川村房子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

川村房子

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「幹事のアッコちゃん」 柚木麻子 双葉社

この本はアッコちゃんシリーズ3作目。読むと元気になる小説と言われます。気軽に読めて、次の日に繰り越しても続きがすぐに思い浮かびます。

アッコさんは「東京ポトフ&スムージー」の会社社長で、本名黒川敦子。おかっぱ頭で見上げるような大女。つい歌手の和田アキ子さんを思いうかべてしまうけれど、とろけるような笑みを浮かべるとつい引き込まれてしまう。

今回は、忘年会の幹事役をまかされ、文句ばっかり云いながら、昔からのやり方に従わざるを得ないと思っている、妙に冷めた男性新入社員を「今日から4日間私の忘年会に参加なさい」と誘う。そのなかでプロデュースの極意を授けていく。可愛くて、やさしく包容力のある女性。

他に「アンチアッコちゃん」「けいこのアッコちゃん」が掲載。背中をバシッと叩いて導いてくれます。

 

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 「居酒屋ぼったくり」 秋川滝美 星雲社

最近、それを目当てに探しているわけではないのに、料理を含めて行きかう人情…、そんな本に巡り合います。

両親が亡くなって、妹の薫と店を継いだ美音。「ぼったくり」という店名は父親がつけた。「誰にでも買えるような酒や、どこの家庭でも出てくるような料理で金を取るうちの店は、もうそれだけでぼったくりだ」という。そんな自嘲めいた台詞の裏には、いつだって父の料理人としての吟じが隠されていた。

そこに通ってくる常連さんは、丁寧に心をこめて作ってくれている家庭料理の数々だと知っている。そして全国のうまい酒。口に含んだとたん笑みがこぼれる。

店を営む姉妹と客たちの話題は、酒や料理や誰かの困りごと。悩みを抱えて暖簾をくぐった人は美味しいものと、人情に癒されて知らず知らずのうちに肩の力を抜く。居酒屋「ぼったくり」はそんな店である、と文中に書かれている。

心のあたたまる一冊です。

 

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「時生」 東野圭吾 講談社

東野圭吾のファンの次男の嫁さんが、このお正月の帰省にもって帰ってくれたなかの一冊です。

「時生」は主人公、宮本拓実のひとり息子。小学校、中学校の終わりころまでは元気で過ごしていた。

遺伝性の難病で、世界でも例が少なく治療法も見つかっていない。そのリスクは大きいといわれていたけれど育てるときめた。

中学生の終わりにその症状があらわれた。医師から、わかれの時が近づいていることを告げられる。

ふいに拓実は思い出した…。俺は、昔、時生に出会った。

俺は親に捨てられ、養父母にも裏切られ、どうしようもない毎日を過ごしていた。そんな時にあらわれた青年「トキオ」。読んでいてもいらいらしてしまうほどの拓実のやさぐれた毎日に寄り添うトキオ。

突然いなくなった拓実の恋人をトキオと追っていく。そして捨てざるを得なかった拓実の父や母の秘密もあきらかになっていく。

時生を通して過去・現在・未来が交差する。

 

ここから全くの余談です。

高知新聞の俳句欄に小、中の同級生が掲載されています。同級生というだけでにんまりしてしまいますねえ。

先日は第一席でした。

字花瀬 捨て田となりや 七日粥     光富充

よく出てますので、是非みてください。

 

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「青空と逃げる」 辻村深月 中央公論新社

深夜一本の電話が平凡な日常を突然奪った。追い詰められていく母「早苗」と息子「力」。

舞台は知人を頼って逃げた高知県四万十からはじまる。最近選んでるわけじゃないのに、小説の中に高知県の出てる場面にいきあう。やっぱりちょっとうれしくて頬がゆるんでしまう。

その四万十に、父親の行き先を尋ねてきた怪しい男たち。お世話になった方々へのお礼も伝えられずに、必要最小限の荷物だけをもって、恐怖におびえながら逃避行を続ける早苗と力。

高知県の四万十、兵庫県の家島、大分県の別府。

秋田県の仙台に父親がいるらしいと知って、羽田空港をさけ名古屋空港からと思ったが、早苗が風邪で倒れこんでしまう。逃避行の間に、右に左にゆれながらも成長していく力の姿に胸うたれる。思春期の感性に、年甲斐も無くつい入り込んでしまう。

青空から逃げるのではなく、青空と一緒に逃げる。

救いと再生の物語。

 

 

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「通天閣」 西加奈子 筑摩書房

どうしょうもない人々が醸し出す得体の知れないエネルギーが溢れている大阪。帯に「えらいこっちゃ!」と書かれているのを見て、つい手がのびました。

夢を失いつつ町工場で働く中年男の俺。恋人に見捨てられてしまっても、まだすがりついていたいスナックで働く若い女。ある雪がヒラヒラと舞う夜、通天閣で自殺しようとしているダマー。俺は「死ぬなー」と言いながら、その言葉を俺に言って欲しいと思った。お互い気付いてはいないが、スナックで働く女は、昔、子連れの女と所帯を持った時のガキ。

ドラマチックかと思いきや大阪らしいオチもある。通天閣を舞台に起こった大騒動。

 

お正月明け、次男の家に冬休み中の孫の守りにいったとき、大阪のローカル番組だったと思う。通天閣下の立ち食いうどん屋さんが放映されていた。一杯170円。出汁のきいたうどんで、16年間値上げなしだという。一日も休み無く6年間通っている男性など、さまざまな生き様をもつ人ばかりで、コロナの間も閉めることはできなかったと店主。

本を読み終えたばかりだったので、身につまされた。

今、通天閣では耐震工事とあわせて、地上から4メートルの滑り台を造っているらしい。「えっ!そこにすべりだい」と思ったけれど、大阪らしいといえば大阪らしいと思いませんか?

 

 

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「ギフト」 日明恩 双葉社

室戸での法事があったとき、お茶碗にこれでもかというほどの山もりのごはんをおまつりしてといわれ、庭先の隅においた。それは、その辺りにうろついている餓鬼のための供養だと教えてくれた。

この小説はある事件がきっかけで退職した元刑事と、幼い頃より死者が見える少年があることで知り合っていく。人目をさけて生活している二人。少年は幼い頃より死者がみえた。少年の前に現れる死者である老女は、頭とからだの左側がぐちゃぐちゃに砕け、血まみれの姿で。7歳の時に池に落ちて死んでしまった少女は、生まれたばかりの弟が心配で19年たっても、ずぶぬれの姿で、この世に留まっている。少年に触れていると死者が見える。

その他にも様々な事情で、この世に留まる死者の未練と謎を二人で解き明かしていく。

昔、文中にもある「シックスセンス」という映画を見た時、その大どんでん返しに息をのみ、誰かに話したくてたまらなかったことを思い出した。

 

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「鴨川食堂」 柏井壽 小学館

京都東本願寺の近くに、「鴨川食堂」をいとなんでいる父と娘、そして一匹のねこがいます。

店の体をなしていない二階建てのしもた屋で、かつて看板とショーウィンドーがあったようだとはいえ、空き家のような寂寞感はなく、人の温もりを持つ現役の店らしき空気に包まれていて何とも不思議です。

食に関する探偵社も兼ねていて、娘の聞き取りで父親が調べて、その味を再現する。

「料理春秋」という本に書かれている一行広告。連絡先も何も書いていません。「わかりやすい広告にしたら」といえば「それほど来てもろてもこまります」「ご縁があればたどりついてくれます」という。

はじめてのお客はおまかせのみという料理の内容も、食探しを引き受ける父と娘のやりとりも、そこに尋ねてくるお客さんも味があってあたたかくてほっこりさせてくれます。

第6話まであるのですが、土佐の鯖寿司の話も出てきます。

この作者、小説は初刊行だそうです。夜、眠るまでのひとときにはぴったりというか、土佐弁でいうぼっちりでした。

 

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「知っていますか?SDGs」 ささら書房 日本ユニセフ協会

今年のはじめ頃やったろうか。SDGsという言葉を聞いたのは。どういう意味かわからず、ちんぷんかんです。

それが近頃ではよく見たり聞いたりするようになり、少しはわかった…と思ってもすぐに抜けていってしまいます。

図書館にいくと“SDG”入門書があり、借りてきました。

将来にむけて地球上であらゆる人たちが、より幸せに生活していけるようにと国連で採択された目標。

S ustainble (持続が可能な)
D evelopment(開発)
G oals(目標)

ユニセフと一緒に17の目標をかかげて、世界のどこに生まれてもその命と健康を守るために、2030年のゴールをめざしています。

覚えることより忘れることが多いこの頃ですが、

「SDGs」…できる事を少しずつ…を心にとめておきたい。

 

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「幻の光」 宮本輝 新潮社

160ページほどに4編からなる短編集です。

第1篇は表題の「幻のひかり」では兵庫県の尼崎から、子連れで奥能登の海辺の町に嫁いだ女性。尼崎での底辺の暮らしの日々。結婚した夫は幼なじみで、子どもが生まれて3ヶ月が経ったある日、鉄道自殺をしたと知らせが入った。轢かれる瞬間まで後ろをふりむかなかったという。

能登での平穏な日々のなかでも、独り言をいっては死んだ前夫に語りかけてしまう。何をどう考えてもわからない死に方に心が冷とうなっていく一方で、何かにのめりこんで酔いしれるような不思議な歓びをはっきりと感じてしまう。その心情を想像することもできないけれど、これが「幻のひかり」なのかとつい思ってしまった。

こんな短編集があるかと思えば、「流転の海」は第9部までを40年近くかかって書き上げた小説もあります。ほんとに魅力的な作家です。

今月に入ってからの新聞に、「流転の海」の世界を切り取った短編と傑作エッセイが収録されたもうひとつの「流転の海」の本が出たと載っていました。本屋さんに行ってみなくては…。

 

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「老いる自分をゆるしてあげる。」 上大岡トメ 幻冬舎

絶賛老化中の私にとって、この題名はとってもいい言葉です。

「最近小さい字が読めない。疲れがとれない。髪がうすくなった。膝が痛い。寝つきが悪い。顔のしみ、たるみが気になる」と表紙に書かれています。その通りです。友人たちとのお茶会にもしょっちゅう出る話です。

老いを感じるたびに自分とちょっとずつ折り合いをつけていくことも大事だそうです。

母は認知症になり、10年ほどを施設で大変お世話になりました。父は95歳まで元気に1人暮らしをし、入院した翌日に亡くなりました。

めちゃくちゃ自分に甘い私ですが、目指すは「健全に老化する」と書かれているように、ほんの少しの向上心をもって、願わくは父のように健全に老化していきたいと思います。

 

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