稲刈りのお手伝いに行くことになった。
10月も後半になって、国道沿いなど地域の中でも比較的標高が低い場所の田んぼはあらかた収穫が終わっていたが、山の上の方にある棚田は11月に入ってから稲刈りというところもある。僕は軽トラの助手席に乗せてもらって、目当ての田んぼまで名高山をコトコト登って行った。
朝9時過ぎ、周りは白い霧で覆われていて眼下に広がっているはずの景色もほとんど見えなかった。風もなく漂う濃霧の中に立っていると、夢と現実の狭間にいるようなぼんやりとした感覚になる。
数名が集まり、作業開始。まずは機械が刈れない田んぼの端っこや畦周りの稲を手鎌で刈っていく。稲や草に朝露が付き、ヤッケを濡らすが構わずわけ入って行く。ザクザクと刈られていく稲が耳に心地いい。
一時間ほどして日が高くなると、気温が上がり、霧が徐々に晴れてきた。上着を脱いで、向かいの山々を眺める。
手刈りが終わると、今度はコンバインが田んぼに入り、一気に稲を刈っていく。今シーズン新しく導入したというこの機種には脱穀した後、藁をまとめて括り排出するアタッチメントが付いている。「ガチャン!」という大きな音と共に投げ出され、ポンと田面に座る。小さなティピのような形で、たくさん並ぶと田んぼは小人の村のようになった。この後さらに天日に晒し乾燥させて、牛の餌になる。
集まった人たちは、田んぼの持ち主さんの友人や親類。皆さん手際良く動き、あれよあれよとお米が収穫されていった。
休憩中、かつての稲刈りの様子ややり方などを聞いた。機械が無い時代の苦労から楽しみ、山川での遊びなど、歳が進むに連れて、近代化していく暮らしや生活の変化が興味深い。話題が子ども時代に及ぶと、川では何が釣れたとか、どんな遊びをしたとかで盛り上がった。その表情はどれも嬉しそうだ。少しの間少年に戻った彼らから語られるのは、自分たちだけの「とさちょうものがたり」だった。
天気の良さも手伝って、五枚二反半の稲刈りは無事終了した。