私の一冊

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

石川拓也

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「ボンバ! 手塚治虫ダーク・アンソロジー」 手塚治虫 立東舎

言わずと知れた漫画の神様・手塚治虫。「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」、「火の鳥」や「アドルフに告ぐ」など数え切れないほどの名作傑作を残しました。

上に挙げた名作群のように、いわゆるヒューマニスト的印象が強い手塚治虫ですが、「黒手塚」と呼ばれる闇の面があることもファンの間ではよく知られています。

その「黒手塚」が現れた時に描かれた作品は、ある意味非常にダークで鬱展開、子どもにはあんまり見せられないような(色々な意味で)エグい描写でグイグイ突っ走ります。

作品としては「奇子」「ばるぼら」「人間昆虫記」や「火の鳥」シリーズのいくつか(望郷編)など。「黒手塚」もまた非常に多作です。

人間の心の暗部・猟奇的だったり欲望まみれだったりのダークサイドを描くことにおいてもやはり手塚先生は天才的で、物語のひとつひとつが妖しく暗い魅惑的な光を放っているようです。

副題に「ダーク・アンソロジー」ともあるように、この「ボンバ!」はそんな「黒手塚」の短編が3つ収録されています。「ボンバ!」「時計仕掛けのりんご」「ガラスの城の記録」。マンガ史における貴重な資料ですね。

その中でも個人的には「ガラスの城の記録」が秀逸だと感じていますが、鬱展開というかトラウマ展開というか狂気というか。

「冷凍保存して生き続ける選択をした一族」がベースの設定なんですが、その理由が「利子が増えるから」。黒手塚の狂気を感じつつも非常におもしろい。

そしてその「冷凍保存」設定は「火の鳥 望郷編」に受け継がれ、「ガラスの城の記録」をはるかに凌駕する黒手塚の完成形として昇華されることになります。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「建築探偵  東奔西走」 藤森照信文, 増田彰久写真 朝日文庫

日本国内の美しい、あるいはなんじゃこれ?と言いたくなるユニークな建物を紹介してくれる本書。物言わぬ建物に代わって雄弁に語る藤森氏の歯切れのよい文章と、建物がいちばん美しく見えるよう細心の注意を払って丁寧に撮られた増田氏の写真。そのどれもが素晴らしく、すぐにでも出かけて行きたくなります。こんな建築物が身近にあるって楽しいだろうなと思っていたら、記憶の底からよみがえってくる建物がありました。

通称“灘のお化け屋敷”。宇津野トンネルを海側に抜けてすぐ左手。うっそうと樹の生い茂った坂道を登ったところに立つくすんだピンクの朽ちかけた二階建て。スペードやハートの形をしている、なにやらあやしい雰囲気の洋館に住んでいたのは一体どこの誰だったのでしょう?

今頃になってとっても気になります…。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「すずめさんおはよう」 いまきみち作 福音館書店

土佐町ではウグイスの声が聞こえるようになりました。

うっすら桃色がかった桜の枝や、道々に揺れる菜の花が、山に春が来たことを教えてくれます。朝晩はまだ冷え込んでストーブをつけますが、緑や黄色、オレンジ、ピンク…。春の色が日々添えられていく風景は、道ゆく足取りを軽やかにしてくれます。

2月のある日、大きな封筒が届きました。差出人は、絵本作家のいまきみちさん。同じく絵本作家の西村繁男さんとご夫婦で、以前土佐町に来てくださいました

いまきさんが「新しい絵本ができました」と送ってくださったのです。

春になると、すずめやウグイス、ひよどり、色々な鳥の鳴き声が聞こえてきます。畑を耕した次の日の朝、何やら畑の方が騒がしいと窓から覗くと、お腹に茶色と白の模様のあるむっくりした鳥や何羽ものシジュウカラが耕したばかりの畝を行ったり来たり。きっと土の中から出てきた虫たちを捕まえにきたのでしょう。へっぴり腰で畑を耕す私の姿をどこかで見ていたのか?鳥たちの感性に驚かされます。

いまきさんが住む土地も鳥が羽ばたき、花のみつを吸い、また眠りにつく。人といきものが共に生きる場所なのでしょう。いまきさんの優しいまなざしを感じる一冊です。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「シェフィールドを発つ日」 バーリー・ドハーティー作,中川千尋訳 福武書店

行ったこともないし、どんな街なのかも知らないにも関わらず「シェフィールド」と聞くと何やら懐かしい気持ちになります。それはこの本と出会ってからのことです。

主人公のジェスは一年間フランス留学のため、明日、生まれ故郷のシェフィールドを旅立ちます。彼女の門出を祝うパーティも終わり家族だけになったとき、祖父母や父が、それぞれのとっておきの物語をジェスに語り始めます。旅立ちを前に、自分の存在の不確か さに戸惑う者を力づけてくれるのは、きっとこういう身近な人々の物語なのでしょう。

それはまた、読者である私も励ましてくれ、拙いながらも自分の物語をつむぐ勇気をくれるものでもありました。

さまざまな選択肢から一つを選ばなくてはならない決断のとき、そっと背中を押してくれるのは、シェフィールドのまちで出会った人であり彼らの語ってくれた物語なのでした。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「Earthおじさん46億才」 藤原ひろのぶ文, ほう絵 フォレスト出版

おもしろい本を見つけるコツってありますか?と聞かれるときがたまにあります。あるなら私も知りたい、と思いますが強いて言えば、経験と勘で本からの信号キャッチすること、それと本好きの友人のおすすめ本はとりあえずチェックすることかなぁ。なかでも出会える確率が高いのは、友だちからの口コミ! この本も友だちから教えてもらった最近のヒット作です。

地球が誕生して46億年。これを1年に置き換えると人類が誕生したのは23分前になるらしいです。そのたった23分の間に取り返しのつかなくなる一歩手前まで地球を汚しまった私たち。ちょっと人間にいいたいことがあるんやと、神様にお願いしてヒト型(?)にしてもらったアースおじさんのつぶやきの一つ一つが静かに心に響きます。

責めることはせず、こんなに汚してしまったら困るのは人類のほうなのに大丈夫なのかいと心配するアースおじさんのほんわか慈愛に満ちた顔。これ以上、おじさんのお腹の調子を悪くしたり、体臭を酷くしないために何ができるのか? ほんの少しのことでもアースおじさんに喜んでもらえるよう、暮らし方を考えなくてはと思います。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「土佐の食卓」 土佐伝統食研究会 高知県農業改良普及協会

この表紙の緑色の茎、大きな葉。これは高知でよく使われている食材である「りゅうきゅう」です。大きいものでは、子どもの背丈ほどにもなります。

約10年前に高知に来てから、初めて知った山菜や野菜がたくさんありました。「りゅうきゅう」「ゼンマイ」、「いたどり」などなど。初めて手にした食材をどうやって料理したら良いのか?

そのまま食べたら物凄いえぐみのある「わらび」のアク抜き方法や、赤ちゃんのへその緒のように乾燥したゼンマイの戻し方…。それを知りたい時、何度もこの本にお世話になってきました。

食材だけではなく高知ならではの郷土料理も紹介されていて、土佐町の長野商店店主・長野静代さんも作っている「さばの姿ずし」をはじめ、高知県各地の料理の数々は、高知という土地がもつ食材の豊さを教えてくれました。

その土地の人たちがその土地にあるものを工夫して使い、美味しいものを作る。その営みを代々守り、引き継いできた人たちがいるからこそ今も残っている郷土料理。それは高知という土地のつよさであり、素晴らしい文化です。

10年前に感じた「高知に来てよかった!」という思いは、今も全く変わっていません。高知のもつ新しい側面を知るたび、高知を支えてきた人たちに出会うたび、その思いはますます強くなります。

いつか私も、この本を開かなくとも上手にゼンマイを戻し、リュウキュウの酢の物を作れるようになりたいものです。まだまだ時間がかかりそうですが、「さばの姿ずし」や「蒸し鯛」も必ずや挑戦したいと思います。

 

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私の一冊

西野内小代

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「日本史サイエンス」 播田安弘 講談社

データや推論を気象学、物理学、統計学などの知見を活かして日本史における大事件を検証しようという試みです。

・蒙古襲来
・秀吉の大返し
・戦艦大和の謎に迫る

この三つの出来事について考古学者でも歴史学者でもない著者が専門分野の科学を武器に検証していきます。例えば「蒙古襲来」は舟の専門家である著者の計算では、全軍26,000人・軍馬700~1,000頭が一日で日本に上陸できたとは考えられない。「大返し」については食料の手配、全軍2万人の体力の消耗等も考えると、事前の周到な準備なくしては考えられない。

戦艦大和の技術が戦後日本の造船に大きく貢献したことはいうまでもなく、カメラ産業の発展にも貢献、特殊鋼の高い技術力等、戦後の電機産業、機械産業の発展を促した事実も忘れてはならない。具体的な数字を提示しているので、目から鱗のスッキリ感で読み終えました。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「ぶきっちょアンナのおくりもの」 ジーン・リトル作 田崎眞喜子訳 福武書店

年明けに、懐かしい本を読み返してみました。やはり良いなあ、好きだなあと、幸せな読書初めでした。それがこの「ぶきっちょアンナのおくりもの」。

アンナは五人兄姉の末っ子です。 アンナ以外の家族はみんな美しい容姿と手先の器用さに恵まれています。それにひきかえアンナだけが、ずんぐりとしていて不器用でした。そのうえアンナは、小学校二年生になってもまだ字が読めませんでした。兄姉たちはアンナをばかにして相手にしてくれません。母親もアンナの鈍い動作にいつもイライラしていました。そんなアンナの唯一の理解者は父親でした。

時は第二次世界大戦間近、ナチスが台頭してきたドイツに住み続けることに不安を抱いた父親はカナダに移住する決断をします。カナダに移住してすぐに受けた健康診断で、アンナはひどい弱視だったことがわかります。 眼鏡をかけた瞬間からアンナの世界は一変します。けれども内気なアンナは大好きな父親にさえ、自分の世界がどんなに変わったかをうまく伝えることができません。家族にとって、アンナはやはり“ぶきっちょアンナ”のままでした。

その一方で、視覚障がい者のクラスに通い始めたアンナは、自分にもいろいろなことができることを知ります。あるがままのアンナを受け入れてくれるクラスメイトたち。アンナは少しずつ自分に自信を持ち始めます。

自分の家族という小さな社会での評価がすべてだと子どもは思いがちです。けれども違う社会、違う視点を持つことで世界は広がり、なんて生きやすくなることでしょう。いえ、これは子どもに限ったことではないですね。大人だって同じこと。自分の属する小さな社会がすべてだと思い、その評価に翻弄されてしまいがちです。壁にぶつかったらアンナのことを思い出すことにいたしましょう。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「21世紀の新しい職業図鑑~未来の職業ガイド~」武井一巳著 秀和システム

何かの拍子に、小学校の国語の時間に習った物語の一節やタイトルが思い出される時があります。「私はひどく落胆した」とか「めもあある美術館」とか。

この本を読み終えた時浮かんだのは「ランプ、ランプ、なつかしいランプ」という言葉でした。そう、新美南吉の「おじいさんのランプ」の終わりにでてくる言葉です。まだほとんどの家には明かりがなく、あっても行燈くらいのもの、というときに登場したランプ。文明開化の象徴のようなランプでしたが、電気の登場とともに時代遅れとなってしまう…。

このガイドにでてくる職業は、どれも私が子どものころにはなかった45の職業です。プロゲーマー、ドローン操縦士、ユーチューバー、地下アイドル…。これらは今後ますます発展するだろうAIに対抗できる職業なのだそう。 私が愛してやまない司書という職も、いつの日かAIにとって代わられるのでしょうか? もしも図書館がランプの様に時代遅れになったとき、わたしは巳之助のように「自分の古い商売がお役に立たなくなったら、すっぱりそいつを棄てて、古い商売にかじりついたり、昔のほうがよかったといって世の中の進んだことを恨んだり」しないでいられるでしょうか。

いやいや、図書館よ、永遠なれ!!

 

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私の一冊

西野内小代

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「読書する人だけがたどり着ける場所」 齋藤孝 SBクリエイティブ

時間だけはたっぷりとあるが、没頭できるような趣味もなし。

時間つぶしの為に読書と向き合うだけであり、何もできない自分に対し、ある種後ろめたい気持ちさえ働いてしまう、後ろ向きの私の読書状況でした。

読書は体験、経験できないシチュエーションを目の前に展開してくれる。情報に厚みや深みを追求する姿勢は読書によって養われる。等々読書が与えてくれる恩恵を納得のいく説明で説いてくれています。

思考力を高める名著
現代に必要な知識がもてる名著
人生の機微に触れる名著
人生を深める名著
難しくても挑戦したい不朽の名著

など紹介されていて、前向きの読書に対する勇気を与えてくれます。

 

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