私の一冊

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

山門由佳

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「ぼくの伯父さんの東京案内」 沼田元氣著 求龍堂

仕事に家事・育児をリズムよく廻せているときはいたって愉しい。けれど、なにかの拍子に調子がはずれて、これらに‘’追われ‘’てくると生活は乱れ、心も荒んでくる。

そこにはやはり新聞・雑誌・本などの活字(スマホの字は苦手)のエッセンスを垂らすとあら不思議。心が活き活きとしてくるのがわかる。とにもかくにも生「活」必需品の活字。

それはさておき私の一冊。

著者の沼田元氣さんの本は装丁が毎度凝っていて、手に取るだけでわくわく。

この著書はつるつるした手触りにカドが丸みを帯びていて、広げるとやわらかな雰囲気。

そこに昭和の薫り漂うなにげない東京の街角のノスタルジィな風景写真とともに、著者ご本人である“伯父さん”のすきなモノ・コトが綴られている。

たとえば伯父さんのすきなモノ・コトは
一雨上がりのにおい
平日の昼寝
寂しそうなノラ犬
トワイライトタイム
少年のはいている肉色のタイツ
老舗洋菓子店の包装紙
大倉陶園のカフェオレマグ
古いB級映画のサントラ‥などなど、、

数えきれないほどのたくさんの伯父さんのすきなモノ・コト。

伯父さんの伯父さんによる伯父さんのための確固たる美的感覚に基づいたモノ・コトではあるけれど、決してそれを押しつけることなく、その純粋で素敵な世界観に惹き込まれいつの間にかうっとりと夢のようなひとときとなる。

一誰しも自分のすきなものに囲まれてはじめて人は生き生きとし、原動力となる

“〜すべき”
“〜せねばならない”
と勝手に自分で自分を縛りつけたせいで心が疲れて、道に迷うたびにこの本を手に取る。

東京を案内しているといいながら、
実は伯父さんに心の道案内をしていただいていることに気づいてしまった。

 

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私の一冊

澤田みどり

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「サカタの花 CATALOG 」 サカタのタネ

私のお気に入りの一冊!!

いいえ、私のではなく、私の隣りにいる、若かりし頃「ジャン」と呼ばれていた相方・澤田順一のお気に入りの一冊を紹介したい。

その一冊は、「サカタのタネ」から出ている「サカタの花カタログ」である。

我が家は花農家。毎年、トルコキキョウやアネモネを栽培して市場に出荷している。

特にトルコキキョウは、毎年新しい品種が出てきて、百種類くらいの姿形、色の違う花のカラー写真が「種一粒、何円です。いかがですか?」という内容のカタログである。

さて、どの花が売れるか、お金になるかと思案しているのである。

今晩もお気に入りの焼酎を飲みながら、カタログを見つめる「ジャン」である。

 

澤田順一・みどり・光

 

*2019年に行ったイベント「とさちょうものがたりin高知蔦屋書店」では、みどりさん一家が育てたトルコキキョウを配布させていただきました。

とさちょうものがたり in 高知蔦屋書店、ありがとうございました!

 

*昨年5月、とさちょうものがたりのネットショップで、みどりさん一家が育てた金魚草の販売をしました。

お花を買ってください!みどりさんの金魚草

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私の一冊

石川拓也

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「スマホ脳」 アンデシュ・ハンセン 新潮社

前回の続きです。この本は一貫してスマホ(とタブレット)の危険性を訴えているわけですが、その理由を人類の本能レベルからひも解いていることが説得力を強くしています。

人類が種として生き延びるために身につけてきた肉体的精神的システムの数々が、現代の社会の構造と「ミスマッチ」を起こしている。そしてそのミスマッチが様々な病を引き起こしているという主張です。

例えば。常に食料供給が不安定な状態の中で生存することに特化してきた人類は、食べ物を目にした時点で「お腹いっぱい、食べられるだけ食べろ」という指令が脳から出るようになっているわけです。

それはドーパミンという脳内物質を大量に分泌するというやり方でなされます。

次に食べ物が見つかるのはいつになるかもわからないような環境においては、いつだって体内に可能な限りのカロリーを蓄積していた方が生存の可能性が高まります。

「お腹いっぱい、食べられるだけ食べろ」という、ドーパミンを使った指令は、その環境下においては生存の可能性を高めるための仕組みであって、実際にその仕組みでもって人類はこれまで生き延びてきたのです。

しかし現在。人類の歴史の中でも、かつてなかったほどに食料や物質が豊富に手に入る時代。

コンビニやレストラン、スーパーに行けばありとあらゆる食べ物が安定して供給されるような社会を、人類は作り上げてきて、それはもちろん一つの大きな成功といえるのでしょう。

しかし、ここに「変わっていない脳」と環境とのミスマッチが起こる。

脳は相変わらず「お腹いっぱい、食べられるだけ食べろ」という指令を出す。いつだって食べ物が豊富に手に入る時代に、その指令通りに行動すれば、それは結果として様々な病を引き起こすことになります。肥満、2型糖尿病、高血圧。。。

「脳の仕組み」と「現代社会の構造」が、こういったミスマッチを引き起こしているところに問題がある、「人間は現代社会に適応するようには進化していない」というのがこの本の主張の土台です。

また次回にもう少し続きます。

 

 

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「はははのはなし」 加古里子 福音館書店

懐かしい!と声を上げる方も多いのではないでしょうか?

加古里子さんの本「はははのはなし」。

「歯は大事!虫歯にならないよう、栄養のあるものをよく食べて、運動をして、歯磨きをして、元気に大きくなろうね!」という子どもたちへのメッセージを、真面目に、ユーモアたっぷりに伝えてくれます。

「ちいさなかすが  はのまわりにのこります。こののこりかすをえさにして  ばいきんがふえます。ばいきんは  かたいはをとかす  さんをつくります。」

よく考えると恐ろしいことを、あっさりとわかりやすい言葉で伝える加古さん。この文章には、白い元気な歯がどんどん溶けて大きな穴があき、最後には半分になってしまう絵が添えられています。かなりリアルで、小さな子どもは震え上がること間違いなしです。

子どもたちにせがまれて何度も読んだこの本の一番の見せ所は、やはり最後のページ。

「こどものはは20ぽん おとなのはは32ほんあるのがふつうです。

だからこどものはは

はははははははははは

はははははははははは

おとなのはは

はははははははははははははははは

はははははははははははははははは

となりますね」

そして最後は

「それではみなさん  さようなら はっはっはっ。」

で終わります。

読んだ後の爽快感といったらありません。

加古さんが世界を見つめるまなざしはいつもあたたかく、子どもたちへの信頼に満ちている。

「おーい!子どもたち。世界は面白いよ!不思議なことでいっぱいだよ!」

そのメッセージを子どもたちはちゃんと受け止めています。子どもたちの顔を見ていたら、そのことがよくわかります。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「ハナミズキのみち」 浅沼ミキ子文 黒井健絵 金の星社

東日本大震災から10年が過ぎました。けれども、復興にはまだまだ時間がかかりそうに思います。

震災で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市に小さな図書館「にじのライブラリー」があります。その現地責任者でいらっしゃる荒木奏子さんが出版に尽力されたのが『ハナミズキのみち』です。

震災で息子さんを亡くされた浅沼さんの思いのたけの詰まった文章をお読みになったとき、とにかく浅沼さんを慰める本を出そう、出さなくてはいけないと思われたのだそうです。

荒木さんや浅沼さんたち「陸前高田『ハナミズキのみち』の会」の活動が実り、避難路に沿って2019年にハナミズキの木が植樹されました。

再訪を約束した陸前高田市の皆さんや、ハナミズキの花に会いに出かけられる日が早く来ることを願っています。

 

 

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私の一冊

石川拓也

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「スマホ脳」 アンデシュ・ハンセン 新潮社

おそらく、現代に生きる多くの人々が感覚的に感じているであろうスマホやタブレットへの違和感。

みんなが気になっていること。平たく言えば、「スマホってなんか良くないんじゃない?」ってこと。

この本は、そういった漠然とした違和感に論理的・科学的根拠を与えてくれます。その洞察は深く、人間の本能レベルまで一旦降りていってからの、「だからスマホは人間の脳に適していない」というわかりやすい論。

だから世界中で売れているそうです。みんな気になってるんですね。

世界中で、若い世代の精神の不調が増えている、というところから本書は始まります。

精神の不調から身を守る術は、次の3つ。

睡眠・運動・他者とのつながり

そのどれかが足りなくなったり、質が悪くなると人間の精神は不調になってくる。そして、この人間にとって必要不可欠な3つの全てにおいて、スマホが悪い影響を生み出してはいませんか?

本書の序文あたりの話だけでここまで書いちゃいました。もう少し長くなるので、この続きはまた改めて書きたいと思います。

 

 

 

 

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私の一冊

古川佳代子

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「Oじいさんのチェロ」 ジェーン カトラー 著, グレッグ・コーチ絵 あかね書房

コロナ感染症拡大を防止するために様々な行事が自粛を余儀なくされました。ともだちとの会食や直接の会話、コンサート、お芝居、スポーツ…。いわゆる文化芸術活動は不要不急のものとされてしまいましたが、本当にそうなのかなあ?

極限状態を何とか生き延びなくてはいけないとき、人を支えてくれるのは誰かとの会話であったり、音楽であったり、観劇であったりするのではないかしら?決してこれらは不要なものではないはずです。

「Oじいさんのチェロ」は、音楽の力を印象深く伝えてくれる絵本です。

戦争に巻き込まれた町に住む女の子の楽しみは、救援物資を届けてくれるトラックが到着する水曜日の午後4時でした。ところがトラックにロケット弾が落ち、そのささやかな楽しみさえ奪われてしまいます。

しょんぼりと迎えた水曜日。トラックがいつも来ていた広場に、コンサート衣装に身を包んだOじいさんがチェロを抱えてやってきます。有名な音楽家だったという彼がチェロを弾き始めると、その豊かな音色は女の子や町の人たちに怖がっていることを忘れさせ、生きる勇気を与えてくれるのでした。が、そのチェロさえなくなった時…。

音楽や舞台などをはじめとする文化芸術こそ、困難な状況を乗り越える人たちにとって欠くことのできない、有用緊急なものだと思います。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「どろんこハリー」 ジーン・ジオン文 ,  マーガレット・ブロイ・グレアム絵 , わたなべしげお訳 福音館書店

1964年に出版された「どろんこハリー」。子どもの頃に何度も読んだこの本を手にすると、懐かしい気持ちがこみ上げてきます。

この本は「ハリーは、くろいぶちのあるしろいいぬです。なんでもすきだけど、おふろにはいることだけは、だいきらいでした。あるひ、おふろにおゆをいれるおとがきこえてくると…」というお話で始まります。ハリーは体を洗うブラシをくわえて外へ逃げ出し、ブラシを裏庭に埋めてしまいます。

実は、この始まりの前には、お話のついていない絵が2つ描かれています。

表紙を開くと、まず一つ目、バスタブに足をかけ、ブラシをくわえるハリーがいます。次のページに二つ目、ブラシをくわえてお風呂場を飛び出していくハリー。その顔はいたずらっ子そのものです。

さあ、これからハリーは何をするのかな?この2つの絵が、見事に「どろんこハリー」の世界の入り口へと連れていってくれます。

小さな子どもはまだ文字が読めないので、絵を見ます。絵を読む、と言ってもいいかもしれません。子どもにとっては、誰かが読んでくれる音としてのお話だけではなく、絵そのものだけでも、れっきとした「お話」なのです。長い間読み継がれている絵本は、つくづく子どもの視線を忘れずに描かれているのだなあと思います。

埋めてしまうほど嫌だったブラシが、最後にハリーを助けてくれます。

「よかったね、ハリー」。

その気持ちで満たされて終わる「どろんこハリー」、今でも大好きな一冊です。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「ガザ  戦争しか知らないこどもたち」清田明宏著 ポプラ社

旧高知医科大の出身で、パレスチナ難民の支援活動にあたっている清田明宏さんの著書『ガザ 戦争しか知らないこどもたち』を読んだ時、生まれてからずっと戦争しか知らない子どもがいることに、やりきれない気持ちになりました。

1年前から住み始めた土佐町で、紛争地に生きる子どもたちに思いをはせる日が増えました。長閑な町の空を不意に横切る戦闘機。その非日常の爆音を初めて耳にしたときの怖さは、今でも忘れられません。1年たった今でも、爆音には慣れることはできませんし、これからだって到底平気になれるとは思えません。月に何度か、一瞬耳にするだけで身が竦み動悸が激しくなってしまう戦闘機の音。 紛争地域で生きる子どもたちは、それを日常とすることがどんなに異常なことかも知らないまま、日々を生き抜いているのです。

彼らが戦いの音の聞こえない、静かな世界でくらせる日が一日でも早く来るように、と願わずにはいられません。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「ぼちぼちいこか」 マイク=セイラー作,  ロバート=グロスマン絵    今江祥智訳 偕成社

新年度が始まりました。新入生たちもそろそろ新しい環境に慣れた頃でしょうか?

この時期になると思いだす女の子がいます。一年生なり2~3カ月が過ぎたころ、ボソっと「いつ幼稚園に戻れるがぁ?」とつぶやきました。 すると高学年のお姉さんが間髪いれずに「なに言いゆうが。もう戻れんがでぇ。これから小学校に6年、そのあと中学校で3年、高校も3年。最低でも12年は学校に行かんといかんが!」と教えてあげました。それを聞いた女の子の情けない顏ったらありません。もう可笑しくっておかしくって、笑いをこらえるのに必死でした。

まだ6年しか生きてない女の子にとって、12年なんて先も先。オドロキ、途方にくれたのは仕方のないことですね。いえいえ、小学一年生ならずとも、仕事や人間関係、介護や闘病などなど、一日一日を乗り越えながらも、果てが見えないつらさにため息をつく大人もいることでしょう。

そんな時、とりあえず悩み事はわきに置いて、絵本を開いてみてはいかがでしょうか?

たとえば今江祥智さんの関西弁の名訳がたのしい『ぼちぼちいこか』。

時間はまだまだたっぷりあるのです。そのうち良いこともあるあろうし、新たな展開が訪れることもあるでしょう。

とりあえず毎日機嫌よく、ぼちぼちいこかとすごしましょう。

 

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