古川 佳代子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

古川佳代子

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「イスラエル軍元兵士が語る非戦論」 ダニー・ネフセタイ著,永尾俊彦 構成 集英社

1月半ばにダニー・ネフセタイさんを高知にお迎えし、お話しを伺う機会を得ました。イスラエルに生まれ、空軍で兵役を務めたダニーさん。「国のために死ぬことはすばらしいこと」と愛国教育を受け、そのことに疑問を持たずにいたダニーさんが、武力による平和実現はあり得ないという考えにどうして至ったのかを、ご自身の人生に裏付けされた真摯な言葉で伝えてくださいました。

ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナの戦闘を、武力に寄らない方法で解決できないのかといえば「理想を語ることで平和は実現できない」「そんなお気楽なあまっちょろいお花畑の考えが何になる」、と諭されることも少なくなりません。

けれどもダニーさんは力強く、信念を持って「武力で平和は守れない。戦争が起こるのは人間の本能ではなく、政治家の誤った判断で起こるもの。一人ひとりが戦争反対の声を上げ続けることが必ず平和への道筋を作り上げ、対立する国の共存を可能にする」と発言されました。  ダニーさんの越し方と未来への希望が綴られたこの本を、一人でも多くの方に読んでもらいたいと思います。土佐町立図書館では本書だけでなく、他のご著書も蔵書しています。ぜひぜひご利用ください

 

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「私の源氏物語ノート」 荻原規子 理論社

1988年に壮大な古代ファンタジー「空色勾玉」でデビューして以来、幅ひろい年代層から絶大な支持を得ている作家の荻原規子さん。物語のつむぎ手としてだけではなく、古典文学にも造詣が深い荻原さんが、源氏物語を大胆に再構築した「荻原規子の源氏物語」(全7巻)を上梓ししたのは、今から10年前のことでした。

源氏物語五十四帖を現代語訳し、読みやすく分量を減らす工夫として途中の帖を抜いて編集し直し、源氏と紫の上・藤壺の宮の主軸にした上だけで進む「紫のむすび」(全3巻)をはじめて読んだ時の驚きは今でもまざまざと覚えています。

その後、玉蔓に焦点をあてた「つる花の結び」(上下)、薫の屈折した性格がドラマチックなメロドラマを引き起こしたのではないか、と思わせる「宇治の結び」(上下)が出版されました。

本書では、原文から五十四帖の全訳を成し遂げたからこその感慨、細部に及ぶ記憶の深まり、帖から帖へとつながる連想などを奔放に綴られています。この荻原流鑑賞の手引きを手元に置き、もう一度「紫の結び」から再読してみようと思っています。

 

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「元気?世界の子どもたちへ」 長倉洋海 朝日新聞出版

本年の映画初めに「鉛筆を銃 長倉洋海の眩(め)」(河邑厚徳/監督)を鑑賞しました。写真家を志したきっかけや、写真家として何を目指すのか思い悩んだ日々、そんな中で出会った人たちへの想いや現在に至るまでの交流などが丁寧に描かれており、その真摯な生き方を知って、ますます長倉ファンになりました。

1980年より世界の紛争地や辺境の地を取材したくさんの作品を発表している長倉さんですが、なかでも『いのる』『はたらく』『まなぶ』(いずれもアリス館)など、子どもを主人公とした写真を撮らせたら長倉さんにかなう人はいないのではないか?と思わせるくらい、本物のこどもの表情を捉えていらっしゃいます。

本書は、2021年4月から2年間にわたり「朝日小学生新聞」に連載されたものを「自然の中で」「あそぶ・まなぶ」「夢に向かって」「いっしょに」の4つに再編集されたものですが、写真はもちろんのこと、子どもたちとの出会いや思い出を綴られた長倉さんの文章も素晴らしく、何度でも読み返したくなる写真集でした。

 

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「カメラを止めて書きます」 ヤン ヨンヒ CUON

過日、ずっと観たいと思いながらその機会を逸していたヤン ヨンヒ監督のドキュメンタリー映画「スープとイデオロギー」を観ることができました。

済州島出身の両親を持つ、日本生まれ日本育ちのヨンヒさん。3人の兄を北朝鮮に「帰国」させたのをずっと恨みに思い、でも両親にその思いをぶつけることはできず、「帰国」させたことを本当はどう思っているのか両親に尋ねることは憚られ…。時にユーモアも交えながら、国家に翻弄された家族の歴史を描きだした素晴らしい映画でした。

この「スープとイデオロギ―」の前に撮られた「ディア・ピョンヤン」、「愛しきソナ」と合わせ、家族ドキュメンタリー三部作のなかでは撮ることのできなかった様々を「カメラを止めて書いた」のがこのエッセイです。

家族の映画を撮り発表するたびに、家族と会うことができなくなったヨンヒ監督。それでも「家族は消えない、終わらない、面倒でも会えなくても死んでも家族であり続ける」実感を持ち続けることができたのはどうしてか。何が彼女を支え、強くし、今のヨンヒ監督を作り上げてきたのかが、丁寧に綴られています。

機会があれば映画もぜひ観てほしいなぁ…。

 

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『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』 小野寺拓也, 田野大輔著 岩波書店

戦後教育を受け、平和憲法の素晴らしさを学んだ身にはとても残念なことですが、「ナチスは良いこともした」という議論が時々繰り返されています。なにをバカなことを、そんなこと誰も信じないでしょう、と思ってはいても「良いことをした」と主張する人は少なくなく、これは一体どういうことなんだろうと思っていた時にめぐり合ったのが本書でした。

ナチズムをプラス評価する際に例として挙げられる「アウトバーンの建設」、「フォルクスワーゲンの開発」、「手厚い家族支援策」、「歓喜力行団の旅行事業」等など。これら一見先進的に見える政策の不正や搾取・略奪と結びついていたことを、公に認められている資料から検証し、多角的な視点による考察を述べています。

2022年の学習指導要領施行により高等学校では「歴史総合」がはじまりました。指導要領では「近現代の歴史の変化に関わる諸事象について、世界とその中の日本を広く相互的な視野から捉え、現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を理解するとともに、諸資料から歴史に関する様々な情報を適切かつ効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする」ための科目であると定められています。

今を生きる若者たちに手渡したい1冊です。

 

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「ガザ 戦争しか知らないこどもたち」 清田明宏 ポプラ社

シナイ半島の北東部、東地中海に面した360平方キロメートルほどの小さな土地。壁に周囲を取り囲まれ、まるで収容所のような都市“ガザ”。この地域では「イスラエル」と「パレスチナ」二つの国が何十年もの間、争い続けています。

21世紀以降に限ってみても、2006年、2008年~2009年、2012年、2014年、2018年と戦争が起きており、2023年10月にはこれまでの5度の戦争と比べても一番悲惨だ、といわれるほどの戦いが始まってしまいました。

この写真絵本は今から8年前、2015年に出版され、戦争を生きのびる日々しか知らない子どもたちの過酷な生活を伝えてくれました。そして、ガザを再建していく希望の未来、これ以上「戦争しか知らないこどもたち」を増やしてはならないという決意に満ちていました。それはこの本を手に取ったすべての人に願いでもあったと思います。けれど現実は厳しく、再び両国間で戦争は起こり、多くの子どもたちや市民が命を落としています。

一日も早く武力ではなく知力で平和な日常を取り戻し、戦争しか知らない子どもたちが、戦争を知らない子どもたちの親となる日が来ることを願ってやみません。

 

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「せんそうがおわるまで、あと2分」 ジャック・ゴールドスティン作,長友恵子訳 合同出版

第一次世界大戦は1918年11月11日午前11時に終結しました。そのわずか2分前、1918年11月11日午前10時58分に、カナダ兵のジョージ・ローレンス・プライス(当時25歳)は戦死しました。そのエピソードをもとに生まれたのがこの絵本です。

主人公のジュールとジムは、同じ日に、同じ町で生まれました。先に生まれたのはジムで、ジュールはジムより2分あとに生まれました。何をするのも二人は一緒でしたが、ジムがいつも先頭でした。2分早く生まれたジムの方が、足も速いし強かったからです。

ヨーロッパで戦争が始まったとき、二人は軍隊にはいりました。戦争はふたりが思い描いていたものとは全く違い、みじめでひどいものでした。戦場でも二人はお互いを支え合い、なんとか生きのびていました。そして、やっと戦争が終わるというそのわずか2分前…。

世の中に「良い戦争」などあり得ません。戦争はどんな大義名分があっても、愚かで理不尽でみじめなものです。平和憲法のもと、戦争をしない国であるはずの日本ですが、この平和がいつまで続くのか不安になる時があります。絵本を読んだ後、改めて戦争と平和について思いをはせたことでした。

 

 

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「伝言」 中脇初枝 講談社

2021年11月下旬から12月上旬にかけて高知市文化プラザかるぽーとで、中国大陸から引き揚げる日本人の姿を描いた王希奇(ワンシーチー)さんの絵画「一九四六」の展示会がありました。自身も引揚者のひとりであった知人から案内を頂き、会場に出かけました。

縦3メートル、横20メートルの大作には、敗戦の混乱のなか、何とか生き延び、葫蘆(ころ)島の港にたどりついた人びとの姿が描かれていました。その表情、佇まいからは言葉にできない疲弊と絶望が伝わってくるばかりで、かすかな希望も見えません。絵に沿って端から端までゆっくりと進んでいくうちに、自分も行列の一人であるような心持になり、不安と怖さで涙がこぼれそうになりました。

この絵画展開催のために、中心になって尽力されたおひとりが﨑山ひろみさんでした。その﨑山さんの満州での生活や戦時中の日々の様子、満州から日本への引き揚げ等のこと、そして…。

綿密な取材と資料をもとに書かれた物語は、読むことがつらくなる時もありました。それでも、これは読まねばならない作品だと活を入れて、何とかよみおえることができました。忘れたり、なかったことにしてはいけない、過去からの伝言をしっかりと受け止め、次の世代に伝えなくてはと思います。

 

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「挑発する少女小説」 斎藤美奈子 河出書房新社

子どもの頃に出会ってから何度も何度も繰り返し読んでいる『赤毛のアン』や『あしながおじさん』『若草物語』などなど。これらいわゆる翻訳少女小説のどこに惹かれ、今に至るまで飽きることなく読み返しているのか?我がことながら不思議に思っていたモヤモヤに、合点のいく見解を示してくれたのがこの本でした。

本書では9作品が取り上げられていますが、それぞれに曰く、シンデレラ物語を脱構築する『小公女』、異性愛至上主義に抵抗する『若草物語』、出稼ぎ少女に希望を与える『ハイジ』、生存をかけた就活小説だった『赤毛のアン』、社会変革への意思を秘めた『あしながおじさん』、とまったく想像もしなかったキャッチコピーが充てられています。けれども読み解けば、どれも納得のコピーばかり。

不自由な環境の下に置かれ、理不尽な理屈やモラルを押し付けられてもそれに屈せず、己の才能と矜持を武器に健気に戦っていたアンやジュディ。「子どもだから、女だからって見くびられちゃダメよ!」という彼女たちからのメッセージに励まされ、慰撫してもらった子ども時代のなんと幸せだったことか。頭を上げ、明日を見据える凛々しいジョーやローラのまなざしに負けない自分でありたいものですが、さて?

 

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『銀座「四宝堂」文具店』 上田健次 小学館

銀座の片隅にある老舗文具店「四宝堂」。創業は天保五年(1834年)と歴史ある文具店の現在の店主は宝田硯。まだ三十代半ばと若いながら、文具を愛することと客への気配りは、誰にも引けを取らない銀座の名物店主です。

第一話「万年筆」は、親に代わってずっと慈しんで育ててくれた祖母のため、初任給で求めた贈り物に一筆添えようと店を訪ねた青年が主人公のお話しです。店主に案内された棚には、手漉き和紙や押し花を漉き込んだ洒落たもの、粋な洋箋や封筒がぎっしりと並んでいて目移りするばかり。店主に助言をもらってなんとか便箋と封筒を決めた青年が取り出したのは、まだ一度も使ったことのない万年筆。それは

小編5編が収められているのですが、客と文具をめぐる人情味あふれるエピソードはどれも味わい深く、読後感は申し分ありません。

夏の暑さも峠を越し、読書によい季節となってきました。秋の夜長のおともにいかがでしょうか?

 

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