分類ツリフネソウ科ツリフネソウ属の一年草
分布日本固有種 紀伊半島、四国、九州に分布
概要花期は8~10月
撮影土佐町/2023年、2021年
朝ドラ「らんまん」の放送が間もなく終わります。
さて、牧野富太郎博士由来の植物でこの時期に土佐町の山野に咲く花は…。ヤマジノホトトギスやヒヨドリバナ、いくつか思い当たります。
花が帆掛け船を吊るしたようなユニークな形のハガクレツリフネ(葉隠釣舟)もそうです。馴染み深くはありませんが、今月はこの花を記事にすることにしました。
葉の裏側に隠れるように花が咲くことからハガクレ、花の形からツリフネ、これが和名の由来です。
学名(※がくめい)はImpatiens hypophylla Makino。1911年に牧野博士が命名したそうです。
Impatiensというのはツリフネソウ属という属名のことで、インパチェンスと発音します。この呼び名、聞いたことがありませんか。園芸植物としてよく目にするアフリカホウセンカのことです。とてもポピュラーなホウセンカ(鳳仙花)も学名はImpatiensから始まります。
熟した果実に触れると一瞬にはじけて種子が飛び散ります。子供の頃にはそれが面白くてよくタネを飛ばして遊んだものです。どこにでもある花ですから多くの人がこの衝撃的な体験をしているのではないでしょうか。
Impatiensの直訳は「我慢できない」。つまり、熟した果実はちょっと触れられると我慢できずにタネが弾けてしまうという意味なのです。ハガクレツリフネの果実も少しの刺激で弾けるようです。
属名の次に来る単語を種小名と言います。hypophyllaは、訳すと「葉の下の」ということだそうです。博士は花が葉の裏に隠れるハガクレツリフネの特徴に食いついて学名を付けたということになるようです。
因みに学名を発表した1911年にはハガクレツリフネという名前が既に存在しており、牧野博士が和名を付けたわけではありません。
9月初旬、土佐町芥川の川沿いにある自生地へ行ってきました。まだ咲き始めたばかりでほとんど蕾ですが、開花した数少ない一輪に蜂が潜り込んでいました。長い口吻を持つマルハナバチの一種です。花の後ろ側に密をためる距(※きょ)があり、それを吸いに来ているのです。
一昨年は満開に近い状態に出くわしましたが、時期が今年より遅く9月下旬のことでした。今年もこれから徐々に開花の数を増やしていくことでしょう。
余談ですが、ハガクレツリフネに似た花を2種紹介します。
いずれも牧野博士ゆかりの植物ではないようですが‥
キツリフネ(黄釣舟)
花の色は真っ黄色、ハガクレツリフネのように葉の下に花がぶら下がります。
学名は Impatiens noli-tangere。種小名のnoli-tangereの訳は「触るな」。果実はすぐに弾けるからうっかり触るなという意味になりそうです。
写真は土佐町和田で撮影しました。
ツリフネソウ(釣舟草)
花は濃い紅紫色。他の2種とは異なり花は葉の上側へ飛び出ます。
土佐町では自生が確認されていません。写真は10年ぐらい前、仕事中に岐阜県の山中で撮影したものです。
※学名(がくめい):ラテン語で表記される世界共通の名前のこと。植物の場合、属名・種小名・命名者名等の順で列記することになっている。
※距(きょ):花の後側へ細長く突き出た部分のこと。内部に密腺を持つものが多く虫媒に関係している。スミレなどにもある。