私の一冊

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

鳥山百合子

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「灯をともす言葉」 花森安治 河出書房新社

「暮しの手帖」初代編集長の花森安治さんの言葉を集めた「灯をともす言葉」。

本の冒頭にはこんな言葉が書かれています。

「この中のどれか一つ二つは すぐ今日 あなたの暮しに役立ち

せめてどれかもう一つ二つは すぐには役に立たないように見えても

やがて こころの底ふかく沈んで いつか あなたの暮し方を変えてしまう」

本を読むときは、まだ見ぬ新しい世界と、今の自分自身の居場所を探しながら、言葉を追いかけているような気がします。

はっとさせられる言葉、じんわりとしみこんでくるような言葉、書き留めておきたい言葉。

今まで出会った言葉たちが「こころの底ふかく沈んで」、今の自分のこころあり方をつくっているんだろうなと思います。

鳥山百合子

 

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私の一冊

式地涼

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「君の名は」 新海誠 角川文庫

2016年に大ヒットした映画の小説版。
映画が非常に有名なため、物語についてはここで紹介するまでもないのかもしれませんが… 。

映画でストーリーを知っていても、文字で見ると想像の分だけ表現の幅が広がるので、また違った印象を受けることがあります。まだ映画を観られていない方にはもちろんのこと、映画は観たけど小説はまだ…という方にも是非。

都会に憧れる田舎町の女子高生・三葉と、東京で暮らす男子高校生・瀧。
それぞれが自らの生活に葛藤しながら生きる中、互いに夢の中で入れ替わるという不思議な現象が起こり… 。ただの男女の純愛物語という感じではなく、彼らのまっすぐな強い意志や すれ違いによる切なさを、現実と非現実の狭間で鮮明に描いているのが、僕にとって大好きな物語である理由のひとつです。

物語の中で個人的に注目してほしいのが、舞台として出てくる糸森町(ヒロインの住む町)が土佐町と どことなく似ている点です。 湖のほとりにあり、周囲を山々に囲まれた小さな町。 町全体に防災無線が整備されていたり、唯一のコンビニが24時間営業でなかったり、少し癖のある方言が使われていたり。

また、田舎町ならではの伝統や人間関係など、町の情景が克明に描かれていて、都会に憧れるヒロインの目線でイメージしやすいかなと思います。 男女が入れ替わるという壮大なファンタジーではありますが、この町でもどこかで…、だれかと…。そんな素敵な作品です。

式地涼

 

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私の一冊

藤田英輔

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「何の因果で」 ナンシー関 角川文庫

帯もカバーも失くした。表紙はたしか、てんこすの髪がない、江戸時代の成人の印であった月代(さかやき)状の中年男性の横顔のUPだったような気がする。
と、思いながら読み直していると見つけました。

178ページの消しゴム版画です。(ナンシーさんは消しゴム版画のスペシャリストです)きっとこれです、この文庫のカバーの絵は!何と32才だったんですね。

これを見ていて思った。

 

「カツラの僕的考察」

カツラ(長女ではない、この場合)を帽子にしてしまえば良いのではないか?(*編集部注:英輔さんの長女さんのお名前は「カツラ」さんといいます)

暑い日や外から帰った時など、さっと脱いで冷水を含ませたり、衣紋掛けに引っ掛けたり、夏にはメッシュで、冬には文字通り毛のカツラに、など、バリエーションが広がり楽しそう。

実際、髪が薄くなると季節の移ろいに鋭敏になる。
太陽の熱や雨の降り始めに早く気づく利点があるよ。(それがどうした?)

181ページの文章も納得です。この人の“表現”をもっと見たかったよお。

藤田英輔

 

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私の一冊

藤田純子

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「がばいばあちゃん 佐賀から広島へ めざせ甲子園」 島田洋七 集英社

ある夕ご飯の席のことだった。「ばあちゃん、ここ2,3日ご飯ばっかりでおかずがないね」。
俺がそう言うと、ばあちゃんはアハハハハハハ…と笑いながら「明日はご飯もないよ」と答えた。
俺とばあちゃんは、顔を見合わせるとまた大笑いした。今から40年ほど前の話である。
(中略)
「今、世の中はひどい不景気だ」とみんなは言うけど、何のことはない、昔に戻っただけだと俺は思う。変わってしまったのは人間の方だ」と続く。
(これはこの本の始まりの文章)

 

いきなり笑ってしまった。ばあちゃんの晴れ晴れとした、笑っちゃうような貧乏生活の知恵と名言。幼い昭広少年とばあちゃんの生活をユーモアたっぷりに書かれた本当のお話です。

「お金がないと幸せになれないの?そんなことはない。心のあり方が大切だよ」

この本を読んで、その通りだと納得しました。

清々しさや明るさがあり、自然と前向きにさせてもらえる力強さもある。

是非おすすめの一冊です。

藤田純子

 

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私の一冊

石川拓也

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「WOMEN 」 Saul Leiter スペースシャワーネットワーク

ソール・ライター(1923-2013)はアメリカ・ニューヨークの写真家です。2006年シュタイデル社から出版した写真集「Early Color」によって、83歳にして「衝撃の世界デビュー」を飾ったと言われています。

ちょっと本から話が逸れますが、ドキュメンタリー映画「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」も日本で公開された際に大きな話題になりました。この映画は、個人的に懇意にしていただいている翻訳家・柴田元幸さんが字幕を担当されていて、何年か前に東京の六郷でコーヒーをご一緒した時に、柴田さんが「今こんな仕事をしているんだ」と教えてくれた思い出があります。

この本はそのソール・ライターが親しかった女性たちをモノクロで撮影したもの。決定的瞬間でもなく派手な演出もない写真ですが、日常の愛おしさが溢れている写真集です。

写真は、しばしば重要な出来事を取り上げるものだと思われているが、実際には、終わることのない世界の中にある小さな断片と思い出を創り出すものだ ーソール・ライター

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「くろて団は名探偵」 ハンス・ユルゲン・プレス著, 大社 玲子訳 岩波少年文庫

確か4年ほど前だったでしょうか。この本と出会った時の驚きを何と言い表したらいいのでしょう。
本屋さんの児童文学コーナーをうろうろしていた時、目に入ったこの表紙。

「あ!」

思わず出た自分の声に驚きながら、この本を開きました。

「やっぱり!」

確かに見覚えがありました。何度も何度も読んだ、私が大好きだった本でした。

「くろて団は名探偵」との初めての出会いは小学生の頃。学校の図書室にあったこの本が、図書室の本棚のどこにあったかまでも覚えています。図書室にあったものはハードカバーで、これよりもふた回りほど大きな本でした。

今でいう「ゲームブック」のようなものと言ったらいいでしょうか。

お話を読み進めて行くと、いつも最後に質問があって、その質問の答えを隣のページの絵から探すのです。
2枚目の写真の絵、「さいころ形のもの」を持っているのは「かもしか薬局」の「薬剤師のハーン氏」。

ああ、懐かしい絵。
確か、秘密はハーン氏の持っている本にあったはず!!!

私はそんなことまで覚えていました。

小さい頃に夢中になったものごとは思っているよりもずっと長く、ずっと深く、その人の心の中に残っていくのだと思います。

こどもたちは幼ければ幼いほど、自らの環境をつくることはできません。そう思うと、子どもの周りにいる大人たちがどんなことを大切に思っているのかが問われるように思います。
見た目や流行、そういうことではなく、人として「本当に」大切なことは何か。

懐かしいこの本が、色々な思いを運んできてくれました。

鳥山百合子

 

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私の一冊

藤田英輔

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「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」 中島らも 集英社文庫

 

この本からは「酒の呑み方」を教わった。

今回読み直していて、エレキバンドを始めた頃のことを思い出した。50年前か。

TN君(土佐町在住)、HM君、MM君(共に高知市在住)と、僕の同級生4人で、中2の秋、家の前を流れる川のヤブの中へ。持ち物はホーキとダンボール箱いくつか。それが僕のバンド活動のスタート。

本物の楽器はTN君が持つアコギ1本のみ。自ずとG.Voでリーダー。そしてバンマスとなったTN君の指導で(1本だけのギターで初心者にコードから教えるのは大変なこと)中学校での「卒業生を送る会」への出演を目指し、およそ5ヶ月の練習!

本番には、当時高校生だったYS先輩(現バンドメンバー)らから借りた本格的な楽器(なんとドラムセット、エレキギター×2、ベースギター、アンプ、シールドピックまでも)を抱えデビュー!!

一年先輩の卒業生のバンドにHT君(現バンドメンバー)が居た。曲もできも忘れてしまったけれど(忘れたかった?)、G.VoのTN君が覆面姿でセンターで歌っていたのを覚えている。

若人よ!悩みを軽くしたけりゃ、この本を読んでみな。(読み方によっちゃあヤケドするぜよ)。

藤田英輔

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私の一冊

鳥山百合子

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「ぐぎがさん、ふへほさん、おつきみですよ」 岸田衿子作, にしむらあつこ絵 福音館書店

この本の絵を描いているにしむらあつこさんは、昨年11月に土佐町に来てくれた絵本作家、西村繁男さんといまきみちさんのお子さんです。

ある日、大きくてずっしりと重い封筒がポストに入っていました。「誰からな?」と見てみると、いまきさんから!ご自身の絵本とあつこさんの絵本を一緒に送ってくださったのです。これはそのなかの一冊。

子どもたちも大好きで、寝る前に「読んで」とよく持ってきます。でも「ぐぎがさん」って、なんだかとっても言いにくくって、いつも「噛んで」しまいます。そのたびに「あ!また!」って、子どもたちはとても喜びます。

「ぐぎがさん」。といつかさらっと言えるようになりたいものです。

鳥山百合子

 

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私の一冊

石川拓也

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「稼ぐまちが地方を変える」 木下斉 NHK出版新書

机上論ではなく経験者の行動の下に書かれた、とても説得力のある良書です。

「地域おこし」「地方創生」「地域再生」などなどのワードで昨今語られることの多い地方振興系の活動。あんまりこういったワードで括るのは好きではないんですが、日本全国で頑張っている人たちは多くいますよね。

書かれていることの多くが、目からウロコが落ちたり、自分の考え方と一緒だったり。箇条書きで少し紹介してみます。

   不動産オーナーたちが連携を組んで地域を良くする

地域再生や振興は、日本ではなぜか地域の役場や役所が担うべきものと認識されていますが、欧米では不動産オーナーがチームになって取り組むこととされています。地域全体が良くなっていくことで、オーナーたちが所有する物件の価値が上がる訳で、とても合理的な形だと思いました。

   本気の人間が2、3人集まれば物事は変わっていく

逆を言えば、口だけ調子の良いことを言う人間が100人集まっても、会議や宴会の繰り返しで終わってしまうということ。リスクを取り汗をかく人間が、3人でもいればそれでスタートはできる。

   小さく始めて大きく育てる

机上で壮大な事業を考えていても現実は何も進まないので、まず自分が(もしくは少人数の仲間が)できることを一歩ずつやっていく。小さくて正解、という考え方。

        評論家になってはいけない

著者は職業柄いろんな地方で講演を依頼されることも多いそうですが、いわゆる「良い話を聞きたい」という依頼は断っているそうです。地方の方々が本気で動こうとしているときに、一緒に汗をかいてやっていきましょうと手を取り合うための講演だけを受けているそうです。共感。

以上、これ以上ないくらい粗い抜粋、そして記憶力の低下から言葉遣いは正確でないかもしれませんが、「地域おこし」という場の、ある意味最前線にいる身としては、多くを気付かされると同時に勇気ももらえるような一冊でした。

 

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私の一冊

藤田純子

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「きまぐれロボット」 星新一 理論社

この本には、発明されたわくわくするようなロボットたちや、いくつもの便利な道具が出てくる。そして一つ一つの話のおしまいにはシュールな「オチ」がある。

「なるほど」であったり「ああそうか」であったり、苦笑いであったり…。

例えば、エヌ博士の作り上げた「なぞのロボット」。いつもどんな時も博士のそばにくっついているだけ。

お茶も運ばなければ、掃除もしない。口もきけないし、犬に吠えつかれても博士を守るどころか、逃げる博士について一緒に逃げるだけ。何の役にも立っていないように見える。

さて一日の終わり、夜になって眠る時間になると、博士に「さあ、頼むよ」と命令されるとちょっとの間仕事をする。机に向かってノートを広げる。

ここでロボットは何をするか…。日記をつけるのがめんどうくさくてならない博士の代わりに日記をつける。

これまでの成り行きが、ストンと納得がゆく。

星新一さんの柔らかい頭脳にまいってしまう。

藤田純子

 

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