震災により命を落としているらしいのですが…。

たくさんの方が亡くなりましたが、その死は数で語るべきものではなく、一人ひとりの死であることを忘れてはなりません。一人ひとりの死を悼み、死を忘れるのではなく、死とともに生きていくことの難しさと大切さが静かに伝わってくる作品です。

古川佳代子

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くだらな土佐弁辞典

へんしも

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へんしも

【意味】すぐに, 急いで, 一刻も早く

 

【例】 「へんしも出にゃいかん!バスに遅れる 」

 

*土佐町の藤田純子さんが教えてくれた土佐弁「へんしも」。例文も純子先生です。

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私の一冊

川村房子

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「大家さんと僕  これから」 矢部太郎 新潮社

お笑い芸人のカラテカの矢部太郎さんが大家さんとの生活を書いた漫画。

ほのぼのとしたやりとりに、クスクスと笑わされながら読んだことがあったのですが、大家さんが亡くなった後に書いたという「これから」。

木造一軒家の二階を間借りしており、そこの大家さんは高齢で小柄で上品。「ごきげんよう」と挨拶し、お買い物は伊勢丹でという。生まれながらにしてお嬢さんのまま過ごしてきた大家さんと作者のやり取りが絶妙。

大家さんが入院しもう戻ることはできないだろうと知った。悲しい気持ちのなか、先輩が「大家さんはただ下ってるんやない。ゆっくりと景色を楽しみながら下ってるんや。急いだ登りでは見えなかった景色を違う角度からゆっくり見てるんや」と。

なるほど…。

そういう年のとり方。いいですねえー。

川村房子

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2月22日と23日は、今まで話し合ってきたことや訪れた場所を元に、絵本のお話の軸になる絵の数々を描いた下田さん。

今までぼんやりとしか見えていなかった絵本のイメージが、ついに輪郭を現し始めました!

まだ下絵の段階ですが、良いものになるだろう予感がしています。

最初にもお伝えしましたが、今製作している土佐町の絵本は、

・10年20年と長く読み継がれる絵本
・子どもも大人も楽しめるような内容でありながら、深く大事なものを伝えるような絵本
・土佐町の方々が「これは自分たちの絵本だ」と心から感じられる絵本

そういったものを目標にしています。

 

 

「2年前に初めて土佐町に来て、土佐町の人たちの絵を描いた時から、ちゃんと(今に)つながっていた。絵本というかたちでつながってよかった」と下田さんが話してくれました。

その時は気づかなくても、今、目の前で向き合っていることはきっとどこかにつながっていく。その「どこか」にたどり着くことが今からとても楽しみです。

お話を聞かせてくれたみなさん、ご協力いただいたみなさん、「下田さんや!」と飛び跳ねるように迎えてくれた子どもたち…。本当にありがとうございました!

土佐町の絵本、楽しみにしていてくださいね!

 

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私の一冊

石川拓也

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「SLEEPING BY THE MISSISSIPPI」 著者:Alec Soth   発行:Steidl

アメリカ人写真家アレック・ソス(Alec Soth)の写真集です。

アメリカのミシシッピ川流域の、そこに住む人々や風景を大判カメラで撮影した一冊です。

異論もあるかもしれませんが、僕はアレック・ソスの肩の力が抜けたやる気のなさが好きです。やる気のなさと言うと語弊があるかもしれませんが、強い感情や緊張感や超絶技法とか計算され尽くした構図とか、そういうのナシで、「そのまま撮りました〜」みたいな感じ。

これを自分に置き換えると、できそうな気がしてできないので好きなのです。

ゆるいリズムと低いトーンで心地よい音楽が流れているような写真集です。

 

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2020年2月21日、本日も快晴なり!

宿泊先の瀬戸コミュニティーセンターを後にし、能地地区の翠ヶ滝(みどりがたき)へ向かいました。

昔、弘法大師空海が霊場を開くため訪れたという伝説が残る翠ヶ滝。(「土佐町史」と「土佐町の民話」にそのお話が掲載されています)

翠ヶ滝

梅が咲き、ふきのとうを足元に見つけながら向かった翠ヶ滝は、お堂の上の滝口から弧を描くように水を落とし、その下を潜り抜けるように歩くことができます。

滝を抜け、急な石段を登って行くと、狭い洞窟のような場所に入って行きます。行き当たった先には翠ヶ滝を臨む狭い空間があり、小さな祠がふたつあります。頭を屈め、大人が2〜3人立つのがやっとというその空間を空海が訪れ、滝を見つめていたのかもしれません。

これは「りゅうのひげ」と呼ばれる青い実。土佐町の多くの子どもたちが知っています。昔は竹で作った豆鉄砲の玉にして飛ばして遊んでいたそうです。なんて綺麗な青色なのでしょう。下田さんの新作絵本「死んだかいぞく」の海の色に似ています。「すごく綺麗な青だね」と下田さん。りゅうのひげの葉はひょろりと細長く、地面に群れるように生えています。葉が龍のひげのように見えるから、この名前がついたのでしょうか?

次は上津川の高橋通世さんのお家へ。山の暮らしの達人である通世さんから、山のことや猟についてのお話を聞きました。通世さんは自ら捕らえたイノシシで作ったしし汁とすき焼きをテーブルに用意して迎えてくれました。

お土産にヒヨドリと通世さんが収穫したはちみつをいただきました。ヒヨドリは「山男の味やきね!」とのこと。

高橋通世さんと

帰り道、どんぐりに立ち寄りました。下田さんは、どんぐりのメンバーさんのシルクスクリーンの技術がどんどん上がっていることを、いつも楽しみに応援してくれています。今年のデザインも考え中です。どうぞお楽しみに!

(「下田昌克さんがやってきた!2020年(5.6日目)」に続く)

 

 

翠ヶ滝 (能地)

 

 

 

 

 

 

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私の一冊

川村房子

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「コンビニ人間」 村田沙耶香 文藝春秋

大学を卒業して何度か面接を受けるがしっくりこず、コンビニのバイトを続けている古倉恵子36歳。

子どもの頃から、自分の行動や考えが周りとうまくかみ合わず、変わっている子と云われてプライベートな会話もなく一人過ごした。

家族や努力して得た大学時代の友人の言葉に合わせようとしても、云うことなすことがかみ合わない。

コンビニのバイトで、はじめてこの場所が正常な自分の世界だと信じられ、毎日を安らかな眠りに誘い込んでくれる。

ひょんなことで知り合った男性は一緒に住んでいるというよりは飼っている状態。全くなにもしないもちろん職業もなし。それでも男性と住んでいるということでホッとする家族がいる。

迷惑をかけられどうしの男性の妹からの電話に、

「ほら、私達って動物だから増えたほうがいいんじゃないですか。交尾をどんどんして人類を繁栄させるのに協力した方がいいと思いますか?」

「勘弁してくださいよ・・・・あんたらみたいな遺伝子残さないでください。それが一番人類のためですんで」

私ならどう云うろう。もし家族にもったらどう対処するろう。答えは出ない。

川村房子

 

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2020年2月18日より、土佐町の絵本を作るため下田昌克さんが土佐町に滞在しています。

2月2o日、3日目。

まず地蔵寺立石へ向かいました。地蔵寺地区で育った山下太郎さんが「子どもの頃、あの岩のてっぺんまで登って飛び込んだ」と案内してくれました。

 

岩の元まで泳いで行って、クライミングさながらに岩を這うように登り、大きな岩と手前の岩のわずかな隙間に飛び込んだのだそう!

「手前の岩の下はくぼんでいて、魚がいっぱいおった」「岩の裏にはでっかい蜂の巣があって、シシバチがブンブンうなって飛んでいた。その横をそ〜っとよじ登り、飛び込んだ」

浅瀬もあり、飛び込めるような深いところもあり、この場所で遊んでいた子どもたちの歓声が聞こえてくるようでした。

 

地蔵寺ふれあいキャンプ場へいき、五右衛門風呂を見せてもらいました。地蔵寺地区の方たちが作った手作りのお風呂で、焚き口の横には薪が積んであります。家のお風呂が薪風呂の家もまだ多い土佐町。このお風呂も絵本に登場するかも…?

 

 

午後は出版会社の方たちとお会いしました。印刷の手法や絵本の形など、どうしたら面白くて楽しいものができるかという視点で話が進みます。その上で「こういうやり方もできると思う」とアドバイスをしてくださるので、へえー!なるほど!と思うこともたくさんありました。

 

 

土佐町小学校の放課後子ども教室へ。

2年半前に下田さんと一緒に絵を描いた子どもたちもいて、そばに走り寄ってくる子どもたち。皆、大きくなった!今は3年生になっている子どもたちは、大きくなった分、ちょっと照れ臭そうでした。

子どもたちに絵本の中に載せたい山の動物や、土佐町の好きな場所を教えてもらいました。

ガマガエル、たぬき、うさぎ、イノシシ、へび…。

次から次へと飛び出します。元気いっぱい1年生が、たくさんの話を聞かせてくれました。

この町の「本物」をたくさん味わいながら育っていってほしいと子どもたちの顔を見ながらあらためて感じました。実際に会った人、実際に行った場所、実際にあった出来事から感じること…。本物に勝る体験はありません。

子どもたちが聞かせてくれたことが絵本にどんな風に現れるか、楽しみにしていてくださいね!

 

 

毎年、伝統行事「虫送り」が行われている宮古野地区へ。田んぼの間に立つ鳥居を通り、大きな2本の杉を見上げます。「この場所はイヤシロチやきね」と言っていた人がいました。イヤシロチとは「土地の気の流れがいいところ」という意味だそうです。何だかわかるような気がします。

昔はそういった場所に神社やお宮を建ててきたのだそうです。

 

 

夜は、宿泊先である瀬戸コミュニティーセンターへ。黒丸地区のお母さんが作ってくれたゼンマイの煮物やお漬物、美味しいお鍋…。いつも温かく迎えてくださって感謝しています。ありがとうございます!

こういった出来事が絵本の中にどのように編みこまれていくのでしょうか?

本当に楽しみです!

 

 

 

 

(「下田昌克さんがやってきた!2020年(4日目)」に続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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私の一冊

古川佳代子

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「ボクの音楽武者修行」 小澤征爾 新潮文庫

音楽それもクラシックとなると門外漢で大した知識もないのですが、小澤征爾さんは大好きな指揮者です。

とはいえ、最初に小澤さんを知ったのはその華麗なる指揮から紡ぎだされる音楽ではなく、この旅行記でした。

唯一の財産であるスクーターとともに貨物船に乗り、辿りついたフランスをふりだしに、アメリカ、ドイツそして日本に帰国するまでの二年半の日々。その間の出来事が“世界の小澤”になる前の26歳の青年であった小澤さんによって素朴に記されています。そのなんのてらいもない、実直に綴られた文章のなんて魅力的なことでしょう。

読み終わって即レコードを買い求め、クラシック音楽を聞くきっかけをくれた思い出の一冊です。

古川佳代子

 

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