2020年2月

山峡のおぼろ

山の音や声

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山村育ちの友人たちと話している時、よく出る話題は、山の村ならではの音や、鳥や虫の声などのことである。

まず春。
庭の池の氷が割れる音を聞けば、厳しい冬も終りに近いと、気分が先へ開ける。
そして陽射しが暖かくなると、あの家この家から、冬の間に凍った畑の土を掘り返す鍬の音が聞こえてくる。
晩春には鶯の声を聞いて、頭の中でも体感でも春が定着してくる。

夏の夜、忘れ得ぬのは唐黍の葉ずれの音である。風の強い時はすごいほどだった。
殆どの家で唐黍を植えていたが、その葉が伸びてくると、風に揺られてこすれ合い、交響曲となる。風につれて、遠くの家の畑から段々と近寄り、我家の畑で踊るように音をたて、次第に遠ざかる。暗闇の中だけに、怖い思いがするくらいだった。

秋はなんと言っても脱穀の音である。別の機会にも書いたが、爽やかな秋空の下での収穫賛美歌とでも言えるものだった。
もちろん、すず虫、くつわ虫の鳴き声も、秋の夜の主役である。その主役の音にまじってこおろぎが“俺も居るぜ”とばかりに存在を主張していた。

そして冬。
最近は雪が余り積もらないが、私の子供の頃は、30センチの積雪は珍しくなかった。そんな日はよく、「尺は積もったのう」という会話が交わされた。
雪が生み出す音も今は懐かしい。家を守る家囲いの木の枝が、雪の重みで折れる鋭い音や、屋根に積もった雪がどさっと落ちる重苦しい音も、まだ耳に残っている。

年中通して聞こえたのはー。
これも別記したが、や湧き水から引いていた懸樋の水の音である。
炊事場の水桶や池に日夜落ちる水音は、生活の伴奏曲とでも言えるものだった。

水といえば渓流の瀬音である。特に夜はその音が家にまで届いていた。高知市から来た客などは眠りをさまたげられていた。その渓流で回る水車のギーッという音は、村の人々の食生活を支えていた。夜は風向きによっては、米を搗く杵のトントンという音も、やさしいリズムを伴って届いてきた。

朝の目ざまし時計代りの役割を担っていたのは、家々から聞こえる鶏の声である。どの家かの“一番鷄”が鳴けば、次は家という家から一斉に鳴き声が湧いた。それで目をさますのは人間だけでなく、なぜか牛が鳴いた。鶏ほどではないが、次々と鳴き声が拡がってゆく朝もあった。

地球温暖化で、色んな面での変化、変動が言われる。それに伴って、「あの頃は、こうだった」という思いが、さまざまな面で浮かんでくる。

 

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私の一冊

西野内小代

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「雪男は向こうからやって来た」 角幡唯介 集英社文庫

「私の一冊」で既に紹介させていただいた「空白の5マイル」「極夜行」の作者の作品で、第31回新田次郎文学賞を受賞しています。

雪男の捜索隊に誘われ参加した時の記録です。

女性として初めてエベレストに登頂した「田部井淳子さん」も雪男を目撃した登山家の一人だそうです。

雪男の足跡を撮影した登山家等丁寧に取材を重ね、その上で調査隊として、更にもう一度個人として納得のいくまで雪男の痕跡を探し求めた記録です。

最後まで期待を裏切らない展開でまとめられており、偉大な探検家たちの苦悩についての掘り下げにも手を抜いていません。

果たして雪男の痕跡は見つかるのか…?

西野内小代

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ベンチ上面

 

土佐町の人々が座って豊かな時を過ごすために。土佐町ベンチプロジェクト、進行中です。

嶺北でとれた木材を使い、土佐町の職人さんにベンチを作ってもらいました。土佐町の人々が座って豊かな時を過ごすために。

2020年2月現在、40個の木製ベンチを製作し、土佐町のあちこちに設置中です。

 

アメリカのグリーンベンチ

どこで読んだのかもう記憶は定かでないのですが、とあるアメリカの町の話を読みました。

昔の話なのですが、そこでは「グリーンベンチ」と呼ばれる、緑のベンチが町中に設置されていたのだというお話。

町のある人が自分のお店の前にベンチを置き、それに倣って他の人が置き‥それが連鎖して町の中にたくさんのベンチがあったそうです。

そのベンチは町の人たちの憩いの場所を提供し、人々がより多くの時間をベンチに座って過ごすようになり、「ベンチの町」として観光客がわざわざそのために訪れるような状況まで出現していたそうなのです。

それ、そのベンチ、土佐町が土佐町なりにやってみたいよね。それがこの「土佐町ベンチプロジェクト」のはじまりはじまりです。

 

青木幹勇記念館:矢田泰蔵さん, 美佐子さん

 

スエヒロ前

 

パンダ公園:町田早百合さん, 碧峰ちゃん

 

大渕:澤田泰年さん・ココちゃん

 

みつば保育園

 

Aコープ:隅田育男さん,  窪内克さん

 

今西時計店前バス停:今西三宜さん, 池添堯さん

 

さめうら荘テラス

 

上津川・茅葺き屋根の家の軒先:高橋通世さん, 和田文隆さん

 

町の人々がより豊かな時を過ごすために。

買い物袋を持ったまま立ち話をしているお母さん方、バスを待つおじいちゃんおばあちゃん、小学校の図書館で本を読む子供たち、土佐町のすべての方々に座っていただきたいベンチです。

今までは素通りしていた場所にベンチがあることで、そこがおしゃべりの場所になったり、憩いの場所になったり。

なかなか計ったりすることはできないのですが、コミュニケーションの量と質がさらに良くなるといいなと、とさちょうものがたり編集部は考えました。

 

ベンチ作りは町の方々の手で

この記事ではおおまかに書きますが(次回から各工程の詳しい報告をお伝えします)、2019年3月にモデルとなる最初のひとつを、町の職人さんである川田康富さんに作ってもらいました。

そして高知県の担当者との打合せを経て(このベンチは県の「木の香るまちづくり推進事業」の補助金で作られています)、2019年11月には町内7人の大工さんや木工職人さんに集まっていただきチームとして製作をしてもらいました。

完成したベンチには全て土佐町のロゴマークが焼印されています。この作業を受け持ってくれたのは、シルクスクリーンでもお馴染みの土佐町の障がい者支援施設どんぐりと大豊町のファースト。

そして県の担当者さんが「木の香るまちづくり推進事業」の焼印を押して完成しました。

2020年2月時点では、完成したベンチを町内約30ヶ所に設置中です。

みなさま、町でこのベンチを見つけた際にはぜひ座ってみてください! 嶺北産の木材を使って町の職人さんたちが腕をふるったベンチの座り心地を確かめながら、親しい方々と豊かな時を過ごしていただけたら嬉しいです!

次回からは各工程の詳しい記事に続きます。

 

川田康富・美都子・佳宗・真靖 (上ノ土居)

7人の職人さん

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私の一冊

古川佳代子

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「ライオンと魔女  ナルニア国ものがたり1」 Ⅽ.S.ルイス作 瀬田貞二訳 岩波書店

少しずつ長い物語にも手を伸ばし始めた2年生の夏休み前、一冊の本が目に留まりました。

二人の女の子を背に乗せ疾走するライオンと、それを見守る怪しげな生き物が描かれた鮮やかなオレンジ色の表紙。魅惑的なタイトルは『ライオンと魔女』。これは、間違いなく面白い本だ!

帰宅してすぐに本を開きました。子どもだけの疎開、衣装だんすの向こうに広がる異世界、強い力を持つ白い魔女、ハラハラドキドキの攻防…。何とか読み通すことはできましたが、「この物語の本当の面白さをくみ取ることはできなかった」と感じ、「本に負けた!悔しい」と母親に告げたあの時の敗北感は、今でもリアルに思い出せます。

本を楽しむには文字が読めるだけではだめだということ。読解力や物語の背負う世界観を理解する力がないと、隅から隅まで堪能することはできないことに気が付かされたのがこの『ライオンと魔女』でした。本棚でこの本を見るたび嫌われているような心地がして、足早に前を通り過ぎるのでした。

再び『ライオンと魔女』を手にしたのは5年生の夏。なんとなく本に呼ばれた気がしたのです。恐る恐る本を開き、再び訪ったナルニア国の楽しいことと言ったらありません。ルーシーに共感し、アスランに憧れ、タムナスさんの悲劇に心を痛め、エドマンドが許されたことをうれしく思い…。ナルニア国に住人の一人として物語を生き、冒険を心ゆくまで楽しみ、余韻に浸りながらなんとも幸せな気持ちで本を閉じたときの満足感。

あきらめなくてよかった、読み直してよかったとしみじみ思ったことでした。

古川佳代子

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土佐町・相川の棚田

越知町・浅尾沈下橋

黒潮町・入野海岸

 

クリエイティブディレクター:吉冨慎作 デザイン:森澤良典 写真:石川拓也

 

リョーマの休日〜自然&体験キャンペーン〜

 

高知県の観光ポスター2020年度バージョンを、とさちょうものがたりの石川が撮影しました。

ロケ地は上から順に、

・相川の棚田 (土佐町)

・浅尾沈下橋 (越知町)

・入野海岸  (黒潮町)

です。撮影現場ではそれぞれの町の方々に大変お世話になりました!改めて感謝をお伝えいたします。

ポスターの他にものぼりや印刷物など様々な形態で、県内・県外のあちこちにこれから貼り出される予定です。

高知県の自然の美しさが少しでも伝わり、目にした方々に楽しんでいただけたらうれしく思います!

 

 

 

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私の一冊

田岡三代

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 「すぐ死ぬんだから」 内館牧子 講談社

78歳の忍ハナは、60代に見間違えられるほど、身なりに気をつけている。夫は、そんなハナのことを誇りに思っている。

優しく完璧と思われたその夫が倒れた事から、ハナの人生が180度変わっていく。

最後に出てくる「泪割り」。ハイボールにワサビを入れた飲み物で乾杯…のシーンが何とも切なく頼もしい。

田岡三代

 

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