新緑の緑も一段と濃くなりだした5月上旬のこと、三人連れで土佐町内の森へ行きました。道中の日向には黄色いウマノアシガタの花が群がり、遠目にはヤブデマリらしい木に咲く白い花も見えました。
やや湿った森、40~50年生の杉林なのですが、その中へ入ると様子は一変します。薄暗いのに樹冠から射しこむ陽光がキラキラ輝いて寂しさはありません。
マムシグサやエビネなど大きめの花はすぐ目につきます。日陰を好んで咲いている小さな花も沢山あり、目を凝らして探したそのうちの5種を紹介します。
ギンリョウソウ(銀竜草)
ツツジ科ギンリョウソウ属 草丈5~20㎝
農道沿いの落葉がいっぱい溜まった林縁に生えていました。
植物とは思えないような形の、光合成をしない腐生植物(※ふせいしょくぶつ)です。葉緑素を持たないので全身真っ白です。
銀白色に輝いて見えるこの形を銀色の竜に見立てたのが名前の由来です。
ひっそりと生きるこの不思議な姿から、別名をユウレイタケ(幽霊茸)あるいはユウレイソウ(幽霊草)と言います。
コケイラン(小蕙蘭)
ラン科コケイラン属の多年草 草丈20~30㎝
小谷の流れの斜面に生えていたコケイランです。
唇弁(※しんべん)が白色の花ですが、一見、黄色い感じがする清楚なランです。
点々と6~7株咲いていました。
シラン(紫蘭)の別称あるいは仲間を「蕙蘭」というそうで、葉の形がシランに似ていて小形であることからついた名前だそうです。
長くて細い葉が笹に似ているということでササエビネ(笹海老根)の別名もあります。
コミヤマスミレ(小深山菫)
スミレ科スミレ属の多年草 草丈4~8㎝
コケ交じりに小さな群落を形成しているコミヤマスミレがありました。
日本のスミレ類ではもっとも暗い環境に生育するものの一つで、独特の色合いの大きな葉と白地に紫色の筋が入る唇弁の短い花が特徴です。
牧野富太郎博士が新種として発表し、学名と和名の両方を命名した植物の一つです。
タニギキョウ(谷桔梗)
キキョウ科タニギキョウ属 多年草 草丈5~10㎝
コミヤマスミレと同居するように花を咲かせているのはタニギキョウです。
キキョウと言えば紫色を連想しますが、ごく小さな白い花のタニギキョウもキキョウの仲間です。
谷間や湿り気の多い木陰などに自生が多く見られることが名前の由来になっています。
ヒメウワバミソウ(姫蟒蛇草)
イラクサ科ウワバミソウ属の多年草
ヒメウワバミソウも群生しています。
ミズとかミズナとも呼ばれる山菜のひとつで、仲間がたくさんいます。
「ヒメ」は大形のウワバミソウに対する名前です。
「ウワバミ」は大蛇のことで、山中の大蛇の住みそうなところに生えている草という意味で名付けられたものです。
地味ですが、じっくり眺めると葉といい、花といい、何かの物語を連想させるような独特の雰囲気を持っている草です。
※腐生植物(ふせいしょくぶつ):光合成をする器官がないので自分だけでは生きられず、落ち葉を分解する菌類と共生して栄養を得る植物。
※唇弁(しんべん):左右相称となる花の真ん中から下側へ広がるくちびる状の花びら。