土佐町ストーリーズ

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遠い日の記憶

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町内にあった保育園が統合して1園となり『みつば保育園』が誕生したのが平成18年のこと。

それまでは土佐町には『田井保育所』『はと保育所』『石原保育所』の3園ありました。

私は『はと保育所』に通っていたのですが、当時は子どもも多く、送迎バスがありました。

相川方面と土居地区方面の2便あったと記憶しています。

 

私が通っていたのはもう30年以上も前。

昭和50年代が終わろうとしている頃です。

 

土居地区方面への帰りのバスは、上ノ土居→土居→大谷と、順番に子どもを降ろしていきます。

私は土居で下車しているのですが、その日は上ノ土居のお友達に「一緒に下りよう」と誘われました。

上ノ土居は1つ手前のバス停で、上ノ土居で下りても、私の家まで徒歩1分程度でしたので、軽い気持ちで下車しました。

 

そして家に向かって歩いていると、向こうから怒りの形相の祖母の姿が・・・。

いつもバス停まで迎えに来ていた祖母は、私がバスから降りてこないので、
運転手さんに「これこれこういう子が乗ってなかったか」と聞いたところ
「上ノ土居で降りましたよ」と言われたらしく、探しにきたのです。

 

「勝手に他の所で降りたらいかん!!」と叱られました。

 

その当時は「別にえいやんか~」と思っていましたが、今思うと、心配しただろうなぁ・・・。

あの時の道の向こうからやってくる祖母の姿は、今でもありありと思い出せます。

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しし汁の約束

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「おーい!」

まだ朝もやが立ちのぼっている中を近所のおじいちゃんが手招きしている。

車を道の脇にとめて窓を開けるとおじいちゃんは近くに来て言った。

「昨日、しし(猪肉)をもらったんよ。今日炊くから、仕事の帰り、来れたらいらっしゃいよ。」

私の息子には「昨日来た時、もう伝えてある。」と言う。

息子は学校帰り、毎日のようにおじいちゃんの家に寄っては、テレビで『はぐれ刑事純情編』を見せてもらうことを楽しみにしている。
昨日の夕方も寄っていたらしい。

「じゃあ、息子と一緒に行きますね。」

 

息子は昨日、おじいちゃんの家にしし汁(猪肉との野菜の味噌汁のこと)を食べに行く約束をしていたのだ。
私も今日、おじいちゃんと同じ約束をした。
それぞれでしていた約束がこんな風につながったりする。
この日は一日中「約束」のことを何度か思い出しては温かい気持ちになった。

でもこの日の夕方、思ったよりも帰りがずっと遅くなってしまった。
申し訳ないと思いながらおじいちゃんの家を訪ねると、おじいちゃんがいつもいる小屋の薪ストーブの上には大きな鍋が置いてあって、その中にはしし汁がたっぷり入っていた。

小屋の中の温かさや鍋のふたの隙間からゆっくりとたちのぼって行く湯気の感じから、ずっと待っていてくれたことが伝わってきて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「遅くなってごめんなさい。」と言うと、おばあちゃんは笑って違うお鍋にしし汁をたっぷり入れてくれた。
「晩ごはんに食べなさいよ。」と言って。

息子が来たのかどうかを聞くと「来んかった」。

そして「このままだとまけるけ(こぼれるから)、トラックで運んじゃお」と言う。
そこまでしてもらっては申し訳ないと言うと「かまわんかまわん。」と軽トラックに乗り込んでしまった。

 

おばあちゃんは私の家までお鍋を運んでくれた。
受け取った鍋はホカホカと温かく、帰ろうとするおばあちゃんの軽トラックのライトがとてもまぶしかった。

私が鍋を抱えて家に入ると、息子が「それ、なあに?」と聞く。
「おばあちゃんがしし汁をくれたよ。」と言うと

「あ、僕、約束忘れてた…。」
しまった、という顔をしていた。
「約束忘れちゃってごめんなさい、って言わんといかんね。」と話すとうなずいていた。
その夜、息子は何杯もしし汁をおかわりした。

次の日の朝、「今日学校の帰りおじいちゃんち行ってくる」と行って息子は学校へ出かけ、夕方遅くに帰ってきた。

 

「おじいちゃんがね、今度柿とりにおいで、って。」

次は柿を取りに行く約束ができた。

 

家の窓から見えるおじいちゃんとおばあちゃんの家。
いつもおじいちゃんとおばあちゃんがあの場所にいてくれて「約束」を楽しみにしてくれていることを本当にありがたいなあと思う。
おふたりに何を返せるのかな…といつも思う。

 

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きのこ

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土佐町で唯一の産直市「さとのみせ」。
石原という地域の住民グループが毎週日曜日に国道439沿いにオープンしている。

長男を連れてドライブがてら行ってみた。
行ったのがお昼になるギリギリの時間だったのでもうほとんど売り切れてしまっていたけれど、
陳列ケースには美味しそうなサバ寿司やたけのこ寿司が並んでいた。

薄緑かかったツヤツヤの綺麗な黄色のたけのこ寿司と、
味付きご飯が好きな長男が選んだ山菜おこわを手にとって野菜コーナーを見ると、
唯一残っていた存在感のある大きな「しいたけ」。
肉厚で子供の手のひらよりも大きいカサは、プリッとしていてみずみずしい。
これこれ!と思いながらもちろん買う。

高知は意外ときのこ類の生産が盛んなのか、
山間地に住んでいる人はしいたけを自分の家用に作っている人が多い。
高知市内の産直市にもたくさんしいたけが出ているし、中にはエリンギやえのき茸もある。
四万十ではしめじも栽培している。

冷蔵庫にいろんな種類のきのこが揃ったので、夕食は迷わずきのこ鍋にしよう。
ホカホカの湯気が出る鍋料理は秋や冬の季節にぴったりの調理法。乾燥する季節に
立ち上がる湯気。体を中から外から潤してくれるそれも薬膳の食養生なのです。

いろいろきのこ鍋

【材料】
しいたけ・えのき茸・しめじ・エリンギ・黒きくらげ・白菜・豆腐・春菊・昆布・ポン酢
(その他、お好きな具材を入れて、味噌味やキムチ味にしても。)

【作り方】
①土鍋に水と昆布を入れて火にかける。
②石づきを取って食べやすい大きさにしたきのこ類を加える。
(私の場合はきのこエキスをしっかり出したいので早めに入れて煮てしまいます。)
③適当な大きさに切った白菜・豆腐・春菊を加えて一煮立ちさせて出来上がり。

秋冬はこってり味噌や豆乳スープが合うけれど、あえてポン酢でさっぱりと。
我が家は頂き物の今が旬のすだちをたっぷり絞っていただきました

 

ちなみにきのこによって薬効が変わってきます。

しいたけ・・・ 食欲のない時、胃もたれする時。高血圧や高脂血症に。免疫力アップ
えのき茸・・・ お通じをよくしたり、美肌効果あり!
エリンギ・・・ から咳が出る時や手足が火照っている時に。
しめじ・・・  貧血や高血圧に。ガン予防にも。
黒きくらげ・・・血液さらさら効果。から咳、乾燥肌にも。

 

鍋をしたら残りの出汁は絶対捨てず、シメや翌朝の朝食に雑炊を!
きのこや野菜、いろんな食材から出る最高の薬効出汁になっていますよ!

土鍋に残った栄養たっぷりの出汁にご飯を入れて一煮立ちさせたら溶き卵を回し入れ、蓋をして火を止める。
30秒くらい待ったら蓋を取ってふわっと立ち上る湯気の向こうに
ふんわりとろりとした卵のかかった雑炊が!

あ〜、美味しいに決まってる!
部屋中の窓を湯気で曇らせながら、こたつでホカホカ。
また今晩もお鍋だな。

 

 

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げに、まっこと

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これぞ土佐弁!という土佐弁を使うことが減ったと思う今日この頃ですが、最近耳にした土佐弁を紹介します。

 

「へらこい」・・・ズルい

「しのべる」・・・しまう、片付ける

「めっそう」・・・さほど、それほど

 

使い方としては「あいつはへらこい」「これ、タンスにしのべちょって」「めっそう残ってない」とか、こんな感じ。

自分より若いおねーちゃんの口から「めっそう」なんていう言葉が飛び出すと面食らいます(笑)

 

 

あと初耳だったのが「てんくろう」。

「あいつは『てんくろう』やき」

使った人にどういう意味か聞いたら「俺の親父みたいなやつのことよ!」とのこと。

全然わからなかったので調べてみたら「知恵が回る、頭の回転が速い」という意味だけれど
どちらかというと「悪知恵が働く」という意味合いが強いみたい。

 

それから、他県の人に説明しづらいけど、使い勝手がいいのが『のうが悪い』。

よく『脳が悪い=頭が悪い』っていうこと?と誤解されるのですが、そうではない。

 

洋服の着心地が悪かったら『のうが悪い』

物の使い勝手が悪かったら『のうが悪い』

 

 

他にも色々面白い土佐弁があるぜよ~。

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娘のおみやげ

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「かーさん、おみやげ!」

保育園にお迎えに行ったら手渡された一枚の葉っぱ。

お庭で見つけたとのこと。

落ちているのを見つけて手にとって、じっと眺めたのだろう。

その姿が目に浮かぶ。

この葉を「おみやげにしよう」と思った娘を、とてもいいなと思う。

春、夏、秋、冬。この町のめぐりめぐってゆく季節が娘の感性を育ててくれている。

 

 

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栗とお天道さま

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「栗いるかね?」

近所のおばあちゃんが栗をくれた。

エプロンのポケットから、これも、これも、と5個ほど手のひらにのせてくれた。

もうそれだけで、手のひらからこぼれそうなほど大きな栗だった。

栗はほんのりと温かかった。

「茹でてあるんですか?」と聞くと

「茹ででないのよ。お天道さまのぬくさよ。」

 

じん、とした。

 

帰り道、お天道さまは山の向こうへ沈み、もう夜を迎えつつあった。

ふと空を見上げると、銀色をしたお月さまが静かに光っている。

まるでひとつのおはなしの中にいるみたい。

栗、お天道さま、月、おばあちゃん。

この地で暮らす人たち、いつもそばにあるものたちが、毎日をちょっと特別な日にしてくれている。

 

 

 

 

 

 

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知らなかった

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今年の夏、相川コミュニティセンターのプールで見つけた蟹。

卵を持っています。

 

どこで産み落とすのかなー、なんてその時は思っていました。

38年間生きてきて、私は知らなかったのです。

蟹が卵をどうするのか。

 

みなさん、知ってます?

 

こうなります。

 

見えますか?

お腹に蟹の赤ちゃんがわんさか・・・。

これは、友達の子どもが川に遊びに行った時に見つけた蟹で、私が見つけた蟹とは別蟹です。

 

 

 

 

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厳島神社と龍神(伊勢川)

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伊勢川から溜井へ通じる林道を登りつめたあたりに谷川があって、その少し上の小高く深い茂みの中に、厳島神社がありその前に田が広がっています。

そこは、昔はずっと池じゃったと言います。

いつのころか知らんが松の木を伐って投げ込んでは土を入れて田にしたそうです。

その昔の池にゃ龍神さんが棲んでおいでると言われていました。

そこの近くに杉囲いの家があったそうです。いつのころか、その家の囲いの杉に蛇がやってきて巣をこしらえたそうな。

子をかえしたら困ったことじゃと言いながら、何日かたって、いよいよ明日は除けようと言うことになった晩のこと、もう一日だけ待ってくれえ言うて、夢の中に蛇が出てきて頼んだそうな。

それを聞かずに、明くる日に囲いの木に火をつけて焼き殺してしもうたと言います。

それから、その家は他所に移っていってしもうたが、その人はあついきに水をかけてくれ、水をかけてくれ言うて死んでいったそうな。

えらい熱病じゃったもんじゃが、あの焼き殺した蛇が、厳島の龍神さんじゃって、そんでその人は焼き殺されるように死んでしもうたと言います。

町史(「土佐町の民話」より)

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片目の蛇(五区)

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昔、野中兼山と言う人が新井堰を作った時、何べんついても堰がこわれるので、まもり神として蛇を入れた。

そうしたら堰がこわれずに完成したと言われています。

今でも床鍋の新井堰の附近にいる蛇には片目のものが多いと言われています。

堰の上の方に蛇神さまと言うのを祭ってあります。

今でもこの近くの畑で蛇を見つけたりした時には、蛇神さまにお供えものをして出て来ないようにお願いする風習があると言います。

また、この堰に放尿(おしっこ)すると雨が降るとか、片眼の蛇がこちらのヒノジ(日あたりのよい側)から対岸の陰地(かげじ)へ渡っても雨が降ると言い伝えているそうです。

 

桂井和雄 (「土佐の伝説」第二巻より)

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蛇渕(上津川)

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上津川に独鈷山(とうこうさん)言うて土を盛ったような山があるが、その下は深い釜(渕)になっていて、そこに蛇がおったと言うのう。

蛇渕言うて誰も泳がんとこでした。

昔、その渕の近くに家が一軒あって、屋号をコウナロと言いよった。

この川の奥にも、も一つ蛇渕言うところがあるんじゃが、大昔のこと、このコウナロへ「上にはもうおれんのでここへ泊めてくれえ。」言うて人が来たので泊めちゃったそうな。

そして、「寝姿は見んようにしてくれえ。」言うたそうな。

ところが昔はマイラ言うて板戸の障子じゃったもんじゃきに、その板戸に小さな節穴があいちょったそうな。

そこから見たところが、電燈のない時のことで行燈(昔の照明具)をきりきりと三巻きも巻いて、蛇が寝よったそうな。

わしの寝姿見た言うて、帰りがけに蓋を開けんずつにお祭りしてくれえ、そしたら幸せにしちゃる言うて箱をくれたと。

どればあの大きさやったか、そりゃ知らんが、それをもろうてお祭りしよったけんど、まあ、何が入っちゅうろうと思うて開けて見たと、そうするとトカゲみたいなもんが這い出て来たと。

そんなことがあってすぐにアカダケ言う所が潰(つえ)て、畑も広かったんじゃが、川縁の畑も半分足らずになって流れてしもうた。

それからだんだんに幸せが悪うなって、今は家ものうなったわね。

蛇渕の山には弁天さんを祭って、昔は大川村からも雨乞いにお詣りに来よったもんよ。

 

町史(「土佐町の民話」より)

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