山門由佳

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

山門由佳

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「HAIKUGRAPHY 『season’s cafe』」 沼田元氣 ギャップ出版

ミニチュアというものは、ぢーーっと見れば見るほどおもしろくて、みている間、時空をこえてその世界にひきこまれる感じがします。こちらの本、たて9センチ、よこ6センチのかわいいサイズです。いわゆる豆本とよばれる部類に属するでしょうか。

喫茶をこよなく愛するカメラマンの著者が、季節を大切にする俳句と組み合わせた喫茶&俳句&写真集です。

この豆本を手のひらの上でひらくと、いつでも憩の空間が。喫茶の俳句と喫茶店の写真。 たった17文字の言葉と、喫茶店の一部を切り取った写真が想像を掻き立てます。

小さきものの大いなるエネルギー。ここでお気に入りの一句をいくつか紹介します。

 

八月の カフェの暗がり 熱帯魚

残暑過ぎ 喫茶店で 人老いし

枯葉舞い スプン一杯の 涙かな

窓際の コーヒーカップの 影長く

カフェは温室 冬のテーブル チューリップ

ほがらかな 女と行くカフェ 春近し

夢やぶれ でも喫茶店がある 冬木立ち

 

どれもいいですねぇ。 喫茶店の情景、喫茶店での心情がありありと浮かびます。

 

 

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山門由佳

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「母の友」 福音館書店

今年創刊70周年(!)という「母の友」。何度となく見聞きしたことあったはずのこちらの雑誌を手にとったのは実ははじめてかもしれません。 リニューアルされた表紙のデザインに惹かれてページをめくりました。
さっそく目に飛び込んできた、

子育ての真っ最中、多くの母たちはもともとの自分の容量をはるかに超えるミッションをたくさん抱えて、つぎはぎと無限マラソンのような毎日を過ごしている。

との一文を読んだだけで、引き込まれました‥ なぜ!こんなに!わたしの!気持ちが!わかるんですか〜〜〜 と一気に「母の友」に友情が芽生えてしまいました。

さらに 、

けれど、母親の献身は「当たり前」視されるため、積み重ねた努力がねぎらわれケアされる機会は少ない。それどころか、子供を通信簿扱いして、減点方式で「よい母親かどうか」ジャッジする意地悪な目線が、内に外にうようよ漂っている。

との一文に心緩んで泣いてもいいですか??

育児の幸福や誇りと背中合わせのプレッシャーのなか、もう母は十分に頑張っている。

‥完全に号泣!!!!

【もう十分に頑張っている】 ほんとはそんなふうにねぎらわれて、頭のひとつやふたつよしよしされたい自分の願望に気づきました。

母だから、妻だから、娘だから、 と強く心を持たないといけない場面が多すぎて。 ほんとはわたしだって甘えたり、お世話されたりしたいんですよ。 きっとそうおもってらっしゃる世の母、いっぱいおられるはずです。

 

 

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山門由佳

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「作家の猫」 平凡社

のっぴきならない事情で、居候していた猫を手放しました。その猫とは忘れもしない不思議な出逢いかたでした。

息子がクリスマスプレゼントに「猫がほしい」と話した30分後に、家の駐車場にその猫は現れました。息子もそれには驚き、サンタさんってほんまにおるんやなぁ!と大喜び。それから、その猫との暮らしがはじまりました。

その昔、実家で飼っていた猫達に何度となく痛い目に合わされた経験があり、猫を飼うことに対して正直あまり気が進みませんでした。突然現れたその猫に対しても【飼う】というより【居候している】といった一定の心の距離を保ちつつ暮らしていました。

先日。その猫を新しい飼い主に引き渡すとき、息子は当然渡したがらず必死の抵抗をしましたが、私はわりとあっさりとした気持ちで見送れました。それから10日ほど経ち、新天地で暮らすその猫の様子を見にいく機会があり、のびのびとした環境で幸せそうに暮らすその猫を抱いたとたん、えも言われぬ寂しさに襲われたのです。猫の新たな幸せを確認したと同時にもう本当にここへ戻ってこないこと、もう気軽に抱いたり、撫でたりできないということに遅ればせながら気づいてしまったのです。

そこからずーっと車内で猫の話をしつづけ、ケータイのカメラロールに写った猫の写真を見返しまくり、仕舞いにはすこしリアルなつくりで重みのある猫のぬいぐるみまでポチッていました。。。 ‥わたし、こんなに猫好きやったん。。。?

『猫には不思議な魅力がある。』 よく言われるその言葉どおり魔力にかかった人たちをたくさん見てきて、なにより自分の父は取り憑かれたかのように猫に執着し、今まで自分はその呪いにかからず済んでいたのに、猫を失って強烈に自分にもその言葉の意味を知る日が来てしまうとは、、、 その猫は天井裏を走っていたねずみを一掃し、子どもたちの遊び相手、孤独を慰め、息子が一人で留守番、トイレにいけるようになったのもその猫のおかげです。短い時間にたくさんのものをわれわれに与えてくれました。心より感謝です。

そしてまた大の苦手なねずみが現れないかとビクビクする私に戻り、家のそこかしこに確かに存在した痕跡と残像、在宅時間が長かった者どうしの二人だけの思い出に浸りながらいつかまた猫と暮らせる日を夢見て、ひざにポチった猫のぬいぐるみを乗せてページをめくるのです。

ありがとう、どんち。 さよなら、どんち。

 

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「ニッポン 最高の手しごと」 テリー・エリス✕北村恵子  光文社

 土佐町で織物を織っている友人、上土井恵子ちゃんの作品を見せていただく機会がありました。

今まで織物を織っている友人に出会うのは初めて。タテ糸とヨコ糸を「経糸、緯糸」と表すことも初耳というくらい織物初心者の私にとって、彼女の織物の説明を聞き、交じり合う織り目の面白さにすっかり魅了されました。そこで私が発見したのは、織物の裏側にその作者の「素」の姿を感じられることでした。

実は煎餅も裏側に、いろんな情報が表れます。手焼きなのか、機械焼きなのか。職人がどのようにタネ(生地)を乗せたか、まで…。 表向きのよそゆきの顔から、裏側の「すっぴん」をみせてもらうことで、より一層その作品を身近に感じられます。

手織りならではの不均一な織り目と草木で染めた優しい色合い、紡ぎ糸ならでの太いところと細いところのある、決して機械にはだせないそのリズムに温かみと人間味を感じて愛おしくなります。それは人間の手でつくりだされた民藝や工芸のすべてにいえることだと思いますが、その歪さ(いびつさ)こそ人間そのものの姿であり、そこに心が宿り、美しさを感じます。

著者のテリー・エリスさんと北村恵子さんのお二人が日本各地のものづくり作家の工房を訪ねてゆく著書。作品の裏側にある物語を聞き、時代やその土地の文化やバックグラウンドを調べ、それが生み出される現場に足を運ぶことで、強い「存在感」を放つ本物を見分けるお二人のものを見る目、美しさのものさしには感銘を受けます。

 

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「軽井沢 はじまりの森暮らし。」 morinoie  文藝春秋

その響きを聞くだけで、優雅な気持ちになる不思議な地名というものがこの世にはあります。『軽井沢』 はい、優雅です。

でもこちらの著書を読んで、そこに家を構えた人の暮らしを読んでいると、ん?土佐町での暮らしとそう変わらないのでは?と感じる部分もあります。 軽井沢も豊かな山と森の恵みを受け、田舎ならではの不便さや大変さも土佐町と似ています。

ただ軽井沢が大変羨ましいのは薫り高い文化にも触れられ、美味しいレストランがたくさんあり、自転車で走り回れる土地だということでした。

−文化が醸される街の条件は、川が流れていること、そして平地があることだと言われる。それらをいずれも満たす軽井沢は、だからこそ豊潤な文化が育まれ、自転車でスイスイと走れる、どこか開かれた軽快さがある。なるほど〜

 

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「谷内六郎のえのぐ箱」 東京新聞

かつての週刊新潮の表紙絵を担当した谷内六郎さんの絵は、誰しもが一度は目にしたことはあるのではないでしょうか?

六郎さんの描くこどもの絵は素朴で、いつだって子どもの世界とおなじ目線。こちらの著書に子煩悩で、二人の我が子の育児にも熱心だったご様子が記されてありました。

子どもたちと同じ視点で世界を見つめ、本気で遊び、いつでも全力で子供の言葉に耳を傾け、あらゆる体験を感動を持って迎え入れた六郎さん。それは「子どもと向き合う」というより、まさに「子どもと同じ方向を向いて生きる」日々。六郎さんにとっては、自身の子ども時代を追体験するような感動と発見に満ちた暮らしなのでした。とあります。

六郎さんの描く子どもたちは、時間がゆったりと流れ…日常のちいさな発見と暮らしの営みがなんとものどかで懐かしい気持ちにさせてくれます。

つい時間や用事に追われて「早く!早く!」とわが子を急かしてしまうけれど、あっという間に終わってしまう子供時代、すべての子どもたちがのんびりと情緒豊かに過ごしてほしいと願います。

 

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「日本百名宿」 柏井壽 光文社

旅行好きの両親の影響で、幼い頃から旅行が好きです。最近は好きというよりも、安定した日常生活を送るためには不安定な旅は必要不可欠なようにも思われます。

旅にでると、鈍っていた感性や感覚、細胞までが一気に目を覚まし、見聞きするすべてのものに敏感に反応し、吸収するのを実感します。

旅を彩る重要要素のひとつにどこに泊まるかの『宿』の存在。 行き先を決めてから宿を決めることが多いかもしれませんが、まず『宿』を決めて行き先が決まる、そんな旅もいいかもしれません。

年間250日以上ホテルや宿に滞在する著者の宿の率直な感想は『宿』へのあふれる愛を感じずにはいられません。 そして情景がありありと浮かぶ文章はまるでわたし達も同行しているような…。そんな気分にさせてくれます。 あぁ旅って、いいなぁ〜

 

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「ワンピースのおんな」  宇壽山貴久子,写真  すまあみ,文   草思社

ワンピース。 少女の頃、夏は毎日ワンピースを好んで着ていました。

今でもはっきり憶えているフルーツの柄のワンピース、リボンのついた水色のストライプのワンピース、うすい黄色の水玉のワンピース…ワンピースは女の子をかわいくみせる。ワンピースは女の人を綺麗にみせる。ワンピースは女性を包み込んで優しい気持ちにさせてくれる。かわいくも、かっこよくも、フォーマルにも、リラックスにも。 おなじワンピースでも、着るひとがちがえばその姿は全然ちがった印象になる。ワンピースは百変化する魔法のお洋服かもしれません。

子どもが生まれてからワンピースを着ていると、子どもたちはワンピースの中に潜り込もうとしてくる。 ワンピースをめくられたら…えらいこっちゃになるので、今はしばし素脚にワンピースはおあずけです。

 

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「POPEYE (ポパイ)」  マガジンハウス

雑誌「POPEYE」は創刊からもうすぐ50年というご長寿雑誌なので、ご存知のかたもたくさんいらっしゃると思います。

ヤングで、シティ在住の、男性。をおそらくターゲットとされていると思われるのですが、アラフォーの、田舎在住の、子持ち女性。という一番正反対であろうわたしの心を掴んで離しません。

特に好きなテーマは【ガールフレンド特集】です。 いろんなピチピチしたおしゃれなカップルたちのデートの様子やいかに女の子を喜ばせるには?という特集をなぜか最も好みます。わたしは男性なのでしょうか? いや、きっと男性目線なのかもしれません。

「POPEYE」の雑誌からはちきれ出るほどに満ち溢れている、ヤングなパワーとエネルギー、いつも頂戴しております∞拝

 

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山門由佳

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「海のアトリエ」  堀川 理万子・著 偕成社

ちょっといろいろ、いやなことがあって、学校に行けなくなった主人公の女の子が海のそばに住む画家の女の人と暮らした一週間だけの夏のひとときの物語。

朝、いっしょにふしぎな体操をして、海に散歩にでかけて波の音を聞いて風に吹かれる。絵を描いたり、ねことあそんだり、昼寝したり本を読んだり、考え事したり‥ そのうちとおくの海と空がオレンジ色になったら、香りのする水で乾杯をして…。

画家の女の人は、女の子に何があったのか問いただすこともなく、ただただそばにいて同じ時間を過ごす。自然のリズムに耳を傾け、様々な創作活動を通して女の子の心は癒やされ元気を取り戻していく。たった一週間だけの共同生活が、永遠にその少女の心を支える特別な思い出となる。

心がちぢこまって窮屈なように感じたら。感性を刺激され、やわらかで自由な心を取り戻せるセラピーのような一冊だと思いました。

 

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