少し前の出来事。
出穂した稲穂に少しずつ実が入り頭を垂れはじめたころ、周りと異なる葉っぱと実が付いている株があることに気づいた。近づいてみると、稗だった。
稗は田んぼで出会いたくない草のひとつで、大発生すると、お米の収量が著しく減ると言われる。また、たくさんの種を付け、それが落ちると翌年以降に大量発芽する。雑穀として栽培されているものとは種類が異なり、この稗は美味しくないらしい。
見つけたときは、穂がまだ緑で若かった。種は熟すと色が濃い黄土色になり、遠目でも米と見分けがつきやすいので、普段はもうしばらく経ってから刈り取る。だけどこのときは、数日後に大型の台風10号が近づくと言われていて、強風に煽られ、稗の種が田んぼにばら撒かれてしまったら大事(おおごと)と考え、ぬかるむ田んぼへ稗退治に入って行った。
稗を見つけては、地際から手鎌で刈っていく。少しでも茎が残っていれば、そこから生えてきて再び種を付けてしまう。足元が悪い中、稲を倒したり踏んだりしないように気をつけつつ、稗を刈り取るのは集中力が必要で、終わったときはグッタリと疲れていた。
田んぼによって状況は異なるが、ある田んぼには三抱えくらいもあった。集めた稗は種を落とさないよう慎重に持ち出して、処分した。
さて、この稗はどこから来たのだろう。
去年まで、僕がお借りしている田んぼで稗を見ることはほとんど無かった。あっても稚苗のうちに除草してしまうか、穂を付ける時期まで見逃していても種がこぼれる前に刈ってしまう。それでも、実をつけ種を落とした稗があるかもしれない。落ちた種は土の中で何年も生き延びることが可能で、気候や土の状態などの条件が合ったときに一気に発芽すると言う。
今回、稲株と同じように条に並んで生えていたから、田植えのとき稲と一緒に植えてしまったんだろう、と言うことは想像がつく。苗が小さいと稲も稗もよく似ているから、苗取りで間違えてしまったと言うこともあり得る。しかし、なぜ苗床に稗が生えていたのだろう(今年の苗床はこんな感じでした)。種もみは農家さんから譲っていただいたもので、別の種が入っている可能性はほぼゼロ。もし万が一、稗の種が混じっていたら播種のときに気づいていたはずだ。そして、苗床のあった田んぼには稗が生えていない。
田んぼで起こったミステリー、なのだ。
写真:刈り取った稗。ツンツンとした種が特徴だ。