レンゲが満開の田んぼから、コロコロコロとアマガエルの声が聞こえはじめた。
周りの田では着々と田植えの準備が進んでいて、まだ何もはじまっていない自分の田んぼの横を歩くたびに「そろそろやらなければ」と気ばかり焦る。
ほころびはじめた八重桜の蕾を友人が摘みに来たこの日、お米つくりの第一歩である苗床をこしらえた。
苗床(地元では「のうどこ」と呼ばれる)は、お米の苗を育てる場所のこと。この地域では田んぼの一部を仕切って作るのがほとんどで、種籾を蒔いた専用の箱を並べ、発芽から田植えできる大きさになるまでここで管理する。お米にしろ野菜にしろ、「苗半作」と言われるくらい大事な時期。苗のできばえで、その後の成長や収穫を左右するからだ。一箇所でたくさんの苗を作る稲作では、それ故に病気などが発生しやすいが、いかに良好な苗を田に植えられるか、その基盤となる苗床はとても重要だ。
前の日に雨が降ったので、田の土は重く、足元がぬかるむ。
それでも、春の陽気の下、冬の間なまった身体を動かすのは気持ちがいい。一年前を思い出し、「今年はこうしてみよう」「うまくいくかな」なんて考えながら、自分のペースで進めるのはとても贅沢な時間だ。
はじめるまでは「めんどくさいなあ」とまで思っていた作業だが、時期がくればちゃんとスイッチが入る。頭と身体と季節は繋がっているのだと実感する。
毎年やり方を模索している稲作だが、今年は二反半全ての田んぼで手植えしようと思ってる。苗床に直接種を蒔き、苗を大きく育て、間隔を広くして植える。去年は機械植えと手植えをやったが、どちらの方法でも収量は変わらなかった。田植え機を使うと作業はあっという間に終わるけれど、苗の大きさや植える時期などいろいろと制限があったり、機械のスピードに振り回されたりして、どっと疲れる。機械作業と手作業、それぞれ一長一短があるから、これもまた模索を続け、自分の身体とも相談しながら、そのときにベターな方法を選びたい。