山門由佳

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

山門由佳

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「サザエさん」 長谷川町子 姉妹社

先日、愛宕町にあるあたご劇場で「トキワ荘の青春」という映画を観た。久しぶりの大きなスクリーンに興奮しながら繰り広げられる「トキワ荘の青春」は、手塚治虫はじめ石ノ森章太郎、赤塚不二夫など、日本の漫画界のそうそうたるメンバーがまだ駆け出しの頃に住んでいたトキワ荘というアパートを舞台に、友情やおなじ夢をもった者同士の葛藤や苦悩、そして助け合いを描いた心にじんわりとくる映画だった。

時は昭和30年代。日本は戦後の復興を遂げ、生活は慎ましくも夢と希望に溢れた元気な時代。「サザエさん」もまた同時代に、日常の人間ドラマや世間の時事を風刺した4コマ漫画が朝日新聞で連載されていた。 今ではすっかり日曜日の顔となっているサザエさんだけれど、この4コマ漫画の「サザエさん」はもっとピリッとしている。あの穏やかなマスオさんもちょっぴり怒りん坊なことにもびっくりする。みんなが熱い。そして人情が深い。

『他人に迷惑をかけないように』じゃなくて、人が人をあてにしてお互いに困ったら助け合うのが普通とした雰囲気。 そこに人と人の強い繋がりを感じた。気軽にSOS、近くのひとに助けを求められるあたたかい環境。 醤油がきれたらご近所さんに貸して〜と言える間柄。

いいね!や画面越しのやりとりばかりの令和3年。人と人が面と向かって心を通わせ、話をすることにいいのかな?どうなのかな?といちいち戸惑い、こんなにも手の届かない贅沢品になってしまったとは。

この「サザエさん」を読んでいると、今の風潮、システムは本当にこのまま進みつづけて人類の幸せはあるのか?と思えてくる。

 

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私の一冊

山門由佳

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「ないた」 中川ひろたか作, 長新太絵 金の星社

泣いた。 泣くのがいちばん心の大掃除。 背負っていた気がかりや後悔や不安。 泣いたらすっきり。いい気持ち。 状況はなにも変わっていないのに。 またピカピカになった気持ちで頑張れる。 泣くことは自分が自分に戻る作業。

それにしてもうちの子はよく泣く。 泣かれれば泣かれるほど自分が母親であり大人であるという自覚と役割を押し付けられ、しっかりせねばと気持ちを奮い立たせて泣けなくなってくる。 それもまた悲しいか…泣。

この絵本のなかで、おかあさんが布団の中で泣いているシーン。
一おかあさんの おふとんにはいったとき、おかあさんの めから なみだが でた。 つーっと、まくらに ながれて おちた。 ないてるのって きいたら 「ううん」って、いった。

この情景だけで心が重なって泣きそう。何歳になってもわたしは泣くぞ〜!

でもこっそりひとりでね。

 

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私の一冊

山門由佳

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「(昔の)ku:nel」 マガジンハウス

「昔の」ku:nelが面白い。 ku:nel(クウネル)は2002年にアン・アンの増刊号として創刊された。 2015年の11月号を最後に突如リニューアルされ、現行のku:nelはまったく雰囲気の異なる雑誌になってしまった。 なんとも不思議な歴史をもつ雑誌。 2015年11月号までの「昔の」ku:nelは、むしろ「今の」時代に合っている感じがする。

内容を読んでいて、何度も表紙を見て発行された年を確認。 あまりにナウすぎて驚く。 昔のku:nel、最先端をいってたのか…!

今流行りのキャンプもDIYも自然との共生、なんならマスキングテープのよさまでとっくに伝えていた。預言書の如し。

味のある写真と、物語を読んでいるかのような文章でやさしく語りかけるように。 『ほんとうにこころゆたかになれる生活とは?』 その答えのヒントとなるであろうアイデアが、そこかしこに散りばめられている。

いきなり終了してしまった悲しき「昔の」ku:nel。 最終号には、太陽光で料理をするおばあちゃま。当時御年84歳。 やっぱり最先端いってる!

 

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私の一冊

山門由佳

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「よあけ」 ユリー・シュルヴィッツ作・画 瀬田貞二訳 福音館書店

かなしいかな、わたしは両親に絵本を読んでもらった記憶がない。 きっと読んでもらったことは絶対にあるはずなんだろうけど、記憶がないのだから仕方がない。 だから、絵本の世界の楽しさを知ったのはわが子をもってから。

おそまきながら知った絵本の世界は、たのしくも美しくもあり、そのすこしの文章と魅力的な絵のシンプルさに度肝を抜かれた。

詩集も絵本も想像力を掻き立てる。 すこしだけのことばと絵。 その圧倒的な情報量の少なさに焦りすら感じる。

この「よあけ」もまた、ただおじいさんとその孫が湖のほとりで一夜を明かすだけの物語なのに、ひとつひとつの場面が静かで美しくて豊かな時間が流れているのが伝わってくる。

いいなぁ、こんなの。

ただそれだけの感想しか浮かばない。

 

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私の一冊

山門由佳

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「よもぎだんご」 さとうわきこ作 福音館書店

せんべいを焼くのを生業としているけれど、いままで『てづくりのおやつ』というものには無縁の人生だった。 朝から晩まで忙しい共働きの両親のもと『てづくりのおやつ』なんてものは高嶺の花のような存在。

しかしながら、小学2年生の時、ひとりで本を見ながら奮闘してはじめて作ったクッキー。 ワクワクドキドキ、オーブンをあけると…、黒い塊が煙とともに姿を現した。。。 ニガイ思い出である。トホホ。

でもその事件は幼き心にとっては衝撃大。 ちょっとしたトラウマとなり、それ以来、お菓子を手作りしようとはしなかった。

のちにわたしも母となり、息子が保育園から借りてきた絵本に『ばばばあちゃん』シリーズとの出会いがあった。

ばばばあちゃんは、子どももびっくりするくらい遊び心満載で、いろんなことも知っていて、おばあちゃんらしく知恵たっぷりなんだけれど、全然大人ぶってない感じのするおはあちゃま。動物たちや子供たちに囲まれながら、誰も思いつかないようなユニークな遊びを生み出したり、彼らとおなじ目線でいつもワイワイお料理も楽しむおばあちゃま。

でも最後ちゃっかりしてたり、自由気ままに生きてる感じがするところもあり 、そこがまた、ばばばあちゃんの魅力なのだ。

ばばばあちゃんのつくるおやつは、身近に用意できる材料と、いたって簡単な方法でつくられている。もしかしたらわたしにもできるかもしれない…、やってみようかしらん。そんな気持ちが芽生えた。

そしてつくったのがこの『よもぎだんご』。

よもぎが生える季節を待ち、めいっぱいよもぎを摘んで、よーし!ととりかかる。

ゆがく→つぶす→混ぜる→蒸す

たったそれだけのプロセスなのに、お菓子づくりとなると過去のニガイ失敗体験から、途中何回確認するんだというくらいこの絵本を広げては、ばばばあちゃんのおっしゃる手順を追いながら、出来上がった必死のよもぎだんご。 ちゃんと出来上がったその『てづくりのおやつ』に、息子よりしみじみ感動したのはわたしだった。

ばばばあちゃんに「よくやったじゃないか」と、ほめてもらえたような気がした。

ちょっとこれ以来いい気になって、オーブンの購入まで検討するきょうこの頃なのである。

 

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私の一冊

山門由佳

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「ぼくの伯父さんの東京案内」 沼田元氣著 求龍堂

仕事に家事・育児をリズムよく廻せているときはいたって愉しい。けれど、なにかの拍子に調子がはずれて、これらに‘’追われ‘’てくると生活は乱れ、心も荒んでくる。

そこにはやはり新聞・雑誌・本などの活字(スマホの字は苦手)のエッセンスを垂らすとあら不思議。心が活き活きとしてくるのがわかる。とにもかくにも生「活」必需品の活字。

それはさておき私の一冊。

著者の沼田元氣さんの本は装丁が毎度凝っていて、手に取るだけでわくわく。

この著書はつるつるした手触りにカドが丸みを帯びていて、広げるとやわらかな雰囲気。

そこに昭和の薫り漂うなにげない東京の街角のノスタルジィな風景写真とともに、著者ご本人である“伯父さん”のすきなモノ・コトが綴られている。

たとえば伯父さんのすきなモノ・コトは
一雨上がりのにおい
平日の昼寝
寂しそうなノラ犬
トワイライトタイム
少年のはいている肉色のタイツ
老舗洋菓子店の包装紙
大倉陶園のカフェオレマグ
古いB級映画のサントラ‥などなど、、

数えきれないほどのたくさんの伯父さんのすきなモノ・コト。

伯父さんの伯父さんによる伯父さんのための確固たる美的感覚に基づいたモノ・コトではあるけれど、決してそれを押しつけることなく、その純粋で素敵な世界観に惹き込まれいつの間にかうっとりと夢のようなひとときとなる。

一誰しも自分のすきなものに囲まれてはじめて人は生き生きとし、原動力となる

“〜すべき”
“〜せねばならない”
と勝手に自分で自分を縛りつけたせいで心が疲れて、道に迷うたびにこの本を手に取る。

東京を案内しているといいながら、
実は伯父さんに心の道案内をしていただいていることに気づいてしまった。

 

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