山々の中腹をつなぐように、うっすらとした雲がたなびく春の朝。
家の裏の小さな畑へ向かう。
1週間ほど前にいちごの苗を植えた。まだ小さな苗たちが小さな動物たちに掘り返されていないか、虫に食われていないかを確かめることが日課になっている。
いちごの苗と苗の間から、何かの草の芽が出ている。
昨日は姿がなかった草が今日はもうここにあるということに、いつも驚かされる。
その草を抜こうとしゃがみ込むと、頬にしっとりしたわずかな風を感じた。それまで気づかなかったが、辺りは、さっきまで夜が包み込んでいた水分で満たされているのだった。
いちごの隣の畝にすぎなが生えていた。すぎなは、ツクシの後に伸びてくる茎のことである。
数日前からすぎなの存在に気づいていたが、もう10センチくらいの高さになっていた。
すぎなは、土から一本、真っ直ぐ伸びる茎の途中に短い枝々をつけた格好をしている。
このままにしておくとどんどん増えるので抜いてしまおう、といったん手を伸ばしたが、その手が止まった。
淡い緑の枝々の先に、ころんと丸い、しずくが光っていた。それはまるで小さなクリスマスツリーのようだった。今にも小さな一滴が土の上に転がり出しそうで、しばらくそっと眺めていたのだが、しずくは当たり前のようにその場所で光り続けていた。
そうこうしているうちに、雲の間から太陽が顔を覗かせた。朝の光が、しずくを照らす。
今日も1日が始まる。