古川 佳代子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

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「どろぼうの神さま」 コルネーリア・フンケ著 細井直子訳 WAVE出版

カナダのプリンスエドワード島、アイルランドのパブ、イギリスのパディントン駅…。訪ねてみたい場所は色々あるのですが、イタリアの水の都ベネツィアもそんな場所の一つです。

「どろぼうの神さま」というタイトルに惹かれて本棚から抜き出すと、目に飛びこんできたのは、水色の空を背景に黒い不思議な形の仮面をかぶった少年の姿。足の下には石造りのライオン…。「あ、ベネツィアだ~」。本の分厚さに少したじろぎながらも、読んでみることにしました。

それぞれに理由を抱え、家を飛び出し、廃墟となった映画館でくらしている子どもたち。彼らを統率し生活を支えているのは、どろぼうの神さまと名乗る謎の少年スキピオ。子どもの楽園のような心躍る冒険の毎日が、リアルな街の風景描写によって現実感をともなってぐいぐいと迫ってきます。そして最後に用意されたアッと驚く仕掛けに茫然。

気がつけば500ページ近くある作品を一気に読んでしまっていました。

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「赤毛のアン」 モンゴメリ著, 村岡花子訳 新潮文庫

好きな本は何度でも読み返します。何度読んでも全く飽きないから「好きな本」なのかな?

『赤毛のアン』を初めて読んだのは抄訳版で小学生の頃だったと思います。それから今までにいったい何度読み、何冊買い換えたことか?いろいろな方の翻訳で読みましましたが、一番ぴったりきたのは村岡花子さん訳の新潮文庫版。マリラ&マシュウはカスバートではだめで、クスバートでなくてはならないのです。

子どものときはアンにあこがれ、アンのようなしゃべり方を真似たりしていましたが、大人になってからのお気に入りはマシュウ。穏やかで懐が広く内気なマシュウは、私にとって愛すべき大人の理想像です。

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「どんなかんじかなあ」 中山千夏文,和田誠絵 自由国民社

以前勤めていた高知こどもの図書館では「世界のバリアフリー絵本展」を開催していました。

これは世界各国で出版された「バリフリー絵本:障害があるなしに関わらずだれもが楽しめるように工夫されている本」を実際に見て、触って、読むことができる毎回好評を博した企画展でした。 その関連企画として、国内で出版されているバリフリー絵本を調べて可能な本は購入し、展示していました。そこで出会ったのがこの『どんなかんじかなあ』です。

小学生くらいの気のよさそうな男の子アップの表紙は何か楽しそうな雰囲気を醸し出していて『バリアフリー絵本』というお堅いイメージは感じられません。 男の子は目が見えない友だちがいて「どんなかんじかなあ」と目をつぶってみると、今まで聞き逃していたいろんな音に気がつきます。それで「目がみえないってすごいなあ」と感心します。

耳の聞こえないお友だちはどんなかんじだろうと耳栓をして過ごしてみるといろんなものがたくさん見えてきます。「きこえないって、すごいんだね」とまた感心します。 最後のエピソードにたどりついたとき、ドキッと心臓が跳ね上がり「ああ、そうだったの」と…。

機会があるごとに紹介してきた、そしてこれからも紹介していきたい一冊です。

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「空色勾玉」 荻原規子 徳間書店(初版:福武書店)

その昔、朝日新聞紙上に「ヤングアダルト招待席」という書評コラムがありました。そこで英米文学の翻訳家で本の目利きでもある金原瑞人氏が熱を込めて紹介されていたのが、荻原規子さんのデビュー作『空色勾玉』でした。

ファンタジ―が大好きで、金原さんの選書眼に一目置いていた私はすぐにこの本に飛びついたのですが…。いや~、面白かった!

英米のファンタジーに比べると日本のファンタジーってどこかドメスティックというかちょっぴり貧乏くさくて(失礼)もの足りないなあと思うことが多かったのですが、これは違いました。 古事記を下敷きに紡ぎだされた世界は、そこに流れる空気感、森羅万象すべてが違和感なく肌に馴染み、親しみ深く、言の葉の国に生まれてよかったと思いながら読み進めていきました。

対立する闇(くら)の一族と耀(かぐ)の一族、彼らが敬うそれぞれの神の思惑に翻弄される水の乙女・狭也(さや)と神の末子の稚羽(ちは)矢(や)。旅あり恋あり裏切りありの波乱に富んだ物語を心ゆくまで堪能し、ファンタジー好きの友だちに端から薦めていったことでした。

デビュー20周年の年に、荻原さんを高知こどもの図書館主催の講演会にお招きできたのは、ファン冥利に尽きる懐かしい思い出です。

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「武士道シックスティーン」 誉田哲也 文藝春秋

幼なじみのHちゃんが高校入学と同時に剣道部に入部した時はとてもびっくりしました。才女で小柄な彼女と剣道とが結びつかなかったのです。けれども彼女は暑い夏には分厚い胴着に汗をしたたらせ、寒い冬も裸足で早朝練習をこなし、剣道部をまっとうしたのでした。

剣道のどこが彼女を魅了したのか?と不思議だったのですが、この『武士道シックスティーン』を読んで、剣道部に入ってみたかったかも、と思いました(いえ、無理ですが…)。

宮本武蔵を愛読する熱血武道少女・磯山香織と超のんびりで剣道を始めたのは日舞の延長という甲本(西荻)早苗。 この二人が同じ高校の剣道部に入部するところから始まる物語は痛快で、二人の距離感の微妙さは絶妙。

なんども笑わされながら最後の50ページはティッシュが手放せない大逆転の展開!

出会えたことが嬉しくなる、愛おしい王道の青春小説はいかがでしょうか。

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「想像ラジオ」 いとうせいこう 河出書房新社

小説家、タレント、作詞家、俳優…。様々な肩書を持ついとうせいこう氏の小説には、不思議な浮遊感があるように思います。

東日本大震災から2年後の2013年3月11日に発行された本書は、いとうさんらしいテイストはしっかりありながら、深く心に染みる鎮魂の物語でした。「想像」という電波を使って「あなたの想像力の中」だけで聞こえるというラジオ番組が、深夜2時46分、DJアークによって突然始まります。アークがいるのは海沿いの小さな町を見下ろす杉の木のてっぺん。彼も震災により命を落としているらしいのですが…。

たくさんの方が亡くなりましたが、その死は数で語るべきものではなく、一人ひとりの死であることを忘れてはなりません。一人ひとりの死を悼み、死を忘れるのではなく、死とともに生きていくことの難しさと大切さが静かに伝わってくる作品です。

古川佳代子

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「ボクの音楽武者修行」 小澤征爾 新潮文庫

音楽それもクラシックとなると門外漢で大した知識もないのですが、小澤征爾さんは大好きな指揮者です。

とはいえ、最初に小澤さんを知ったのはその華麗なる指揮から紡ぎだされる音楽ではなく、この旅行記でした。

唯一の財産であるスクーターとともに貨物船に乗り、辿りついたフランスをふりだしに、アメリカ、ドイツそして日本に帰国するまでの二年半の日々。その間の出来事が“世界の小澤”になる前の26歳の青年であった小澤さんによって素朴に記されています。そのなんのてらいもない、実直に綴られた文章のなんて魅力的なことでしょう。

読み終わって即レコードを買い求め、クラシック音楽を聞くきっかけをくれた思い出の一冊です。

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「海がきこえる」 氷室冴子 徳間書店

今から35年ほど前に「子どもの本を語る高知大会実行委員会」という有志の会が発足し、15年ほど活動をしていました。これは年に一度、作家や絵本画家、編集者など子どもの本にかかわる方をお招きし、講演会および分科会を開催するというものでした。講師依頼、分科会内容の検討、ポスターや当日資料の作成、会場設営と当日運営…。どれも慣れないことでしたがだからこそ面白く、会の発足した翌年から十数年間、ほぼ毎年実行委員の一人として関わらせていただきました。
径書房の原田編集長さん、デビュー間もない坂東眞砂子さん、画家のスズキコージさん…。
たくさんの方が来高してくださいましたが、その中のお一人が氷室冴子さんです。北海道に生まれ育った氷室さんは高知の夏の暑さ、海や空の青さ、土佐弁の響きにいちいち驚き、興味を持たれ「ここに暮らす学生たちはどんなことを思い、恋愛するのか?」とついに、高知を舞台とした小説を書かれる決心をされたのでした。 そのロケハンに同行し、原稿執筆が始まってからは会話文の土佐弁変換などを手伝わせていただいたことは、今でも自慢です。

まだメールなどない時代でしたから生原稿がファクスで送られてきました。誰よりも早く、大好きな作家の原稿を読むことができるなんて夢のようでした。ファクスがピッと音を立てると胸が高鳴り、拓は?里伽子はどうなった?とノロノロと出てくる原稿にもどかしく思いながら原稿が印刷されるのを見ていました。 読み終わったころを見計らってかかってくる氷室さんからの電話には、毎回ドキドキしたものでした。なんか変なこと言ったらどうしよう、がっかりさせるような感想だったらどうしよう…。

でも氷室さんはこっちの気持ちを知ってか知らずか必ず「古川ちゃんにそういってもらえると嬉しいな~。いつもありがとねぇ。来月もよろしく~!」と機嫌のよい声を返してくれました。 一緒にロケハンにまわった場所のいくつかは、わたしの自宅のそばにあります。

あたたかな一月のある日、散歩がてらその海岸に行ってみました。誰もおらず聞こえてくるのは潮騒ばかり。「ああ、海がきこえる」と思いながらしばらく過ごしたことでした。

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「ライオンと魔女  ナルニア国ものがたり1」 Ⅽ.S.ルイス作 瀬田貞二訳 岩波書店

少しずつ長い物語にも手を伸ばし始めた2年生の夏休み前、一冊の本が目に留まりました。

二人の女の子を背に乗せ疾走するライオンと、それを見守る怪しげな生き物が描かれた鮮やかなオレンジ色の表紙。魅惑的なタイトルは『ライオンと魔女』。これは、間違いなく面白い本だ!

帰宅してすぐに本を開きました。子どもだけの疎開、衣装だんすの向こうに広がる異世界、強い力を持つ白い魔女、ハラハラドキドキの攻防…。何とか読み通すことはできましたが、「この物語の本当の面白さをくみ取ることはできなかった」と感じ、「本に負けた!悔しい」と母親に告げたあの時の敗北感は、今でもリアルに思い出せます。

本を楽しむには文字が読めるだけではだめだということ。読解力や物語の背負う世界観を理解する力がないと、隅から隅まで堪能することはできないことに気が付かされたのがこの『ライオンと魔女』でした。本棚でこの本を見るたび嫌われているような心地がして、足早に前を通り過ぎるのでした。

再び『ライオンと魔女』を手にしたのは5年生の夏。なんとなく本に呼ばれた気がしたのです。恐る恐る本を開き、再び訪ったナルニア国の楽しいことと言ったらありません。ルーシーに共感し、アスランに憧れ、タムナスさんの悲劇に心を痛め、エドマンドが許されたことをうれしく思い…。ナルニア国に住人の一人として物語を生き、冒険を心ゆくまで楽しみ、余韻に浸りながらなんとも幸せな気持ちで本を閉じたときの満足感。

あきらめなくてよかった、読み直してよかったとしみじみ思ったことでした。

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「ちいさいおうち」 バージニア・リー・バートン文,絵  石井桃子訳  岩波書店

物心ついてから今に至るまで、いつも傍らには本があったように思います。 本は善きもので、信頼に足る存在だと私に教えてくれたのは『ちいさいおうち』でした。

小学校に入学してひと月ほど経った頃でしょうか。父に作ってもらった「代書板(1センチほどの厚さの木の板で背には名前が書いてあり、借りた本の代わりにその場所に差し込む)」を持って、学校図書館に入ったときの感激。どの壁も本棚でうまり、まだ読んだことのない本が想像もしたことのない冊数で目の前にあるのです。こんな素敵な部屋が学校にはあるんだ!すご~い!! けれども1年生が借りられるのは1冊だけです。吟味に吟味を重ねているときに目に入ってきたのが、美しい空色に縁取られた小ぶりな絵本。赤く可愛らしいおうちとシンプルな花の絵も気に入り、表紙を開きました。一冊読み終えるのに、15~20分ほどかかったでしょうか。読み終えたとき、15分前の私とは全く別人のような気持ちがしていました。

なにしろちいさいおうちと一緒に100年を超す長い時間を生き延び、やっと元の場所に帰ってきたのですから。 すっかり老成した気分でため息をつき「本はすごい!この部屋の本を全部読もう!」と決心しました(笑)。

それからずっと今に至るまで、本は魔法の世界に誘い、時には励まし支えながら、親友の1人として寄り添ってくれています。 本の世界に遊ぶ楽しさを教えてくれた『ちいさいおうち』に感謝しながら、今日もこどもたちに本を手渡しています。

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