『銀座「四宝堂」文具店』 上田健次 小学館
銀座の片隅にある老舗文具店「四宝堂」。創業は天保五年(1834年)と歴史ある文具店の現在の店主は宝田硯。まだ三十代半ばと若いながら、文具を愛することと客への気配りは、誰にも引けを取らない銀座の名物店主です。
第一話「万年筆」は、親に代わってずっと慈しんで育ててくれた祖母のため、初任給で求めた贈り物に一筆添えようと店を訪ねた青年が主人公のお話しです。店主に案内された棚には、手漉き和紙や押し花を漉き込んだ洒落たもの、粋な洋箋や封筒がぎっしりと並んでいて目移りするばかり。店主に助言をもらってなんとか便箋と封筒を決めた青年が取り出したのは、まだ一度も使ったことのない万年筆。それは…。
小編5編が収められているのですが、客と文具をめぐる人情味あふれるエピソードはどれも味わい深く、読後感は申し分ありません。
夏の暑さも峠を越し、読書によい季節となってきました。秋の夜長のおともにいかがでしょうか?