古川 佳代子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

古川佳代子

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「伝言」 中脇初枝 講談社

2021年11月下旬から12月上旬にかけて高知市文化プラザかるぽーとで、中国大陸から引き揚げる日本人の姿を描いた王希奇(ワンシーチー)さんの絵画「一九四六」の展示会がありました。自身も引揚者のひとりであった知人から案内を頂き、会場に出かけました。

縦3メートル、横20メートルの大作には、敗戦の混乱のなか、何とか生き延び、葫蘆(ころ)島の港にたどりついた人びとの姿が描かれていました。その表情、佇まいからは言葉にできない疲弊と絶望が伝わってくるばかりで、かすかな希望も見えません。絵に沿って端から端までゆっくりと進んでいくうちに、自分も行列の一人であるような心持になり、不安と怖さで涙がこぼれそうになりました。

この絵画展開催のために、中心になって尽力されたおひとりが﨑山ひろみさんでした。その﨑山さんの満州での生活や戦時中の日々の様子、満州から日本への引き揚げ等のこと、そして…。

綿密な取材と資料をもとに書かれた物語は、読むことがつらくなる時もありました。それでも、これは読まねばならない作品だと活を入れて、何とかよみおえることができました。忘れたり、なかったことにしてはいけない、過去からの伝言をしっかりと受け止め、次の世代に伝えなくてはと思います。

 

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「挑発する少女小説」 斎藤美奈子 河出書房新社

子どもの頃に出会ってから何度も何度も繰り返し読んでいる『赤毛のアン』や『あしながおじさん』『若草物語』などなど。これらいわゆる翻訳少女小説のどこに惹かれ、今に至るまで飽きることなく読み返しているのか?我がことながら不思議に思っていたモヤモヤに、合点のいく見解を示してくれたのがこの本でした。

本書では9作品が取り上げられていますが、それぞれに曰く、シンデレラ物語を脱構築する『小公女』、異性愛至上主義に抵抗する『若草物語』、出稼ぎ少女に希望を与える『ハイジ』、生存をかけた就活小説だった『赤毛のアン』、社会変革への意思を秘めた『あしながおじさん』、とまったく想像もしなかったキャッチコピーが充てられています。けれども読み解けば、どれも納得のコピーばかり。

不自由な環境の下に置かれ、理不尽な理屈やモラルを押し付けられてもそれに屈せず、己の才能と矜持を武器に健気に戦っていたアンやジュディ。「子どもだから、女だからって見くびられちゃダメよ!」という彼女たちからのメッセージに励まされ、慰撫してもらった子ども時代のなんと幸せだったことか。頭を上げ、明日を見据える凛々しいジョーやローラのまなざしに負けない自分でありたいものですが、さて?

 

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『銀座「四宝堂」文具店』 上田健次 小学館

銀座の片隅にある老舗文具店「四宝堂」。創業は天保五年(1834年)と歴史ある文具店の現在の店主は宝田硯。まだ三十代半ばと若いながら、文具を愛することと客への気配りは、誰にも引けを取らない銀座の名物店主です。

第一話「万年筆」は、親に代わってずっと慈しんで育ててくれた祖母のため、初任給で求めた贈り物に一筆添えようと店を訪ねた青年が主人公のお話しです。店主に案内された棚には、手漉き和紙や押し花を漉き込んだ洒落たもの、粋な洋箋や封筒がぎっしりと並んでいて目移りするばかり。店主に助言をもらってなんとか便箋と封筒を決めた青年が取り出したのは、まだ一度も使ったことのない万年筆。それは

小編5編が収められているのですが、客と文具をめぐる人情味あふれるエピソードはどれも味わい深く、読後感は申し分ありません。

夏の暑さも峠を越し、読書によい季節となってきました。秋の夜長のおともにいかがでしょうか?

 

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「風が吹くとき」 レイモンド・ブリッグズ作, さくまゆみこ訳 あすなろ書房

イギリスの田舎で穏やかな生活を送っている老夫婦。悠々自適に暮らしていたある日、町に出かけた夫は、戦争が起こるかもしれないと妻に話す。若いころ世界大戦を経験している妻は、話半分に聞き流す。

それよりも大事なのはお昼ごはんの献立だ。メインはフレンチフライなのかソーセージなのか?デザートはパイかプディグか?だって戦争なんて起こるはずはないし、万が一起こったとしても爆弾が2、3発落ちて、そのうちな~んだってことになるわよ、と…。

ところが突然ラジオから「3日のうちに戦争が勃発しそうだ」と政府発表が流れてくる。焦る夫と日常生活を守ろうとする妻。政府の言うことを盲目に信じる夫婦は、自分たちがどんどん死に向かっていることに気がつかない、いやそれとも気がつかないふりをしているだけなのか?

20数年前に出された絵本だけれど、まるで今の世界状況を予言しているようでドキドキしながら読み返しました。読むのがつらくなるかもしれないけれど、だからこそ、目をそらさずにたくさんの方に読んでほしい絵本です。

 

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「100年たったら」 石井睦美文,あべ弘士絵 アリス館

出会った瞬間から、親しみをもったあの人。そばにいるとしっくりとして、心地よさを感じる友人。もしかしたらその人は、遠い昔どこかで一緒にすごしたことがある、大切な存在だったのかも? そんなことを思うようになったのは、この絵本を読んだからです。

ずっと昔、広い草原にたったひとりで暮らすライオンがいました。ほかに動物はなく、ライオンは草や虫を食べて飢えをしのいでいました。ある時、ライオンの目の前に、ぼろぼろの翼をしたちいさな旅鳥のヨナキウグイスが降り立ちます。鳥はライオンに自分を食べればよいといいますが、ライオンは断ります。その時から、ライオンと鳥の、穏やかで幸せな暮らしがはじまります。

けれどもヨナキウグイスに残された時間はわずかしかありませんでした。別れが迫ってきたとき、ずっと一緒にいたいというライオンに鳥は「100年たったら、またあえる」と言い残してこと切れます。

100年後、ライオンは貝に、鳥は波に生まれ変わっていました。また100年たったとき、ライオンはおばあさんに、鳥は赤いひなげしの花になっていました。

そうやって100年ごとに、ライオンと鳥は生まれ変わり、ある時は魚と漁師に、ある時はチョークと黒板に、あるときはリスと雪のひとひらに生まれ変わっていました。そして…。

生まれ変わり、再会しても、お互いのことは知らないままのライオンと鳥。それでも一緒にいると、なにかしら嬉しい気持ちになるのです。そうして流れていく長いながい時間を思うと、切なさの少し混じった“哀しい幸せ”を感じるのでした。

 

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「ライラックどおりのおひるごはん~みんなでたべたい せかいのレシピ~」 フェリシタ・サラ作, 石津ちひろ訳 BL出版

食べることは好きですか?くいしんぼの私は、もちろんイエス!寒い朝でもチョコレートケーキがあると思えば機嫌よく起きられるし、猛暑のなかの買い物も、帰りにかき氷を食べよう、と思えば元気に出かけられます。

ライラックどおり10番地のアパートに住む人たちも、みんな食べることが大好き。近くまで行くと、とてもいいにおいが漂ってきます。いったい何をつくっているのか、ちょっと覗いてみましょう。

スペインからきたピラールは、トマトの冷静スープ“サルモレホ”を作っています。おむかいのマリアは、アボカドをつぶして “ワカモレ”をつくっています。ムッシュー・シンは “ココナッツ・ダール”を、マチルダは “ストロベリー・クランブル”を、日本からやってきたイシダさんは、とりモモ肉にみりん、しょうゆ、卵、だし、ご飯を用意して…。アパートのみんなのお得意料理ができあがったら、庭に持ち寄って楽しいランチタイムのはじまりです!

手作りのおいしい料理を一緒に食べれば、仲良くなれること間違いなし!心もお腹も(?)満たされる「おいしい絵本」をお楽しみください。

 

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「地震・台風時に動けるガイド~大事な人を護る災害対策〜」 辻直美監修 Gakken

今年も台風シーズンが近づいてきました。地震も各地で頻発しています。防災対策はできていますか?わたしはといえば、いやはや情けない…。

防災グッズをそろえている方たちは、それを使いこなせるテクニックをお持ちですか?

この本の監修者である辻直美さんは、防災現場で命を助ける看護師さん=レスキューナース。現場に出動するだけでなく、減災の一環で、防災啓もう活動も各地で行っています。その経験から、人にやさしい防災の考え方、方法を伝えることが、自分にとっても他者に対してもいちばん優しいものになるだろうと考え、この本が生まれました。

防災の取り組みは「まじめに、ちゃんとやらないといけない」わけではありません。「100円ショップのすべり止めシートを適当に切って、その辺の棚に置く」だけでも昨日より防災力が1段階上がりますよ、ととてもハードルの低い、私でもすぐに取り掛かれる提案がたくさんあります。

これから防災準備を始める人、もうすでに防災に取り組んでいる人、どちらにもおすすめの知恵が詰まっています。

 

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「香川にモスクができるまで~在日ムスリム奮闘記~」 岡内大三 晶文社

お隣の香川県にある素敵な本屋「ルヌガンガ」さんは、SNSで幅広いジャンルの本の紹介をされています。この本もルヌガンガさんに教えてもらった一冊です。

タイトルを見たときにまず思ったのが「香川にモスク?なぜ?」でした。両親ともに香川県出身で子どものころから親しんでいる土地なのですが、香川とモスクが結びつきませんでした。けれどもこの本によると、2019年時点で約800人からなるインドネシア系ムスリムのコミュニティーが存在しているのだそうです。

ムスリムのごく一部の人間による蛮行から、ムスリムと聞けば「非文明的、女性蔑視、怖い人たち」といったイメージを持ちがちです。でも本当にムスリムの人たちがそうであれば、香川にモスクが建つだろうか?それとも力ずくでモスクを建てたのか?

その顛末は本に譲るとして、本書に登場するたくさんの「ふわふわと柔らかいコミュニティー形成にたけた隣人」たちのことを、知ってもらえればと思います。

 

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「ごみを出さない気持ちのいい暮らし」 高砂雅美ほか著 家の光協会

ゴミ出しをするたびに、もっとゴミを減らせないものか、と反省します。でも実践にはなかなか結びつかないのが、我ながら情けない…。

そんな時に目に留まったのがこの本。ゴミ出しに正解なんてないし、できること、できないことは人それぞれ。とにかく無理なく、楽しく、心地よく、できることから始めればよいのですよ、と6人の方の取り組みが紹介されています。

「自分がごみと決めたものが、ごみになる。捨てる前にもう一度だけでも使う」「物を買わずになんとかならないかなぁていつも考えています」そんな言葉と共に豊富な写真付きで、楽しいから続けてこられたゴミ減らしの工夫のあれこれが提示されています。

これなら私も始められる、と思えるものがいくつかあり、只今実践中です^^v

 

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「おつかれ、今日の私。」 ジェーン・ス― マガジンハウス

 男が敷居をまたげば七人の敵あり、ということわざがあるけれど、勿論女にだって、ひとたび外に出れば七人の敵はいる。

精根こめて仕事しても報われるとは限らないし、家事をどんなに頑張っても褒められることはまずない。だれも自分を慰撫してくれないなら仕方ない、自分で自分に「お疲れ。今日もよく頑張ったね!」と声掛けしてみる。するとちょっと肩の力が抜け、気持ちがすこし浮上する気がする。

それでも、まだ落ち込んで、暗いトンネルをさまよっているようだったら、この本を開いて何篇か拾い読みしてみるのもよいかも。 いつもは皮肉の利いた辛口エッセイが多い筆者が、読んでくれる人の隣に座って、中の良い友だちの背中をさするように書こう、と決めて書いたという文章は、すっと体に馴染むのでした。

 

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