今年も十七夜祭からはじまって森の野中祭まで、夏祭りの季節がやってきた。
小学生の頃から嫁ぐまで、毎年のように野中祭で踊った。
昔は20~30軒の商店があった森の通りをパレードしたり、たくさんの人で踊りの輪も二重三重となり、出店もいろいろあってとてもにぎやかだった。
中学生の頃の盆踊り当日は、朝からワクワクしていた近所のみんなで順番待ち。誰が待っていたのかは全然思い出せない。
お化粧をしてくれるのは石屋のけいちゃん。
「毎年、なんぼう化粧品がいるもんやら」といいながらも、おしろいを塗り、頬紅をつけて口紅を塗ってくれたけいちゃん。
色気も何もない、真っ黒い顔に化粧をしても全く無意味やったろうけれど、本人はそうじゃない。美人になってちょっと大人になった気がした。
踊った汗ですぐにとれるなんて思いもせず、口紅が落ちないよう細心の注意をはらった。
着物を着せてくれるのは公文のおばさん。タオルを首にまいてぽちゃっとしていたせいもあってか、汗だくだく。
「ゆかたの下がわのすそを折り返しちょいたら、足さばきがようなって着くずれがせんがよ」と教えてくれた。帯をきゅっとしめてもらうと背筋ものびた。
高校生になると「首の襟元をあけすぎると清潔さがのうなるきねえ。まぁ けんど色気も欲しい年頃やきちょっとだけ襟元をくっちょいちゃろうかねえ」
ほんとに色気がでたようでうれしかった。下駄をはいた足も内またになるように気をつけた。
夏祭りの季節になると踊りの練習に通ったこと、夜店を廻った事、輪のなかで踊った事、そのどれよりもおばちゃんがおしゃべりをしながら化粧をしゆかたを着せてくれた事を思い出す。