とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただいています。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。
鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載されます。
銀の鈴
朝4時ごろだと思う。
日の出前、遠くから小さな鈴のような音が聞こえてくる。うつらうつらしながら、夢かな、と思う。が、遠かったその音は仲間を呼ぶように、響き合って、重なり合って、大きくなっていく。涼しげな高い音の響きは何だか心地よく、懐かしい。この音色を何かに例えるならば、銀の鈴、とぼんやりとした頭で思う。
まだ寝ていたいと思いながら鈴の音を聞いているうち、少しずつ目が覚めていく。
音の主はヒグラシ。鳴き声をよく「カナカナカナ」と表現される。早朝や夕方の涼しい時や曇って薄暗くなった時に鳴くそうだ。
布団でゴロゴロしているうちに、外はだんだん明るくなってくる。鈴の音は徐々に遠くなり、小さくなり、いつの間にか消える。音が消える瞬間に居合わせてみたいと思いながら、起きて朝ごはんを作り始めたりすると忘れてしまう。
うだるような日中は「ミーンミンミンミン」と鳴くミンミンゼミとバトンタッチ。ヒグラシはまた夕方に山の木々の間から、竹やぶから、銀の鈴の音を響かせる。「日を暮れさせるもの」としてその名がついたというヒグラシ。秋の季語である。暑さはしばらく続きそうだが、少しずつ秋に近づきつつある。
(風)
2024年8月12日、高知新聞に掲載されたコラム「閑人調」です。
夏の早朝聞こえてくる、ヒグラシの声について書きました。
うつらうつらしながら聞くあの声をどのような言葉にできるのか、長い間考えてきたのですが、今年やっと、しっくりくる言葉を見つけました。
「銀の鈴」。
金じゃありません、「銀」です。
早朝だけではなく、日が暮れる頃にも聞こえてきます。
まだまだ暑い日が続いていますが、その声はいっときの涼しさを運んできてくれます。