「ライオンと魔女 ナルニア国ものがたり1」 Ⅽ.S.ルイス作 瀬田貞二訳 岩波書店
少しずつ長い物語にも手を伸ばし始めた2年生の夏休み前、一冊の本が目に留まりました。
二人の女の子を背に乗せ疾走するライオンと、それを見守る怪しげな生き物が描かれた鮮やかなオレンジ色の表紙。魅惑的なタイトルは『ライオンと魔女』。これは、間違いなく面白い本だ!
帰宅してすぐに本を開きました。子どもだけの疎開、衣装だんすの向こうに広がる異世界、強い力を持つ白い魔女、ハラハラドキドキの攻防…。何とか読み通すことはできましたが、「この物語の本当の面白さをくみ取ることはできなかった」と感じ、「本に負けた!悔しい」と母親に告げたあの時の敗北感は、今でもリアルに思い出せます。
本を楽しむには文字が読めるだけではだめだということ。読解力や物語の背負う世界観を理解する力がないと、隅から隅まで堪能することはできないことに気が付かされたのがこの『ライオンと魔女』でした。本棚でこの本を見るたび嫌われているような心地がして、足早に前を通り過ぎるのでした。
再び『ライオンと魔女』を手にしたのは5年生の夏。なんとなく本に呼ばれた気がしたのです。恐る恐る本を開き、再び訪ったナルニア国の楽しいことと言ったらありません。ルーシーに共感し、アスランに憧れ、タムナスさんの悲劇に心を痛め、エドマンドが許されたことをうれしく思い…。ナルニア国に住人の一人として物語を生き、冒険を心ゆくまで楽しみ、余韻に浸りながらなんとも幸せな気持ちで本を閉じたときの満足感。
あきらめなくてよかった、読み直してよかったとしみじみ思ったことでした。
古川佳代子