「はたらく① 本屋」矢萩多聞文,吉田亮人写真 アムブックス
瀬戸内アートブックフェアで出展していた、装丁家矢萩多聞さんのブースで購入した一冊です。アートブックフェアに合わせて作ったというこの本は、手にするとぷーんとインクの匂いがしてきます。前日まで夜な夜な糸で綴り、一冊ずつ手で製本していたそうです。まさに「生まれたての本」という佇まいをした本でした。
大阪の本屋で働く「みのるさん」の1日を追ったこの本は、みのるさんが本を読みながら田んぼの脇道を通って、お店へ歩いて出勤するところから始まります。
なじみのお客さんが今日発売の雑誌を買いに来たり、女の子が買いに来た算数ドリルを一緒に探したり、お昼には近所のお店へ黒パンを買いに行くみのるさん。小学生の時からのお客さんと今一緒に働いていたり、12年間やっているけれどプレゼント包装はまだうまくできなかったり…。そして夜10時にお店のシャッターは閉まります。
こういったことはきっと誰にでもあって、身の回りに当たり前のようにあることかもしれません。でも、その当たり前のようなことが実は特別で、私たちの毎日は、目の前の人たちとの関係や何気ないものごとの重なりでできているんだと実感します。
世の中は、一人ひとりの人の存在で成り立っている。
そう思うと目の前の風景がまた違ったものに見えてくる気がするのです。
多聞さんの本を作ることへの愛情と熱が伝わってくるこの一冊。
「はたらく」シリーズ、次の号がとても楽しみです。
鳥山百合子