古川 佳代子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

古川佳代子

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「がっこうのてんこちゃん」 ほそかわてんてん 福音館書店

新一年生の女の子が、小学校の上級生らしいお姉さんに「ねえ、学校にいつまで行かんといかんが?もう飽きたき保育園に戻りたい」。それに対して「もう保育園には戻れんが。ず~っと小学校に行かんといかんがで。小学校が終わっても中学校、高校に行くき12年は学校があるがで!」とお姉さん。

それを聞いた時の女の子のなんとも情けない、悲しそうな表情だったことでしょう。ニヤけそうな口元を引き締めながらも、心から同情したことでした。

この本の著者のてんてんさんも先の女の子同様、学校が大嫌いだったてんてんさんが「こんな学校だったらいいな」、と思う学校の話を書こうと思いできたのがこの物語です。

「みんな同じ」を目指すのではなく「ひとりひとり違う」からはじめてみたら、誰もが自分らしく楽に生きられて、相手のことも自分同様に尊重できるようになるのではないかしらね?

 

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私の一冊

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「発達障害の人が見ている世界」 岩瀬利郎 アスコム

「定型発達」という言葉を恥ずかしながら本書を読むまで知りませんでした。定型発達とはいわゆる普通の人=発達障害ではない多数派の人びとを意味する用語です。

学校や職場、地域の人たちと互いの意見や考え方を理解し、尊重し合いながら関係を築いていくことの難しさを感じることが時々あります。人と円滑にコミュニケーションをとることはなかなかに難しいことです。定型発達者同士でもそうなのですから、発達障害の人たちはもっと悩み、傷つき、苦しんでいるだろうことは想像に難くありません。

上手にコミュニケーションをとるために必要なことは定型発達者、発達障害者の区別なく「相手の見える世界」を想像すること。他人の「靴を履いてみる」ことかも?

相手を理解し、適した接し方をとれればコミュニケーションがスムーズになる例が具体的に示されていて、たくさんの気づきとヒントをもらえた本でした。

 

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「小さなまちの奇跡の図書館」 猪谷千香 ちくまプリマー新書

図書館運営で一番の課題は「読まない人」「本に関心のない人」に、図書館に来てもらうことです。その課題を克服し、「読まない人も行く図書館」となり、市民に愛される図書館となった鹿児島県指宿市立図書館。

どこにでもあるような、小さな町のさびれた小さな図書館が、ライブラリー・オブ・サ・イヤー他の名だたる賞を受賞する図書館に成長するまでの過程が丁寧に書かれた本書。市民の居場所となるための図書館づくり等を目的として図書館サービスを拡充させていく経緯は、とても興味深く参考になりました。

図書館学者ランガナタン博士の五法則「①本は利用するためのものである ②いずれの人にもその人の本を ③いずれの本にもすべてその読者を ④読者の時間を節約せよ ⑤図書館は成長する有機体である」にもあるように、図書館はすべての人にとって開かれ、必要とされている知識を提供する場所です。

そして地域のコミュニティースペースとして、人が安心して集える場所でなければなりません。そういう図書館を目指さねばと反省しつつ、伸び代はまだまだあると自分を鼓舞しながら読んだことでした。

 

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「ヘルシンキ生活の練習」 朴沙羅 筑摩書房

図書館のカウンターに座っていると時々「面白い本はないですか」とか「おすすめの本はありますか」と聞かれることがあります。簡単なようで難しいこの問いですが、気がつけばわたしも本好きの友だちにたびたび投げかけています^^。

この本を紹介してくれたのは二人の友人です。あの二人が紹介してくれるなら間違いない、と手に取ったのが運の尽き。しなければいけないことを投げ出し、寝なければ仕事に差し支えるとわかりつつ…。

社会学者で日本国籍を持つ在日コリアンの著者の朴さん。幼いころからずっと「私は何者なのか」と悩んできたけれど、大学で社会学を学び「私は何者なのか」と悩まなければならない状況が問題なのだ、と気がつきます。では、どうすれば状況を帰れるかと思っているタイミングで、フィンランドの首都、ヘルシンキでの仕事を得て、二人の子どもを連れて移住します。

日本とフィンランドでは社会の成り立ちはずいぶん違いますから、当然、社会制度や思想も違います。ヘルシンキで子どもたちと共に暮らしながら「生活の練習」を重ねる朴さんの率直な思索が綴られています。

 

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「ソノリティ はじまりのうた」 佐藤いつ子 KADOKAWA

 若い人たちの成長物語は、心躍り励まされ、読後感も良いものが多いように思います。合唱コンクールの指揮者に選ばれた内気な中一の女の子と、彼女を取り巻く同級生たちを描いたこの作品も、そんな心地よい物語でした。

合唱に興味がもてず時間の無駄遣いだと思う子もいれば、なかなかまとまらないハーモニーにいらいらする子もいたり。高校時代は音楽部(合唱部)だったこともあり、自分の体験と重なる部分が多くて、なんだか自分もクラスの一員になったような気持ちで読みました。

音楽に限らず、仲間と一緒に何かを作り上げていく難しさと楽しさ、そしていつしか一丸となってまとまっていく高揚感はぜひリアルな生活の中で体験してほしいのです。けれども、それもなかなかままならぬ昨今。せめて本の中でたっぷりと味わってください。

 

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「香君  上・下」 上橋菜穂子 文藝春秋

1989年に『精霊の木』でデビューをされて以来、ずっと追いかけている上橋菜穂子さん。歳を重ねるに従って、作品はどんどんと重厚になってきているように思います。

香りで万象を知ることのできる「香君」に守られている国・ウマール帝国は、奇跡の稲〈オアレ稲〉によって繁栄してきました。けれども近年、虫害により国の存亡にかかわる食糧危機に見舞われます。

香君と同じく植物の香りから様々なことを読み取れる少女アイシャは、誰にもそれを打ち明けることができず、深い孤独を感じていました。自分の力を疎ましく思うとともに、香りから得られる様々な生き物の豊かな営みは、アイシャに喜びももたらせてくれます。相反するアイシャの思いをていねいに綴りつつ、並行して描きだされる国の憂いや統治者の苦悩、思惑、駆け引きは、架空の世界のこととは思えない力で読み手を翻弄します。

未来に希望を持つことが難しく思える時もありますが、それでも自分の想像力を駆使して、どうすれば少しでも良い未来につながるのか考え続け、できる限りのことをして生きていく先にこそ「希望」を作り出せるのかもしれない、と思わされた物語でした。

 

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「偶然の散歩」 森田真生 ミシマ社

数年前、土佐町で森田真生さんの講演会があるのだけれど行ってみない?と友人が誘ってくれました。その少し前に『数学の贈り物』を読んで、その端正な文体に魅了されていた私は即答で「もちろん!」。期待でわくわくしながら、当日を待ったことでした。

森田講演会に出かけたことがきっかけで、土佐町にご縁を得、今こうして仕事をしているのですから、人生何が起こるかわかりません。そんなこともあり、森田真生さんは私にとって大事な存在で、新作が出ると読まずにはいられない作家の一人です。

ごくありふれたこと(に見えるあれこれ)から、そのどれもがありふれたものはなく、様々な偶然の重なりの結果なのだと伝えてくれるエッセイの数々。その言葉に触れるたび、自分を取り巻くいつもの風景、いつもの会話が、貴重で美しいものに感じられました。

 

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「美しいってなんだろう」 矢萩多聞,つた 世界思想社

2002年から本作りの仕事に関わり始め、これまでに350冊を超える本の装丁を手がけていらっしゃる矢萩多聞さん。

9歳のとき両親とはじめての海外旅行でネパールを訪れたそう。それを契機に人生ががらりと変わったわけではないけれど、それを境に、緩やかに人生の潮目が変わったとふり返る。

父になり娘のつたさんが9歳になったとき、矢つぎばやに問いを繰り出してきた「美しいってなんだろう」「絵や文字を書くのが上手いこと下手な子がいるのはなぜ?」「魚のように泳げる子とそうでない子がいるのはなぜ?」。

そこから多聞さんは自問する。美しいもの?美しいもの…。多い出されるのはインドの何のことはない日常の風景。ココナッツ売りの見事なナタさばき、水牛のそそり立つ角、鉄鍋で塩豆を炒る音。 美しいものは、ときにはみにくく、残酷でもあると語る多聞さん。

私も自分に問いかけてみる。「美しいってなんだろう?」。

 

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「ルリユールおじさん」 いせひでこ 講談社

ソフィーの宝物は大きく立派な植物図鑑です。ところが何度も何度も読んでいるうちに閉じ糸は弱くなり、ある日、ページがばらばらになってしまいます。本屋に行けば新しい図鑑はたくさんあるけれど、ソフィーに必要なのは、この本を直してくれる人でした。

やっと見つけた「ルリユールおじさん(製本職人)」は、図鑑がソフィーにとってどんなに大切なのかを理解し、丁寧に綴じ直し、世界にたった一冊の図鑑に生まれ変わらせてくれました。本を抱きしめたソフィーの姿のなんて幸せそうなこと。このシーンを読むたび、私も幸せな気持ちになります。

興味津々でおじさんの周りをうろうろしながらおしゃべりするソフィーと、ルリユールおじさんの受け答えから醸し出される穏やかで満ち足りた時間は絵本ならではのもの。おとなの方にも楽しんでほしい作品です。

 

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「生まれかわりのポオ」 森絵都作 カシワイ絵 金の星社

動物を飼っていれば避けることのできないものに、永遠の別れがあります。いつか来ることがわかっていても、それは悲しいことだし、受入れることは簡単ではありません。

ポオは最初はママの猫だった。白に黒のぶち模様があって、背中の真ん中の模様はきれいなハートマークをしてるんだ。ポオを見たとたん“ビビッ”と感じたママはポオを飼うことに決めたんだって。 そして9年前、ぼくが生まれた。ぼくとママとポオ。生まれた時からこれがぼくの家族だった。
でもぼくよりずっと年上だったポオは、おじいちゃんになるのも早かった。うすうす、その日が来ることは、わかっていたけれど、ほんとうにその日が来た時、ぼくはただただとほうもなくさびしくて、考えることは一つきり。「ポオに会いたい」ただそれだけだった…。

あたりまえがあたりまえじゃなくなることの喪失感を埋めてくれるもの。それはたとえば、一つのものがたりかもしれないし、世界に対する新しい視線なのかもしれません。これから先、何度も体験するだろう別れのときに、この本のことを思い出せたら良いなあ。

 

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