「うどん二つ、お願いします!」「あと、たけのこ寿司も!」
レジでは笑顔のごろうさんとりょういちろうさん、お隣ではじろうさんが手際良くお持ち帰りの品物を袋に詰めています。
毎日曜日、国道439号沿に立つ『やまさとの市』では、今日も10時を待たずに朝ごはんやお昼ごはんをここで食べる人や人気の筍寿司や鯖寿司を買いに訪れる人達で賑わいます。
私が移住してきた2022年の冬はコロナ禍で、この『やまさとの市』はまだ再開されていませんでした。石原のご近所さんとの話の中で、この市のことがよく話題に登り「早く市が再開されて欲しいね。」と皆が声をそろえて言っていたのを記憶しています。
そしていよいよ再開が始まったその日曜日に行くと、平台の上には沢山の美味しそうなものが並んでいます。
色とりどりの山菜を乗せた、まるで宝石のような田舎寿司。丁寧に四方竹が巻かれた筍寿司。天麩羅やおでん、ちらし寿司やおこわ、お饅頭や羊羹まで何にしようか目移りするほどに!
そしてテーブルと椅子が並ぶ野外食堂がテントの下に構えてあります。その下では近所の人達やツーリングの途中で立ち寄ったらしいバイカー族が美味しそうにおうどんを食べたり、お隣の町や高知市内、県外からも車でやって来た人々が緑のエプロンを着けた『いしはらの里』の役員さんと楽しそうに話しています。
お目当てのものを確実に手に(口に)入れるには、お昼前に行くこと!特に晴れた日には全てが午前中に売り切れてしまうこともあります。
今日も私は家から徒歩3分の市へきっかり11時半に到着すると、手前のテーブルにはきみあきさんが早々に構えてます。
「32、33番でお待ちの人は?」と、赤いエプロン姿のひろこさんが、揚げたてのかき揚げをのせたおうどんをトレーで運んできます。「はーい!ここです〜!」と、元気な声が隣のテーブルから聞こえてきます。石原で古民家を改装し、『こうね』という屋号で古書店&喫茶&民泊を始めようと頑張っている大高りょうすけさんとみかさん、そして二人の師匠であるひでゆきさんも隣にいます。きみあきさんも交えて、改装工事の進行状況について話しが弾んでいる様子。
その中にエプロン姿のたておさんとやすおさんも加わり、にぎやかな会話が弾んでいます。
私も鯖寿司とデザートのあんこ餅、うどんの引換券を持ってテーブルに着き会話に参加。
そうしていると、去年石原に移住して来た渡部あんなさんが、ともはるくんとなつきくんを連れてやって来ました。「ゆかりさーん、見てみて!」と、ともはるくんが来る途中で見つけた綺麗な葉っぱを誇らしげに見せてくれます。
しばらくすると田井から車でやって来た藤原家の子供たちがこちらに元気良く走ってきます。石原にあるハウスを使って『ちょっこりファーム』という小さなグループ名で一緒に野菜作りをしている藤原ちえさん。もちろん藤原家の3人の子供たちは、渡部さん家の子供たちと同じ保育園と小学校に通うお友達同士。早速みんなでわいわいと遊び始めます。
こんな風に毎週ご近所付き合いが美味しいものを挟んで持てる『やまさとの市』は、多くの人たちにとって今やかけがえの無い場所。
ある日曜、隣でうどんを食べていた西の生改メンバーであるけいこさんとみえさんのところに、その日の当番である東のさくら会メンバーのとみこさんが飲み物を運んできて話し始めました。
「…ほんまにいつまで出来るか毎回考えてしまいゆう。私ら平均年齢80近くなっちゅうき。」
「どっちが長く頑張れるかね〜。」
木枯らしが山間を吹き抜ける真冬日、太陽が砂利を溶かすような真夏日も、緑のエプロン姿でテーブルやテントを構え、笑顔でお客さんを迎える石原のおんちゃん達。うどんを作りかき揚げ天ぷらを揚げる。素材の収穫や下準備も通年で考えて、毎日曜日にとびきり美味いもんを味わせてくれるおばちゃん達が、みんなで力を合わせて10年以上も続けてきた『やまさとの市』。
石原、そして外から美味しいご飯と温かいもてなしを求めてやって来る人々と同じに、私もこの空間がいつまでも続くことを願ってやまないのです。