一ヶ月ほど前から鶏を飼いはじめたのだが、実はほぼ同時にヒヨコも卵から孵化させて育てている。
雌鳥たちは貰われてきたときからすでに卵を産んでいて、雄もいるので有精卵。子どもたちに「これを温めるとヒヨコが生まれるんだよ」と話した。「いのちあるものだから、大切にいただこうね」という意味を込めたのメッセージだったのだが、子どもたちは「じゃあ、ヒヨコ育てる!」と言いはじめた。はじめての養鶏で世話やら何やら大変なのに、加えてヒヨコもなんて!と反対を試みるが、子どもたちの輝いた目には逆らえない。そして、ああなんということか、手元には以前友人に譲ってもらった孵卵器があるではないか。
とりあえず、二個の卵を温めてみることにした。
ネットで調べてみると、鶏の卵は孵化まで21日ほど掛かるが、途中いろんな原因で成長が止まり死んでしまうことも多いらしい。僕らにとってはじめてのことだから、生まれたら嬉しいし、うまく孵らなくてもそういうことって世の中にたくさんあるんだよ、子どもたちに話をした。
ビギナーズラックが働いたのか、果たして20日目に一羽目が、21日目に二羽目が生まれた。
生まれる前日、卵の内側から、か細いピヨピヨという声が聞こえたときは、感動だった。そして数時間を掛け、嘴でコツコツと殻を割り、自力で生まれてくるのだ。ヒヨコ、すごい。羽が乾いた一日後にはもう歩きはじめたので、用意しておいたダンボール箱の部屋に移した。ダンボールには小さな穴を開け、中の様子が見えるようにした。子どもたちは代わりばんこに顔を押し付けて観察する。ヒヨコたちは数分ごとに寝たり起きたりを繰り返していた。さらに数日後には盛んに動き回るようになったので、「触りたい」と言う子どもの手のひらにそっと置いてみる。逃げることなく、静かにしている。孵化のあと最初に目にしたものを親と思い込む「すり込み」によって、僕たちを親と思っているのかもしれない。
誕生から三週間が経ち、ひと回りもふた回りも成長したヒヨコたち、よく食べよく鳴きよく動く。天気の良いときは、カゴを逆さにした即席の小屋を屋外に置いて、中で遊ばせている。
さて、鶏たちがやって来て一ヶ月半ほど経ったが、実は、飼う前に心配していたことがあった。
ひとつは、飼い猫イネオと鶏の関係。獲って食べられてしまうのではないか、襲われて怪我をするのではないか。実際、最初の数日はお互い警戒を露わにしていたが、一定の距離を取ることで落ち着いたようにみえる。たまにイネオに追いかけられているが、上手に逃げてる。イネオも本当に獲ろうとしているわけではなく、ちょっかいを出しては、すぐ諦める。その後鳥たちが「なんだあの生き物は」とでも言いたそうに、不満の声を上げるので笑ってしまう。
もうひとつは、雄鶏の鳴き声。まだ暗いうちから朝を告げる雄の叫びに家族の安眠が妨げられるのではないかと心配していた。実際朝4時ごろに鳴き声を何度か聞いた。しかし、僕以外、目を覚ますものは誰もいなかった。
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