この本には日本を代表する詩人の方々のうたが収められているのですが、そのうちのひとつ、谷川俊太郎さんの「生きる」という詩がとても好きです。
私が初めてこの詩に出会ったのは、確か小学校6年生のときでした。ページの上に並んだ日本語の奥向こうに、どこまでも澄んだ空が続くような清々しさを感じたことを覚えています。(そのときは何と表現したらよいかわからなかったのですが、今思えば、こういう気持ちでした。)
知っている方も多いと思うのですが、ここに紹介します。
生きる 谷川俊太郎
生きているということ
今生きているということ
それはのどがかわくということ
木もれ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみをすること
あなたと手をつなぐこと
生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
かくされた悪を注意深くこばむこと
生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ
生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまぶらんこがゆれているということ
いまいまが過ぎてゆくこと
生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ
それから過ごした何十年という時間のなかで、ふと、このページを開くときが何度かあり、そのたびに私は6年生のときに感じた気持ちを思い出していました。これまでの道のりにあったのは清々しさだけではありませんでした。でもそれでも、今、自分は生きている。生きていることはやっぱり素晴らしいことなのだ、という実感をこの詩は与えてくれます。