山門由佳

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

山門由佳

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「畑の一年」 向田智也 小学館

この春、畑で苗から育てて立派なキャベツができた! はじめての収穫体験は想像以上にうれしかった。もしかして、子どもを立派に大人に育て上げたような達成感に似ている‥のかな?? まだ育児は道半ばで、その達成感を味わうにはまだまだ時間が要るけれど。

しかしキャベツは立派に育ってすっかり食べ去り、こんなわたしでもあんなものができるんだ!とおおきな歓び、ちいさな自信へとつながった。またせっせとさつまいもやら生姜やら頂いたスイカ、オクラ、ナスの苗を畑に植えた。

元気がないとき、草むしりをする。 むしりまくっているうちに、元気が出てくる。土がわたしのなかのマイナスの氣を吸ってくれているように感じる。そしてありありと目に見えてわかる草むしりの成果も爽快。 あとごぼうを種から育てているけれど、なかなか成長がゆっくりで、どうなっていくのかこちらもまた目が離せない。やっぱり、畑は子育てに似ているかもしれない。大変だけど、興味深い。手間も時間もかかるが、大きくなるのが楽しみで、その過程こそ愛着の湧く源であり。

こちらの一冊は、季節とともに移り変わる畑の地上と地下の様子が描かれていて一目瞭然でわかりやすい。畑にたくさんの生き物たちが密接に関わり合いながら暮らしているのがよくわかる。人間の世界もおなじ。いろんな年代、いろんな性格の人が暮らしている多様性。畑を通して、人生や社会を感じられる。そんな壮大な話になってしまいました。

 

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「12のめるへん」 畦地梅太郎  あとりえ う

畦地梅太郎さんの絵に出会ったのは、土佐町の隣町にあるmont-bellで。 mont-bellのTシャツコーナーで見つけた、髭面の山男の版画が魅力的だった。 力強い線、好きな色づかい、動物や人物の表情もとっても愛らしい。

もっと畦地さんの作品が観たくて、畦地さんの故郷、愛媛県宇和島市にある「畦地梅太郎記念美術館」を訪ねた。 そこで手に入れたこちらの一冊。 畦地さんの思い出話と共に添えられた版画が、これまたほっこり優しい気持ちにさせてくれる。

ちなみに農機具メーカーのISEKIの創立者である井関邦三郎さんも同じ故郷のようで、畦地さんの美術館の横に記念館が併設されていた。

 

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「さびしがりやのほたる」 エリック・カール 偕成社

蛍の季節になった。 真っ暗闇の中で、ふ〜わりふわりと浮遊する蛍の風情はなんともいえない。

もうひとつ、わたしの密かなお楽しみは…暗闇の中で見知らぬどなたかと交わすひと言ふた言。真っ暗で顔が見えないからこそ、一体感?親近感が湧き、聴こえる言葉がよりいっそう心に温かく響く。

そういえば蛍の絵本ってあるのかしらんと思い立ち図書館へ。 しかし棚に並ぶはかえる、カエル、蛙のオンパレードだった。 静かにお尻が光るだけではキャラが弱いのか、、。

しかしながら、なんとかかんとか図書館の方に見つけ出していただいたこちらの絵本。 まさかのエリック・カール氏。 かの有名な「はらぺこあおむし」の著者のものだった。 しかも〈光る絵本〉とある。 今回は残念ながら電池切れのため、〈光らない絵本〉だったけれど、きっとこれは光ったらすごく楽しい絵本だろうなぁと思った。

 

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「はじめてのおつかい」 筒井頼子作, 林明子絵 福音館書店

絵本界のレジェンドのおひとり林明子さん。全国の少年少女たちで、この林明子さんの作品を一度も読んだことがないというひとは少ないんではなかろうか。幼子の目線、表情、行動に、こまやかな心の揺れ動きを正確に捉えてらっしゃる。まるで、林明子さんが執筆中は幼子に憑依して描きあげたのではなかろうかとおもうばかり。 だから子ども達に読むと、林明子さんの絵本の世界に完全に没入しているのを感じる。

はじめてのおつかい。誰もが一度は通るミッション。幼い子にとって大いなる冒険。
おんちゃんが運転する自転車が自分の横を通り過ぎるだけで【ビクッ】
サングラスをかけてるおんちゃんに後ろに立たれて【ビクッッ】
太ったおばちゃんのおしゃべりの勢いにもまた【ビクビク】

主人公のみいちゃんのドキドキに子どもたちも自分の姿を重ねながらページをめくる。やっと買えたおつかいの牛乳。

裏表紙の、冒険してひとつ成長したみいちゃんがお母さんのそばで安堵の表情で牛乳を飲み、表紙はその牛乳片手にとびきりの笑顔が眩しい。

 

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「もう、家に帰ろう 2」  藤代冥砂 ロッキングオン

息子が一年生になった。 保育所時代、歩くのをいやがり自分の軽い荷物でさえ、持ってーと甘えていたあの息子が重いランドセルを背負って片道2キロの通学路を歩いてゆく。

朝、いっしょに通学する友達の姿をみつけると、こちらを振り向きもせずにはしゃいで学校へとむかっていくうしろ姿に、成長の喜びとともにすこしのさびしさを感じてしまった。 どんどんこうして離れていくんだなぁ、、、 あんなに早く大きくなってくれぇ〜と心から祈っていたのに、ほんとのほんとに大きくなって、離れていく予感を感じたら焦るあまのじゃくな母のわたしのきもち。 でも、これでいいんだ!これがいいんだ!…そう言い聞かせる。

この「もう、家に帰ろう 2」は著者である写真家の藤代冥砂さんの家族の写真集。息子さんを妊娠している頃からを順に追い、約6年間の記録を著者の温かいコメントと共に綴られている。 他人の家族写真なのに、自分達家族の記憶とかぶり、思わず感情移入して泣きそうになる。

一日一日は、大きな感動もなくただただ慌ただしく過ぎていくのに、一日が日々になって積み重なるとどうしてこんなにも愛おしくせつないんだろうか。 もう二度と取り戻せないあの日々。 想い出はいつだって美しい。

この素敵な写真集の表紙に落書きした幼い息子の痕跡。当時は本に落書きして叱ったのに、今ではそれですらいとおしく思える。。。 …じゃあ赤ちゃん時代に戻れますよ!といわれても戻りたくはないんだけれど。

 

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「若杉友子の野草料理教室  春」 若杉友子 ふーよよ企画

土佐町に来て2年になった。 四季を2度経験して、だんだんと季節のうつりかわりの流れがようやくつかめだした感じがする。

蛙が鳴きはじめて、田植えの予感を肌で感じ、そのあとには蛍が光りはじめて、秋までつづく蝉の大合唱…そんなあたりまえの流れに安心感と心地よさを感じる。

春は、いつもの散歩コースもあちらこちらに目をやるところがいっぱいになっていそがしくも愉しい季節。この若杉友子さんの本を片手に野草のお勉強。 絵本「ばばばあちゃん」を実写化したような若杉友子さん。じつに頼もしい。

今年はカルシウムの宝庫であるつくしをうっかり食べ逃してしまった。 そのかわりに、薬効高きよもぎをバンバン取り入れようと企んでいる。よもぎをみたらむしりとらないと勿体なく感じるなんて自分の姿は、2年前は想像もつかなかった。。。

【ヨモギ】 ビタミン・ミネラル・酵素は極めて豊富で、薬効成分もピカイチ。 血液を浄化し、生理機能を正常にする働きがあり、内蔵器官の機能を復活させ、新陳代謝を盛んにする優れた野草。 肩こりや利尿に効果があり、黄疸も治ったと言う人がいるくらいの効能がある。

 

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「TOKYO ARTRIP 和菓子」 美術出版社

 最近、和菓子が気になる。せんべい屋だから当然かもしれないけれど、生まれ育った神戸は、歴史・地理的な背景も手伝って、圧倒的に洋菓子のまち。和菓子はどうしても地味にみえて魅力に気づけていなかった。

実際、自らつくるせんべいも小麦粉、砂糖、卵を使うので【洋風煎餅】と呼ばれている。

−木の実や果物が起源で、米や粟、ひえなど穀物を加工した餅や団子が、和菓子の原形といわれている。

飛鳥〜平安時代に遣唐使らにより「唐菓子」が中国から伝わった。鎌倉〜室町時代にかけて禅僧によって「点心」が、戦国・江戸時代初期にはポルトガルから「南蛮菓子」が上陸。これら3種の影響を受け、江戸時代には色、形、菓子名ともに日本独自の和菓子がつくられるようになった。

和菓子をつくる職人の繊細な技巧だけでなくそこに付随する器や茶にはじまり、空間における書や花や庭などの全体的な芸術、そしてもてなす茶人の心まで、、、 歴史は果てしなく古く、知れば知るほど奥深く、根が深い。あれもこれも知りたくなってもうドロドロの沼状態…。

まずは入門書的なこちらの本。 東京の和菓子を扱う店舗紹介とともに和菓子の歴史や豆知識、写真のかわいさにキュンとなる。 (日本語&英語のバイリンガルで書かれているので、外国のかたに日本の〈wabi-sabi〉的な魅力の和菓子のことを説明するにもピッタリかもしれない。)

和菓子を目の前にしたとき。 その佇まいからひろがるおだやかなテンションに【平和】【平安】を感じて心が落ち着く。揺らぎやすい心を、すーっと正してくれる。そんな感じがする。 地味は滋味。洋菓子は気持ちを高めたいときに、和菓子は心を落ち着かせたいときに。

 

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「エルマーのぼうけん」 ルース・スタイルス・ガネット  福音館書店

息子が先日、保育園を卒園しました。 赤ちゃんの頃から、よく泣き、よく暴れ、あれやこれやと注文の多い子どもであるため、一緒に暮らすのもひと苦労。汗。しかしながら【保育園】という場所があったからこそ、安心して仕事に打ち込めたのはもちろん、なにより母である私の精神衛生を守っていただきました。 保育園がなかったら…今頃わたし、きっと‥?!?!?!  想像するだけでゾッとします。

なので、保育園という場所、保育士の先生方々は、わたしにとって女神・神様の如き存在、土下座して拝みたくなるほどに感謝をしております。 母子共々、心身共に護っていただきました。

こちら『エルマーのぼうけん』は、息子が年長クラスで生活発表会の作品に選ばれた本でした。『エルマーのぼうけん』を先生に読んでいただいた日、目を輝かせ帰って来て、「エルマーって知ってる?」と初めて絵本以外の本に興味を持ったことに成長を感じ、嬉しく忘れられない一冊となりました。

エルマーは勇敢で賢く優しい男の子。 乱暴で好奇心は強いのに、こわがりという矛盾している息子にとって、エルマーはどんな問題にぶち当たっても果敢に打ち勝っていく姿にたくさんの勇気をもらったことでしょう。

これからはじまる小学生の息子のぼうけん物語。 エルマーのように心優しくも勇敢であれ!と母は祈っております。

 

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「OSAMU’S  A toZ  原田治の仕事」 原田治 亜紀書房

 2022年3月6日まで横山隆一記念まんが館にて「原田治展」が開催されていた。 昨年の夏、なんの下調べもせずふらっと神戸会場を訪れた際、入り口は若い女子達で溢れかえり、入場制限かつ整理券完売で入ることすら叶わなかった…入場すらできなかった展覧会は初めてだったので、どんな展示なのかすごく気になっていた。なので、今回の高知会場では大いに胸膨らませて訪れた。

原田治さんのイラストは、一家にひとつはなにかしらグッズがあったのではなかろうか。 長らくミスタードーナツの景品のイラストとして君臨し、先日友人に聞いた話では初めてつけたスポーツブラジャー(まで!)に原田治さんのイラストがあったというので、あらゆる暮らしの隅々までOSAMU GOODSは浸透していたことがわかる。それを体感できたのがこちらの展覧会だった。

時が経ち、時代も流行も変わってまた今。あらためて原田治さんのイラストの可愛らしさ、一度目にしただけで印象に残る力強さは不変だった。 若い女子達には、新鮮に映り、アラサー以降の女子には懐かしさとどこか実家や青春を思い出させる甘酸っぱい記憶がよみがえるのではなかろうか。

原田治さんの言葉に −イラストレーターは芸術家ではなくてお客さんを喜ばせる芸人。イラストレーションの面白さはエンターテインメント性にある。僕は人の喜ぶ顔を見たくてイラストを描いています。

童話「北風と太陽」の太陽のように、じわじわとあたためてコートを脱がせる話を思い出した。 冷静さと鋭い審美眼の持ち主。 何年経っても何十年経っても、さわやかなイラストでひとを喜ばせ、惹きつけてやまない。太陽の如く凄まじい魔力に圧倒されたのである。

 

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「黄昏の絵画たち−近代絵画に描かれた夕日・夕景」

 一日で一番ほっとするかもしれないひととき…。それが「黄昏時」「トワイライトタイム」「マジックアワー」そう呼ばれる時間帯かもしれない。 毎日20分くらいしかないその瞬間に、外に居れたら。散歩に出かけられたら。 この上なく満ち足りた気分になるのはどうしてだろう。。。

太陽がその日最後の持てるかがやきをふんだんに放ち、すべてが黄金色に照らし出される美しさのなかで静かに月は自分の出番を待っている。 この絵画展の図録に収められている絵を眺めていても、朝でも昼でもましてや夜でもないその一瞬の色彩のなかで、人々の情景をとらえた作品には安堵や優しさ、はたまた孤独や物悲しさがうかがえる。

今後、世界がどんどんめまぐるしく変化していっても、毎日黄昏時はおとずれる。 その心動かされる時間帯こそ、一番人間らしい刻かもしれない。

 

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