「私の源氏物語ノート」 荻原規子 理論社
1988年に壮大な古代ファンタジー「空色勾玉」でデビューして以来、幅ひろい年代層から絶大な支持を得ている作家の荻原規子さん。物語のつむぎ手としてだけではなく、古典文学にも造詣が深い荻原さんが、源氏物語を大胆に再構築した「荻原規子の源氏物語」(全7巻)を上梓ししたのは、今から10年前のことでした。
源氏物語五十四帖を現代語訳し、読みやすく分量を減らす工夫として途中の帖を抜いて編集し直し、源氏と紫の上・藤壺の宮の主軸にした上だけで進む「紫のむすび」(全3巻)をはじめて読んだ時の驚きは今でもまざまざと覚えています。
その後、玉蔓に焦点をあてた「つる花の結び」(上下)、薫の屈折した性格がドラマチックなメロドラマを引き起こしたのではないか、と思わせる「宇治の結び」(上下)が出版されました。
本書では、原文から五十四帖の全訳を成し遂げたからこその感慨、細部に及ぶ記憶の深まり、帖から帖へとつながる連想などを奔放に綴られています。この荻原流鑑賞の手引きを手元に置き、もう一度「紫の結び」から再読してみようと思っています。