私の一冊

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

西野内小代

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「夜のピクニック」 恩田陸 新潮文庫

 

主人公は特殊な事情のため、それぞれの母親の元で育っている同級生の異母兄妹。
「夜のピクニック」とは一昼夜全校生徒が歩き、走るという遠足と耐久マラソンを合体させたようなイベントをさしています。故に登場人物のほとんどが高校生です。
学園もの…、感情移入ができるかしら…?

何せ3世代ほどの年代の相違があります。

テンション低めでページをめくり始めました。

ところが、一ページ目から引き込まれ、最終ページまでくぎ付けです。随所にサスペンスまがいの仕掛けがあり、登場人物の一人一人をまるで隣にでも居るかのように丁寧に描写してあります。

この描写力、構成力には脱帽です。久し振りに見事にいい方向に予想を裏切られた作品との出会いでした。

西野内小代

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私の一冊

南一人

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「よろこびの種を 南正文画集」 南正文 万葉舎

 

「しないとできないは違う」

僕の父がよく言っていた言葉でした。新しい事を挑戦するときは不安や出来る事の保証が無い事に時間を費やすかもしれない言う思いから物事を始める前に

「無理、出来ない」

と、口走りがちでした。しかしそれこそが何も生み出さない自分への楽な逃げ言葉だなと父の言葉から気付かされました。

僕の父である「南 正文」は小学3年生の時に父親の製材所での事故で両腕を失いました。その時代は救急車もなく仕事用のトラックで病院に運ばれました。何とか息子を助けて欲しい言う祖父母の願いに医師は

「命は助かっても両腕無しでは生きていく事さえも・・・」

このまま処置しないほうが良いと提案を出されました。しかし祖父は

「命だけはどうか助けてください!!」

と土下座をして悲願したそうです。

一年後何とか一命を取り留めた父は自宅に戻りました。トイレもご飯も着替えも自分一人では出来ない。今まで普通に出来た事が何一つ出来ない現状を突き付けられました。

何にも出来ない、生きていても仕方ない、生きていくのが辛い・・・

そんな事を思う日々が続きました。

しかしそんな父に転機が訪れます。中学2年生の14歳の時に京都山科にある仏光院にいる尼僧「大石順教尼」に出会った事です。大石順教尼も父と同じく両腕が無く、幼い頃自分の父親に両腕を日本刀で切り落とされた過去がありました。

一緒の境遇で育った人に初めて会ったせいか父の口から出るのは弱気な言葉ばかりでした。

「あれもこれも出来ない、僕は何も出来ない」

そんな父の言葉に大石順教尼は静かに言いました。

「私の弟子になりなさい。ただしそれには条件がある。一人でここまで通いなさい。口で絵を描きなさい。それが守れるなら弟子にする。」

その当時大阪の堺から仏光院までは約3時間。電車バスを5回も乗り換えなければなりませんでした。もちろん切符を買うには他の人に頼まなければならなかったのです。見知らぬ人に勇気を振り絞って声をかけると両腕がない父を見て、気持ち悪がって逃げる人、怒鳴る人、優しく切符を買ってくれる人、次の乗り換え場所までついてきてくれる人や色んな人に出会いました。

「世の中には色々な人がいる。切符を買ってくれた人も買ってくれなかった人も自分にとってみんな先生なんだよ。」

と、大石順教尼は教えてくれました。

「禍福一如」(かふくいちにょ)

大石順教尼は折に触れてその事を教えてくれました。

「両腕がないから不幸なんじゃない。考え方一つで幸せにも不幸にもなるんだよ」

父は生涯この「禍福一如」を心に持っていました。何か嫌なことがあっても

「こうやって勉強させてもらってる」

と、笑顔で言い人に酷いことを言われても嫌な目にあっても

「こういう事は人にしてはいけないとこうして嫌な役をして僕たちに教えてくれている」

そう家族によく言っていました。
本当に父は腕がないと言う事に負い目や悔しさを感じさせず愚痴をこぼすのを聞いたことがありませんでした。実際その生き方が素直に出ているせいか本当に両腕が無いと感じさせない人でした。僕自身も一度重い荷物を持っている時に父に

「ごめん、ちょっと手を貸して」

と言ったことがあり父は

「ごめん、手は無い」

と笑いながら返されたことがありました。

僕自身両腕がない人生と言うのは考えられず何故父がそう言う風に考え生きていけるのかが不思議で仕方ありませんでした。しかし父はいつでも毅然と

「僕は両腕がない障がい者だけど、心の障がい者にはなりたくない」

と、言っていました。そんな父だからこそ色々な職種、性別、国籍の方が父を慕って会いに来てくれたような気がします。人に対して常に優しくあった父の生きてきた姿勢は一枚一枚の絵に溢れています。その生き方の軌跡とも言える絵をこれからも沢山の方に見て頂ける事が私達家族の今後の役割だと思います。決して楽な道のりではではないと感じていますがその時はいつでも父の言葉

「しないとできないは違う」

を思い出し活動していきます。皆様に父の作品をご紹介できた時、その作品で心の中に何かを感じ取って頂ければ幸いです。

 

南一人

大阪府枚方市出身 高校卒業後単身オーストリアへ。その後、料理を学ぶ為渡英。帰国後はサービスの勉強の為ホテルで婚礼サービスの仕事に従事。レストランやカフェでの仕事を日本各地で行なっていたが父の勧めもあり帰阪。どうせならと飲食の世界から離れサラリーマンに。 父の死後、自分の生き方に疑問を感じサラリーマンを辞め仏門へ。その後、長年の友人の手伝いの為に高知県に。短期滞在の予定だったが色々な縁が繋がり嶺北に定住。料理人の道に戻り地元食材を使ったラーメンやお土産を開発したりを行なっている。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「たべもの九十九」 高山なおみ 平凡社

高山なおみさんの本を何冊か持っている。

料理本にある「白菜の鍋蒸し煮(白菜とベーコンを順番に重ねて蒸し焼きにする)」や「トマト焼きごはん(豚肉とトマトを別に焼いて、同じお皿にごはんも盛って目玉焼きをのせて食べる)」や「春菊のチヂミ」は、今まで何回作ったのかわからないほどで、もう本を見なくても作ることができる。
ベーコンじゃなくて豚肉の時もあるし、春菊ともやしでチヂミを作っても美味しい。高山さんのレシピは、これはあくまでもひとつの作り方で、あなたが好きに自由に楽しく作ってね〜という感じが伝わってくるようで、だから好きなんだと思う。

「たべもの九十九」は、ひらがな50音順に並んだ食べ物のエピソードが書かれている。

中でも「そ:そうめん」のお話が好きだった。

子どもの頃、夏の日のお昼ごはんは大抵そうめんだった(気がする)。大きなガラスの器に真っ白な涼しげなそうめんと、缶詰のみかんが一緒に入っていたことを思い出す。みかんを弟たちと取り合ったっけ。

少し前の夏の日に、オクラを茹でて切ったもの(切ったら星みたいになって楽しい)や、きゅうりを細く切って塩もみしたもの、しょうがのすりおろし、のり、しその葉、モロヘイヤとおかかを混ぜてしょうゆをちょっぴり入れたのやらを色々と、そうめんの薬味にして食べた。
その日の風景は今もよく覚えていて、多分、これからも思い出すのだと思う。

ひとつひとつの食べものが、記憶の引き出しにしまわれていたお話を連れてくる。

 

高山さんは書いていた。

「(中略)20代のはじめ。あの頃の私に、手をふって教えてあげたい。「おーい、未来にはたいへんなこともいろいろあるけども、楽しいことがたくさん待っているし、三度三度食べるごはんのおいしさも、ちゃんとわかるようになるよ。だから、だいじょうぶだよ」

その気持ち、わかるような気がする。

鳥山百合子

 

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私の一冊

藤田純子

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「わたしは、わたし」 ジャクリーン・ウッドソン 鈴木出版

アメリカには「証人保護プログラム」という制度があるようです。

それは、裁判で重大な証言をした者が危害を加えられたり、殺されたりしないように保護する制度です。

父親が正義の証言をしたために、その家族は暮らしの全てをなくして、知らない土地に移らなくてはならなくなりました。職業も失い、名前すら変えて、今までの自分とさよならしなくてはなりません。

希望を見出すまでの苦難が少女の目を通して描かれています。

絶対に正しいと思うことを貫くことで、大切な家族の生活を一変させてしまう…。銃社会アメリカの悲劇を垣間見ることができました。

藤田純子

 

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私の一冊

西野内小代

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「もものかんづめ」 さくらももこ 集英社文庫

 

「ちびまる子ちゃん」の作者であるさくらももこさんのエッセーです。

抱腹絶倒、嘘のような本当のお話がてんこ盛りです。

ちびまる子ちゃんはももこさんだったんですね。

人生を早足で駆け抜けてしまったももこさん。

きっと天国でも変人(?)の神様たちに囲まれて、エピソードには事欠かない第二ラウンドを過ごされている事でしょうね。

西野内小代

 

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私の一冊

石川拓也

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「マイ仏教」 みうらじゅん 新潮新書

 

みうらじゅんさんは天才だと思っています。

なんというか、一貫してすっとぼけた(ように見える)言動ですが、そこに実はとても深い洞察がある。

現実のネガティブな面を、言い方や捉え方でポジティブなものに変えていく力がこの人の言葉には備わっている。

以前、いちど写真の撮影でお会いしたことがあるのですが、その時は

「人間誰もが年を取ってくると、尿漏れとか深刻に悩んだりするけども、それ例えば『スーパー尿漏れ』とか名付けたらちょっとポジティブじゃない?」

ってことを延々と力説されていました。単純におもしろかった。

みうらじゅんさんとか笑福亭鶴瓶師匠とか、そういった力を持った方はたまにいらっしゃいますよね。

昔はお坊さんとかがそういう役割を担っていたのかなと思います。

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私の一冊

藤田英輔

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「居酒屋兆治」 山口瞳 新潮社

・世の中には頭のいい男がいる。他人のすることを悪意としか受け取らない男がいる。保身のために全力をあげて戦う男がいる。つまらないことを気に病む男がいる。徒党を組まれることを病的に怖れる男がいる。猜疑心の強い男がいる。(兆二には)それくらいのことしかわからなかった。

・(兆二は)絶対に卑怯な真似だけはしないでいようと思った。嘘はつくまいと思った。見苦しいことだけはやるまい。

・(兆二は)あの頃の方が現在より大人っぽかったような気がする。分別臭い処があった。

・さあ、どっちが人間らしい生活だろうか?(メキシコと日本の労働者を比べている。メキシコ人は土曜日に週給をもらうとまず全員が次の週の木曜日まで休んでしまう)。

 

それぞれ記憶に残っている文章である。そう有りたい、そう成るまいと思い生活しているのだが…。

考えるだけ詮ないことだが「いつの頃が楽しかったか?」とか考えて呑んでいると早く酔ってしまうよ。

 

「居酒屋兆治」は高倉健主演で映画になっている。(1983年制作・東宝)伊丹十三、ちあきなおみ…。いい味出してるね。

藤田英輔

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「しりとり」 安野光雅 作・絵 福音館書店

すもも、ものほしざお、おかめ、めかくし、しらさぎ、ぎょうじ、じんちょうげ、げた、たいこ…。

一番最初のページで選んだ絵としりとりができる絵を次のページから選んでいきます。

その絵はどこにあるかな…?と探しながらページをめくり、なんて優しい美しい絵だろうと、ほおっとため息がもれます。

こどもの生活のなかにあるものと「ことば」がつながる瞬間。

それはきっと、世界がちょっとずつ広がっていくようなことなんじゃないかなと思います。

こどもたちと世界の出会いが、どうかよきものでありますように。

安野さんの願いが伝わってくるようです。

鳥山百合子

 

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私の一冊

藤田純子

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「角野栄子の毎日いろいろ」 角野栄子 角川書店

漠然と思い描いている未来の自分。こうでありたいと願う自分の姿。

歳をとることにそれほど逆らわず、でもあきらめてしまいたくもない。

この本の作者、角野栄子さんの生活スタイルに共感することがたくさんあった。

素敵な先輩にまたひとり会えた。

藤田純子

 

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私の一冊

西野内小代

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「村上海賊の娘」 和田竜 新潮文庫

 

戦国時代、瀬戸内海を舞台に活躍した「村上水軍」を描いた作品です。

単行本で出版された時、書店の入り口付近で尋常ではない量が平積みされているのに遭遇し即購入。

上下巻をアッという間に読み終え、「あ~っ、読み終わってしまった・・・」と若干、姫ロスに陥ってしまったのを覚えています。

その頃近くに住んでいた長男も即持って帰りました。

という訳で手元に無くなり、文庫本になったのを機に再度購入、二度目という事もあり瞬く間に読み終えました。

史実の枠組みの中で実在の人物を脚色して描いているので、ストーリーが矛盾なく目の前に映像として展開していきます。

海賊と冠しているので、残虐なシーンも多々描かれていますが、それを補って余りある姫の魅力に魅了されてしまう作品です。

西野内小代

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