土佐町ストーリーズ

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すももの季節

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どんぐりさんとの打ち合わせが終わって外へ出ると、ワイワイとなにやら人だかりができている。

「あ!ちょっとこっち来や!よかったら持っていきや~。」

こちらを振り向いた笑顔のその人が指差した先にあったのは、かごいっぱいのすもも!

なんて美しい色なんやろう!

 

さっき採ってきたばかりというだけあって、つやつや、ピカピカ紅色に光っている。

「うちで採れたもんやき、好きなだけ持っていきや!」

カゴの前にしゃがんですももを袋に詰め、立ち上がると「え?それだけでいいが?もっと持っていきや!」と、次々と何本もの手が袋にころころと入れてくれる。

すももの入った袋をそれぞれの人が手にしながらにこにこと笑い、みんなはまたおしゃべりを始めた。

 

 

土佐町の人たちはもしかしたら気づいていないかもしれない。

すももをカゴにいっぱい採って好きなだけ持っていきやと言えること、季節の食べ物が手の届くところにあるということ、この風景が日常であることが、どんなにゆたかであるか。

こういったやりとりに、私がどんなに励まされているか。

 

私たちの毎日の中には当たり前のようでいて実は当たり前ではないことが、あちらこちらにちりばめられている。

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民間療法?

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出張中の車内、昭和生まれの職員が3人集まるとこんな話になりました。

 

「そういえばたぬきの油とかあったよね」

「何にでも効くゆーてね」

「うち、今でも冷蔵庫に入ってますよ」

「ホンマに効くがやろうかねぇ」

「でもたぬきの油、刺さったトゲを抜くのにはえいで!ちょこっと塗って一晩置いちょったら、トゲが抜けちゅうがって」

「ええー!何の成分なんやろう?」

 

「火傷にはよくアロエ塗りましたよね」

「フキとかも使いよった気がする」

「え?フキの葉?茎??」

「茎。消毒になるとかゆーて」

 

「ぼく、小さい頃、車酔い予防にゆーて、車に乗る前にセンブリ飲まされよったがよ。でもあれ苦いやん?そんなもん飲んで乗ったら余計酔うわね」

「センブリって腹痛用なんじゃ・・・」

「腹痛といえば、梅肉エキスとか、昔作りよった気がします」

「梅肉エキスって何?」

「梅の実を、黒うなるまで煮詰めたやつです」

「ええー、そんなん見たことない!」

「(インターネットで検索して)青い梅の実をすりおろして、汁をしぼったやつをアクをとりながら煮詰めるがやと」

 

「昔は薬とかなかったき、そんなんやったんでしょうかねー」

「いや、うちらぁ、薬箱に置き薬あったがで!それやのに・・・」

 

 

他にも、ヨモギの葉は止血ができる、とか色々ありますね。

私は小さい頃、よく蕁麻疹が出る子だったのですが、蕁麻疹には山椒がえい!と言われて蕁麻疹が出るたび庭に生えている山椒の葉っぱをかじらされていました。

良薬口に苦し?

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蛍の飛ぶ夜

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夕方に雨があがってむんむんする夜。

そんな夜は「蛍、探しに行こうよ。」とこどもたちが言う。

 

ホタルを探しに散歩に出かけた。

こどもたちが小さな懐中電灯で足元を照らす。

 

水の入った田んぼに、ピンク色のおぼろげなお月さまがゆらゆらと映る。
空を見上げると、お月さまは雲の隙間から現れたり、隠れたり。

すぐそばからも向こうの山の中からも、カエルの鳴き声がする。
腹の底から鳴いているような声、喉元で鳴いている声…。カエルの鳴き声にも色々ある。

小さな橋の下を流れる水の音、歩く自分の足音が聞こえる。
なぜこんなにもいろんな音たちが耳元に聞こえてくるのかなと思う。
夜はそんな時間なのかもしれない。

 

「あ、いたいた!」

 

雨でぬれた竹の葉の先に、ちかり、ちかり、と光る小さな灯り。
両手でその灯りを包んだ息子がそうっとそうっと、手の中をのぞき込む。

手のひらの上で黄緑色のひかりが何度か行ったり来たりして、指の先からふっと飛んでいく。

あたりをひとまわりして今度は息子のおなかにとまった。

 

ちかり。

ちかり。

ちかり。

 

「蛍は一週間しか生きられないんやって。」

そう言った息子のおなかから、ふわり。

顔をあげるとすぐそばの栗の木や、あっちにもこっちにも、山の中にぼんやりとしたあかりが灯っている。

 

「もう帰ろうか。」

「蛍さんおやすみー。」

そう言いながら、もと来た道を歩く。

 

 

玄関の明かりのまぶしさに目を細めた時、ふと気がついた。

こどもたちは「こんな日」に蛍が出ると知っている。

その感覚をいつのまにか身につけていたのだ。

 

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土佐町小学校修学旅行団!

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「土佐町小学校修学旅行団は、本日の日程を終了し、無事、宿泊先に到着致しました。保護者の皆さん、関係者の皆さん、ご安心ください。こちらは土佐町役場です。」

5月20日から22日の夕方、土佐町小学校6年生の子どもたちが神戸、大阪、奈良へ修学旅行へ行っている期間に流れた町内放送。(「修学旅行団」という言い方は面白いなと毎年思う。)

 

小学校の修学旅行だけではなく、5年生の室戸合宿や、中学校の修学旅行の時にも同じ放送が流れます。その日の夕方、役場に宿泊する宿直さんが「無事に宿に着きました!」という先生からの連絡を受けて、マイクに向かっていると思われます。

今回、6年生の長女が修学旅行に行っていたので、この放送を聞くことを心待ちにしていました。弟妹は、わざわざ町内放送の機械(電話のそばに取り付けてある)の前に座って宿直さんの声に耳をすまし「無事着いたって!」と安心したように教えてくれました。

今まで何度もこの放送を聞いてきましたが、自分の子どもが出かけているわけでなくとも、この報告を聞くと「うんうん、よかったよかった。」と思う自分がいました。
そう思えるのは、なんだかいいなと思います。多分それは私だけではなく、土佐町の多くの人がそう思っているんやないかなと思います。

 

こんな放送は都会ではありえません。
町のみんなで子どもたちを見守っているような、応援しているような感じがとてもいいなと思うのです。

 

*町内放送とは・・・
朝6時に土佐町歌(目覚まし時計がわり)、6時40分と12時40分に町のお知らせ、15時にラジオ体操第一、18時40分に町のお知らせが町内に一斉に流れます。
(町内放送の機械を取り付けると、家の中にいても放送が聞けます。)

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5月の風

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先日、お世話になっている人に土佐町の色々を詰め込んで宅急便で送った。

まず、乾燥させたゼンマイとワラビ、塩漬けしたイタドリ。

「本物はこれなんです」と知ってほしいから、山から採ったばかりのゼンマイとわらび、イタドリも少しずつ新聞紙で包む。

近所のおじいちゃんからいただいた茹でたけのこも入れた。

他にも里芋、生姜、干し椎茸、お米。

それからお花農家さんのアネモネの花束。

(土佐町高須地区の沢田みどりさんはハウスでアネモネを育てています。アネモネの時期が終わり、次の花を植える時、いつも「アネモネを取りにおいで」と毎年声をかけてくれるのです。みどりさん、いつもありがとう。)

 

箱いっぱいに詰め込んで、ハガキも入れて封をする。

これは「春風便」。

 

宅急便を送る時、いつも思い浮かぶのはその人の顔。

その人が喜んでくれるといいなと思いながら、自分が一番喜んでいるのかもしれない。

 

こんなことをしている頃、新緑の山に藤の花の色が重なり、5月の風が吹く。

木々の若葉を揺らす爽やかな風。

川の水面をきらきらと揺らしながら吹きぬけてゆく風。

うーーーん!と背伸びして深呼吸して、思わず走り出したくなるような風。

 

本当にその人に届けたいのは、実はこの5月の風だったりする。

 

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行け!土佐町中吹奏楽部

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今年の春、長男が土佐町中学校へ入学しました。

 

ぶかぶかの学ランで、自分の体より大きな自転車で登校しく姿は可愛らしく、一時は反抗期を迎えて全然可愛くなくなったと思っていた息子の魅力再発見。

 

私が中学生だった頃は、部活の選択肢が色々ありました。

バスケ部、卓球部、テニス部、バレー部、剣道部、野球部、吹奏楽部、ESS(英会話クラブ)などなど・・・文芸部なんてのもあった気がします。

今は生徒数も減ってしまったので仕方ないのですが、選択肢が少なく、野球部、男子卓球部、女子バレー部、剣道部、吹奏楽部しかないのです。

 

今年は23人の新入生のうち13人が吹奏楽部に入部したとか。

 

長男も吹奏楽部に入部しました。

男の子の親としては、運動部に入ってもらいたいなーなんて期待もありましたが、運動神経の面では私の遺伝子が圧倒的勝利を果たしているので、儚い願いでした。

 

入部届提出の際、プリントに「本入部は5月からになります」と書いていたので、それまでは中学校生活にゆっくり慣れていくのかなぁ~、と思っていたところがどっこい、さっそく朝練があるー!と朝早くから自転車で通っています。

それでも友達と一緒に行けることが楽しいようです。

 

中学校生活、エンジョイしてほしいなぁ。

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春の台所

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さっと茹でて、きゅっとしぼって、まな板の上にのせる。
菜の花は春の色。色鉛筆の黄緑と緑を重ねたようなこの色は、台所に春を告げる。

この菜の花は、和田地区に住んでいる和田さんが畑から摘んで、新聞に包んで持たせてくれたもの。
湯気のむこうに和田さんの暮らす風景が見える。

「とんとんとん・・・」菜の花を刻む。醤油、ごま、鰹節で合える。

 

春の台所は色鮮やか。
菜の花、小松菜、春菊、人参、ブロッコリー。冬の間育てていた白菜から採れる菜の花は、やわらかくて最高に美味しい。

次は小松菜をさっと茹でて刻む。塩をまぶしてごまをも加えると、春のふりかけ。
これはごはんに混ぜておにぎりにしよう。

 

春の台所に立つ。

裏山からの水が流れる音がする。
ウグイスのさえずりが聞こえる。

「そろそろぜんまい取りにきや」。
近所の人が言ったその言葉だけで、もうそわそわしてしまう。

 

 

春の台所は忙しい。

ぜんまい、イタドリ、ワラビ、たけのこ、たらの芽…。
山菜たちが順番にずらりと並び、食べてもらうのを待っているかのようで、うれしさ半分「お願いやき、ちょっと待ってて!」と言いたくなる。

ぜんまいをゆで、イタドリの皮をはぎ、ワラビに灰をふりかけ、茹でた筍を水につける。たらの芽はそのまま天ぷらに。
とにかく毎日、何かしらの山菜たちと向き合う日々。

 

きっとこの地のお母さんたちもそうだったに違いない。
春の声を聞いて、そわそわしながら、ちょっと焦ったりもしながら、せっせと春の仕事をしてきたんだ。
お母さんたちは、台所でどんな風景を見てきたんだろう。

 

歴代のお母さんたちの気配を感じながら、今日のおかずの出来上がり。

 

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しいたけラッシュ

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「しいたけ、いるかよ?」
今年もこの季節がやって来た。

近所のおばあちゃんから袋いっぱいのしいたけをいただいた。

「しいたけを裏側にして干すと赤くなるき、上を向けて干すとえい」と教えてくれたので、早速茶色のかさの方を上にしてエビラに並べる。
遊びに来た小さな子が「パン、いっぱい!」と指差した。
確かに、こんがり焼けた丸いパンがたくさん並んでいるみたい。

しばらく良い天気が続く時は、天日干しの干し椎茸ができる。
天気があまりよくない時は、乾きやすいように薄くスライスして干したり、雨が続く時は冷凍しておく。

 

うちの裏山でもしいたけを作っていて、おばあちゃんがしいたけを持って来てくれた日に山へ行くと、あるわあるわ、駒打ちした原木からしいたけがいくつも、あっちにもこっちにも出ていた。

もう見事としか言いようがない。
どうしてしいたけたちは、今この時に一斉に大きくなるのか。

しいたけたちが、もしちょっと時期をずらしてくれたなら夏にも冬にも新鮮なしいたけが食べられるのになと思うけれど、しいたけの旬は春と秋。それは決めているらしい。

だから今、あっちの山でもこっちの山でも、しいたけラッシュ。

 

 

あっという間にカゴがいっぱいになった。
家にある全てのエビラと丸いざるを総動員してしいたけを干す。
一体いくつあるのかと試しに数えてみたら、なんと193個もあった。

しいたけを作っていないお友達にあげるととても喜んでくれる。
上手に干せたら遠くに住んでいるお友達に送りたい。

 

「しいたけ、いる?」
これはこの季節のご挨拶。

昨日はしいたけごはん、今日はひじきの煮物にしいたけを入れた。明日はバター醤油炒めにしようかな。

しばらくしいたけと向き合う日々が続く。

 

 

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松子さんの炭

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「松子さんの炭」が届いた。
30キロのお米が入る袋いっぱいにぎっしりと入っている。
「松子さんの炭はキンキン、キンキンと音が鳴る、とても良い炭やきね。そういう炭は長持ちして火力が強いんよ。」と、届けてくれたみちさんが教えてくれた。

 

2018年2月18日に行った「シルクスクリーン&くるくる市」のイベント。この日、手作りぜんざいを七輪で温めて出すことにした。七輪には炭が必要だが、家にあった分だけでは足りなかったので買うことにした。
もちろんお店で買うこともできたけれど「みちさんに聞いてみよう」と思いつく。

みちさん、こと岡林孝通さんは土佐町の黒丸地区で炭を焼いている。早速電話してみると「僕がつくってるのは竹炭やき、あっという間に燃えちゃうから広葉樹の炭の方がえいと思う。心あたりを聞いてみるから。」と言う。

次の日連絡があった。

「種田松子さんが炭を分けてくれるって。松子さんのご主人が10年前に焼いた炭を大事に取っておいたのがあるから、それを使って、って。」

 

種田松子さん。土佐町役場から車で約50分の山の中、16世帯28人の黒丸地区に住んでいる。

炭を焼いた松子さんのご主人は、8年前に亡くなったのだという。
大切な炭なんやないかな…と言うとみちさんは言った。
「『鳥山さんが炭を分けてほしいって言ってる』と伝えたら、松子さんは『あ、鳥山さんねえ』ってちゃんとわかってた。」

 

少し話をさかのぼる。

2017年7月に黒丸地区で行ったパクチーフェス
その時にたくさんのゼンマイを提供してくれたのが松子さんだった。乾燥させた太くて立派なゼンマイが大きな袋いっぱいに入っていた。その量を作り上げるのにどんなに手間暇かかるか、土佐町で暮らしているとそれはわかる。
せめてものお礼にとパクチーハウス東京の佐谷さんと一緒に家に行き、フェスで作った料理の数々を詰めたお弁当を届けたのだった。
松子さんはその時のことを覚えてくれていた。

 

その7ヶ月後に松子さんから炭を分けてもらうなんてことは、想像もしていなかった。

今までしてきたことがどこかでゆるやかに結ばれて、新たな出来事となって目の前に現れる。

あの時と今は、実はつながっていたのだといつもあとから気づく。

 

 

松子さんはシルクスクリーンのイベントに来てくれたので直接お礼を伝えることができた。「使ってくれてうれしい」という言葉がありがたかった。

 

松子さんの炭でちょうどよく温まったぜんざいをみんなが美味しそうに食べていた。

松子さんのご主人は、自分の焼いた炭が10年後、こんな風に使われることを想像していただろうか?

 

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春はここにいる

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どっどっどっどっどっど、どっどっどっどっどっど…

「この音、久しぶりに聞いたなあ」と思って振り向くと、向こうの道をトラクターが走っている。

 

ああ、またこの季節がやって来た。

 

2月4日の立春を過ぎた頃から動き出す。

耕運機を載せた軽トラックが走り、田んぼの傍に肥料の袋をたくさん積む人たちがいる。

冬の間、静かだった道がにわかに賑やかになってくる。

 

「ああ、この田んぼ、もう田起こししたんやなあ。」

冬の間、霜がおりて白くなっていた田んぼが耕され、ふっくらしたこげ茶色の土が姿を見せる。

眠っていた大地が目を覚ます。

 

 

遠くで小鳥の鳴き声が聞こえる。きっと、掘り返された土の中から出て来た虫を探しに来たのだろう。

 

春はもう、ここにいる。

 

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