会場へ一歩入ってまず感じるのは、懐かしい草の香り。まるで、風が吹く草原の中に入り込んだような、幼い頃の記憶が蘇ってくるようです。
2020年11月16日から土佐町の郷土学習センターで開催されている「草あそび 三人展」。
土佐町在住の山中直秋さん、山中まゆみさん、西峯弘子さんの三人が、2年という時間をかけて嶺北の山々と道々を歩き、集めた草花で作ったリースとスワッグ(花束のようにしたもの)がギャラリーいっぱいに飾られています。
使われている植物の名前と作者のイニシャルが記された小さな紙の札が、作品それぞれに結び付けられています。
高知県民にお馴染みのイタドリ、アジサイ、ススキなど多くの人が知っている植物もあれば、初めて目にする耳にする植物もたくさん。丁寧に記された植物の名前の数々を見ていると、植物にはそれぞれ名前があるのだということに気付かされます。そして、この作品を作った三人が注ぎ続けてきただろう、植物たちへの温かいまなざしを感じるのです。
「草あそび 三人展」の2日前、「三人」である山中直秋さん、山中まゆみさん、西峯弘子さんにお話を伺いました。
「自分たちも何かやりたい」
「今回の三人展のきっかけとなったのは、2018年の冬、高知県の牧野植物園で開かれた『標本展』でした。それは、園所蔵の標本が30万点揃ったことを記念した展覧会で、僕が作った標本も展示されました。全体の展示の仕方がとにかく素晴らしく、三人三様に深く感銘を受けました。その日のうちに、自分たちも地域で何かやりたいと思ったんです」
と直秋さん。
そのとき感じた「何かやりたい」という強い思いが、今回の三人展を開く最初のきっかけだったと言います。
その標本展は「“アートを越えたアート”だった」と、まゆみさん。それからはどこを歩いていても、車で走っていても、常に「アートの目」で周辺の植物を見るようになったそう。
「植物を使って何かやりたい。集めておいたら何とかなる。まず集めてみよう」
それが2年前。
振り返ってみれば、その時すでに今回の三人展に向けての準備が始まっていた。今回の三人展はまさに2年越しの展覧会なのです。
材料を集める
三人は嶺北の山や野を歩き、材料を集め始めました。
さめうらダム近くでツヅラフジやクズカズラなどを採り、太さも長さも様々なツルを丸めて編んで乾燥させ、リースの土台を作りました。(昨年の秋、山中さんの家の軒先では丸く編まれたツヅラフジがずらりと干されていました)
山や野で集めた植物が乾燥させている途中でカビてしまったり、2年間たくさんの失敗を繰り返したそうです。
歩き回ることで今まで知らなかった植物に出会い、その名前を覚えていったと西峯さん。
今では嶺北の植物の特徴や生えている場所など、ほぼ把握するまでになったそうです。
集めた植物は山中さんの家の一室の天井から吊るされ、乾燥できたものは、いくつもの段ボールに保管されています。
「家中が植物だらけ」
そう言って山中さんは笑います。
リースには定型がない
三人は、高知市のリース作家の個展へ足を運んで参考にしたり、インターネットや本で調べたりしながらリースを作り始めました。失敗を繰り返しながら作っていくなかで、教室に行くことも考えたそうです。
けれども、
「習ってしまったら、そのやり方になってしまう」「自分流にやってみよう」
そう気付いてから、自由に思うように作り始めたそうです。
直秋さんは、かつて根っからの仕事人だったそうです。それまでものづくりをしたことがなかったそうですが、初めて作ったリースは、ご近所の畑で分けてもらったカラスウリで作ったとのこと。それがとても面白かったといいます。
「リースは好き勝手に作って自分で楽しめばいいし、人に渡して喜んでくれればいい。そういう精神を持っちゅうな、というのがすごく気に入った。」
針金を下から巻こうが上から巻こうが、何の問題もない。本には“この材料を用意しなさい”と書いてあるけど、自分の身の回りにあるものを使えばいいじゃないか、と。
足元にあるもので楽しめる
そうして2年間、コツコツと制作してきた三人。その数はリースとスワッグを合わせ、185個にもなっていました。
「作るのは楽しい、見てもらうのも楽しい。『三人展』にどんな人が来るのか、どんな反応をするのか。これからどんなことが起こるのかがとても楽しみ」と話してくれました。
「身の回りにある植物たちを少し知ることで、世界が広がってくる。そういう感じになる人が増えてくれれば一番いいなと思う。足元にあるもので楽しめるんだと感じてもらえたら」
そう話す三人は、やり切ったという満足感で満ちていました。
「天まで届け!」
最後に、まゆみさんが話してくれました。
「ものづくりは私を支え続けてきてくれた。この三人展を見て、周りの人はもちろん、亡くなった母へも届くことはきっとあると思う」
そして、
「この楽しさが『天まで届け!』という気持ちになるんよ」。
嶺北で育った植物たちに込められた思いは、きっと多くの人に届くことでしょう。楽しさも愛情も人の心に伝播していく。そう思います。
山中直秋さん、山中まゆみさん、西峯弘子さんの三人展は、11月25日まで。
会場にいる三人に、ぜひ何でも聞いてみてください。三人は、その作品が持っているものがたりを話してくれると思います。
多くの人に、嶺北の植物の世界、そして、ものづくりの楽しさを感じてもらえたらと願っています。
「草あそび 三人展」
会期 11月16日(月)〜25日(水) 10時〜16時
会場 土佐町郷土学習センター(青木幹勇記念館)
住所 土佐町土居437
お問い合わせ 0887-82-1600