「メリーゴーランドという本屋さんにお勤めの近藤さんって、知り合いかな?」
笹のいえの洋介さんから連絡があった。
『メリーゴーランド』は三重県四日市市にある子どもの本の専門店。以前何かの本で知り、行ってみたいと思っていた場所だった。「とさちょうものがたりZINE」をお店に置いてもらいたいと電話をしたら快く「いいですよ」と言ってくださり、1ヶ月ほど前に02号を送っていたのだった。
洋介さんにそのことを話すと「そうそう!近藤さんはお店に送られてきたZINEを見て土佐町に行ってみたいと思ったんやって。今うちに泊まってくれてる。」とのこと。
もう明日の早朝には帰ってしまうという。
洋介さんが「近藤さんは今、歩いて一人で権現の滝に行ってるよ。」と教えてくれた。
平石地区にある権現の滝までは一本道だから、きっとどこかで会えるはず。会いに行こう!
ZINEがきっかけで、土佐町を訪ねてきてくれた人がいる。権現の滝に向かう道沿いを流れる川も、平石のりんご園の旗が立つ風景も、何だかいつもと違って見えた。
権現の滝の入口にある駐車場に車を停め、滝へ向かって歩き始めると、山道の向こうから一人でこちらに歩いてくる人がいた。緑色のTシャツを着たその人は、山の中で急に目の前に現れた私に「あの…、近藤さんですか?」と聞かれて心底びっくりしたと思う。
ずっと四国に行ってみたいと思っていたこと、そんな時に勤め先に送られてきたZINEを手にしたこと、バスや電車を乗り継いで土佐町に着いたことを近藤さんは話してくれた。
少し前、とさちょうものがたり編集部に「ZINEを見て土佐町に行きたいと思った。行き方と宿泊先を教えてほしい」と連絡をくれた人がいた。話して初めてわかったけれど、その連絡をくれた人が近藤さん本人だった。
「その時、笹のいえを紹介してもらって、笹のいえのことを初めて知ったんです。」
そして実際に近藤さんは土佐町にやってきた。
メリーゴーランドにZINEを送ったこと、その場所で近藤さんが働いていたこと、近藤さんが編集部に連絡をくれたこと、洋介さんが連絡をくれたこと…。これまでの出来事のどれか一つでも欠けていたら、この出会いはなかっただろう。
多分、どんなできごともどんな出会いも、それぞれの人が知らず知らずのうちに重ねてきた小さな奇跡でできている。
近藤さんは「土佐町に来てよかった。」と言っていた。
そのことがとても嬉しかった。
この出会いもきっと、これから先にある何かとどこかでつながったりするのかもしれない。
写真提供:渡貫洋介