土佐町の絵本「ろいろい」。コロナ禍の数年も挟んで、約5年かけた長期プロジェクトとなりました。
完成した「ろいろい」は、ジャバラ型の少し変わった形をした絵本。ながーいページを伸ばすと、そこには土佐町の実在の風景や文化、人々が描かれています。
表面には春と夏の町。裏面には秋と冬。
15回に渡る記事で、絵本「ろいろい」を1ページずつ解説していきます。
ろいろい ろいろい
はねるあまつぶ だいちにしみこむ
うなぎとびだし かえるなく
「やりゆうかえ」
「しょうはえちゅうちや」
「ごくろうさん」
5ページ目、雨の日の溜井
前ページの宮古野地区を通り、ここは溜井地区。田んぼの横、車が一台やっと通れるくらいの道の脇に並ぶ色とりどりのアジサイ。この場所は「未来の里(とわのさと)」と呼ばれています。
1993(平成5)年から、和田芳穂さんがアジサイ一万本をこの場所に植え、地域の方たちと共に大切に守り育ててきました。
↓「土佐町ポストカードプロジェクト」でも撮影しています。
ちなみに、土佐町の花はアジサイ。この場所をはじめ町内のあちこちにもアジサイが植えられています。
「しょうはえちゅうちや」
文章中にある「しょうはえちゅうちや」は土佐弁です。「いっぱい生えてるよ〜」みたいな意味になります。
この時期は、田んぼに植えた稲の間に草が生え、伸びていく頃。田に入って草を抜くのは大事な仕事です。
雨が降り続くと、川は濁流と化し、水路から水が溢れ、山は崩れます。自然と共に暮らすことは厳しさも伴います。思い通りにならない自然、どう足掻いても人間は自然には敵わない。町の人たちはそのことを身体で知っています。その体感は人間にとってとても大切なものだということを、皆さんの背中から感じます。
背中には背みの
農作業の時に身につけるアイテムとして欠かせないのは「背みの」。左下に描かれている人も背負っています。これが大変な優れもので、水を弾くので雨の日にはカッパ代わり、晴れの日には日除けになります。カンカン照りの日、外で畑仕事をする時に背みのを背負うと背中が涼しい!
背みのは一枚ずつ、手で編まれています。山に生えているスゲという植物を収穫し、干してゆがいで乾かして。そのスゲを編んで作ります。昔は背みのを編める人が何人もいたそうですが、今は数名。土佐町には「背みの保存会」があり、背みのの編み方を次の世代へ引き継ぐべく、活動しています。
↓2017年秋、下田昌克さんも背みの教室に行きました。
うなぎ現る
絵の右側、道でくねくねと踊っているのは、うなぎです!
昔、土佐町の田んぼにはうなぎがいたといいます。大雨が降ったり台風が来て水路から水が溢れると、うなぎも一緒に流れ出て、道の上でぴっちぴっちと跳ねていたとか。「大雨の時は、うなぎがいるかどうか田んぼの脇の道を見に行った」と何人もの人から聞いたことがあります。
数は少なくなったものの、今もうなぎは川にいます。罠を仕掛けて捕まえて、かば焼きにして食べる人も。羨ましい!一度でいいから、土佐町産のうなぎを食べてみたいものです。
↓うなぎを捕まえた時のお話はこちら
↓うなぎの「ひご釣り」の名人のお話
↓うなぎのいた川で遊んだお話はこちら
豊年えびは、豊作のしるし
絵の中央下に描かれている、オレンジの尾で田んぼを泳いでいるのは生き物は何でしょう?土佐町の人は、この生き物が田んぼに現れるととても喜びます。その名は「豊年えび」。田んぼに泳いでいたら、その年のその田んぼは豊作になるといわれています。
大きさはちょうどオタマジャクシくらい。黄緑色の体、目はクリッとしていて(?)、けっこうかわいい。
この季節は、生き物たちもみずみずしく活動します。豊年えび、オタマジャクシ、カエル…、そしてヒキガエル!
ヒキガエル=オンビキ
赤い傘をさした人の足元に描かれているのは、でっかいヒキガエル!土佐町にはヒキガエルも健在、雨の日に出てきます。「オンビキ」と呼ばれています。
雨の日、山道の真ん中にデン!と居座っていたら、かなりびっくりします。一度持ったことがありますが、ぬめっとしていて、ぶつぶつしていて重量級。「ひえーーー」と言いながら、両手でやっとさっとこ持てる。道に降ろすと、のそのそ山の中へ。威厳さえある姿は、まさに「山の主」でした。
↓家に「オンビキ」が来たお話「家の主」はこちら
↓和田守也土佐町長が話してくれた「オンビキ」の怖いお話はこちら
りゅうきゅう
絵の左に描かれている男の子が持っているのは、りゅうきゅう。大きいものは子供の背丈ほどもあり「子供の頃、畑から取ってきて傘のようにして遊んだ」とよく聞きます。雨上がりに畑へ行くと、雨粒がコロコロと輝きながら弾いて、とてもきれいです。
りゅうきゅうの茎の部分は食べることができます。歯応えはシャキシャキ!酢の物や豚肉と一緒に炒めても美味しい。土佐町のお母さんたちは、一年中食べられるように塩漬けにして保存しています。
土佐町の西石原地区の窪内久代さんに、りゅうきゅうの塩漬けの方法を教えてもらいました。
今のような便利さがなかった時代、その時期にしか収穫できないものを保存し、一年中食べられるようにする。この土地のものを食べ、生き抜いてきた人たちの知恵の素晴らしさ。そこに人間の強さを感じます。
ろいろい、ろいろい。
雨の季節を抜けたら、次は夏!
さあ、どんな風景が待っているでしょう?