
おばあちゃんとよく会う道から
近所に元気なおばあちゃんがいる。
大抵いつも自転車に乗っている。
ある日の夕方、私が出かけようと外へ出たところ、おばあちゃんが向こうから自転車で走ってきた。
「こんにちは」と挨拶すると、自転車を止め「あんたどこ行くん?」と言う。
「今日は娘の部活の保護者会なんです」と答えると「ふーん、そうか。部活、部活はいいよね。私の息子はソフトをやってた」
と、おばあちゃんの話が始まり、しばらく立ち話をした。
いつも自転車で走っているので「お元気ですね。おいくつですか」と尋ねると、「いくつに見える?」と、茶目っ気たっぷりの笑顔でこちらを見ている。その表情を見ながらどう答えるべきか考えていると、待ちきれなくなったのか、「昭和16年生まれ」と。
「それじゃあ、戦争中のことは覚えていらっしゃいますか?」
と聞いた。
おばあちゃんは少し考えて「父は大工で戦争に行かなかったけど、近所の友達のお父さんは戦争に行って帰ってこなかった。そのことは覚えてる」と言っていた。
そして、「お友達はみんな空にいってしまった」と、空を見上げた。そして「私の実家はあっち」と山側を指差した。おばあちゃんの話から、おばあちゃんの実家は、今住んでいる地域のなかにあったようだった。
「もう家はないんやけれど。前に実家があった時、時々帰ると、弟に『姉ちゃん、なんで帰ってきたん?』って言われたりね」と。
「お母ちゃんはもう死んでしまった。会いたくなったらお墓に行くんよ。あっちの方にあってね」
と山側を向いた。指差したのは実家の方角と一緒だった。山の中にお墓があるのだ、と。
毎日のようにおばあちゃんは自転車で走っている。
買い物や何かの用事を済ませたり、走る理由の一つに、お母さんに会いに行くことがあるのだ。
ひとしきり話したあと、「あんたと話せてよかった」と言った。「私、おしゃべりじゃろう?」と。
「おしゃべりできて楽しいですよ」と答えると、おばあちゃんはそれは思いがけない答えだったという表情になって、そして、すごくうれしそうに笑った。
おばあちゃんは、そろそろ帰ろうと自転車に乗る素振りを見せた。
「気をつけて」と言うと、「あんたも気をつけていきよ。おやすみなさい。またね」
そう言って、おばあちゃんは自転車を漕ぎ出し、家へ向かって走っていった。



