早明浦に孫七と言う、ひょうげな(おもしろい)男が居って人を笑わせたのは明治の中頃じゃったそうなが、こんな話が残っちょる。
ある時のことよ、わしが鉄砲を持ってツグミを撃ちに行た。
ぼっちり滝(断崖)から出た小枝にツグミが居ったきに、そいつを狙うて撃った。
たまるか、弾丸がそれて滝の角岩に当たって、ガラガラ、ガラガラ、滝が崩れて、下の淵へ雨と散ったわよ。
その淵に鴨が十羽居って、それが落ちて来た石に当たって、十羽とも死んでしもうた。
たかあ調子のええ時はええもんで、崩れた滝を見てみるに何やら白いもんが見える。
上がってみるに、崩れた滝から出てきた山芋じゃった。
引き抜いて集めたら、なんと十貫(一貫は三、七五キログラム)あった。ツグミに弾は当たらざったが、その一発の弾丸で十羽の鴨と山芋を十貫取ったきに、わしも損したようには思わざった。
高知県まちづくり研究会発行
「高知五十三次ひざくりげ」より