ゴールデンウィーク中のある日、土佐町から高知市へ向かっていると、山の道先に棒に結ばれたリボンが揺れているのが見えた。
新緑一色だった視界にピンクが加わると、視線はそちらに向かう。
そこには良心市があった。良心市は、手作りの棚に野菜や果物などが売られている無人販売所。販売している人はいないので、代金は置かれている箱や瓶の中に入れる。
台の上にはピンクの傘がさしてあって、「いらっしゃいませ」と呼びかけてくれているかのよう。吸い寄せられるように市の前に立つと、いたどりと茹でたけのこ、クレソンが並べられていた。
茎はまっすぐ、しなやかないたどり。いたどりは収穫した次の日には茎がシナッとしてくるので、これはついさっき収穫されたばかりなのだとわかる。隣には、傷まないよう、発泡スチロールの中に入った柔らかな茹でたけのこ。そして、きれいな水が流れる場所で育つクレソンが小さな花束のように並べられている。
丁寧に束ねられた結び目に心を掴まれ、私はいたどりを買った。娘が瓶のふたをあけ、100円を入れるとチャリンと音がした。いたどりを抱きかかえ、掲げ見せてくれた娘の姿を見ながら、日々の道の途中でこのような買い物ができる楽しさと幸運を忘れないでいてほしいと願った。
数日後、良心市の前を通ると傘の代わりに鯉のぼりが立っていた。5月の今日という日が、ちょっと特別な日に思えた。