今年もねむの花が咲き始めた。
ふわふわとした白い羽毛に紅色を加えたようなこの花は、まるで小さな花火のよう。季節が夏に移り変わりつつあるとき、毎日見ている風景に加わるこの色は、確かに1年間が巡ったのだということを私に教えてくれる。
近所のおばあちゃん、房子さんが言っていた。
「ねむの花が咲いたら、大豆の蒔きどきだよ」
おじいちゃんが亡くなってから、房子さんは口数が少なくなった。この時季、房子さんは大豆だけではなく小豆も植える。前の年に収穫したものを保存しておいて、それを今年の種にする。房子さんの作るおはぎの中にはあんこが入っているのだが、そのあんこも房子さんの小豆でできている。
この地の花や木々、空や風、山の色が「この季節がきましたよ」と教えてくれる。その「カレンダー」を、この地の人たちは身体の中に持っている。それを持っているかいないかで、目の前の風景も、世界の見え方も大きく違って見えてくる気がする。
房子さんは、ねむの花が咲いたことをもう知っているだろうか。