我が家であり、宿でもある、笹のいえ。
暮らしの場をオープンにすると、訪れてくれる人がいる。
自作したモバイルハウスで日本を旅しているフランス人・ピエールさんもそのひとりだ。
一月下旬、笹にやって来て、三日間滞在した。元ジャーナリストでドキュメンタリー映画監督の経験もある彼とパートナーは、1トントラックの荷台に建てた、廃材を利用して作った小さな家で寝泊りしながら、全国を移動している。そして持続可能な暮らしを営む人びとに会い、共に身体を動かし、話を聴いているという。この旅で出会った人たちから、生き方の本質を学ぼうというのだ。
ピエールさんのパートナー・けいさんは中国で生まれ、現在は日本の国籍を持つ。普段はふたりで旅をしているが、このときは東京に出掛けていて、残念ながら会えなかった。しかし異なる環境で生まれ育ったふたりが、縁が繋がった日本という国の素晴らしさをSNSなどで発信しているというのはなんだか不思議な人生の巡り合わせだ。
泊めてもらう代わりに何かお手伝いを、というピーちゃん(ピエールさんのあだ名)と、薪割りすることになった。数日前に地域の方からいただいた雑木が山積みになっていたのだ。僕がチェンソーで玉切りした丸太を、彼が斧で慣れた手付きで割っていく。寒い日の作業だったが、徐々に身体が温まり、心身がほぐれていった。一緒に作業をし、おしゃべりし、時間を共有すると、お互い不慣れな言葉でのコミュニケーションではあるけれど、その壁は次第に薄くなっていく。ピーちゃんは、昔ながらの日本家屋が周りの環境に寄り添うように建てられた造りであること、またそこで暮らす人びとも自然と共に在ることについて熱心に話してくれた。僕も、彼の国での循環型生活について質問し、それぞれの共通点などを話し合った。
いつの間にか、学校や保育園から帰宅した子どもたちが周りに集まって、おやつを食べたり、遊んだりしてる。見た目も言葉も自分たちとは違う、ちょっと変わった家に住んでいるピーちゃんとの交流は、子どもたちの心にどんな記憶を残しただろう。
翌日、モバイルハウスの中を見せもらった。僕たち家族だけではもったいないので、彼に話をして、興味ありそうな友人にも事前に声を掛けて集まってもらった。
室内は限られたスペースに、暮らしのアイテムがたくさんのアイデアとともに収納されていた。
ミニキッチンやベッド兼ソファ、ソーラーパネルでの発電など、狭い空間に上手に収まっていて、必要最低限にして充分。そこここが遊び心が溢れ、オープンマインドな雰囲気を感じ取ることができる。屋根に登る梯子に使われれている天然木の湾曲や窓には飾られているけいさんの絵の温かさが心地良い。装備されていないお風呂やトイレは、公共の施設を利用するそうだ。
「訪問先で他の場所をお勧めされて、行きたい場所がどんどん増える」あるとき、ピーちゃんはちょっと困ったように笑いながらそう語っていた。まるで風のようにルートを決める彼らの旅のスタイルが、行く先々で受け入れられている証拠だ。
最終日の朝。僕らは「また会おう」と約束して、握手をした。そして車はゆっくりと走り出し、次の目的地へ出発して行った。
小さくなっていくモバイルハウスに、僕はエールを送った。
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