去年の春から飼っていたミツバチの群れが、この冬を越せずに全滅した。
原因はいくつか考えられる。
秋の採蜜、スズメバチ襲来、厳冬の影響など。
どんな理由にせよ、飼い主である僕が死なせてしまったという反省と後悔をずっと引きずっている。でもそんなことを言っていても蜂たちが生き返るわけではないから、振り返ることで気持ちの変化を期待しつつ、記憶を辿ってみよう。
この地域で、養蜂は珍しいことではない。集落の道沿いには蜜堂と呼ばれる巣箱をよく見かけるし、そこからミツバチが盛んに出入りしている姿も観察できる。秋には彼らが集めた貴重な蜂蜜を頂戴することができて、うちもいつか自家製蜂蜜を採ってみたいなあと思い続けていた。
そんな願いが届いたのか、数ヶ月前に知り合いのツテからある養蜂家と繋がり、群れを分けていただく約束を取り付けた。
ニホンミツバチはある条件が整うと、群れが分かれ、先にいた女王蜂の群れが新居を見つけるために元の巣を離れ移動する。これを分蜂と言う。その群れを捕まえて用意した巣箱に誘導し、彼らがその箱を気に入れば、女王は新しい家族を増やし再び蜜を集めるようになる。
分蜂するのは基本的に春の間。しかし蜂たちがいつ行動するかはわからず、「そのときに連絡する」という手筈になっていた。とはいえ、分蜂しないこともあるし、せっかく箱に入っても逃げてしまうこともある。僕にとってはじめての体験であることもあって、そのへんの確率というか段取りというか塩梅というか、とにかく右も左も分からない。もらえたらラッキーと思いつつ、そのうちそんな約束のことも忘れてしまっていた。
しかしゴールデンウイーク最中のある晩、携帯が鳴り、「群れが入ったから取りに来るように」と知らせがあった。
通話を切った僕は躊躇していた。突然すぎて気持ちが準備できてなかったし、自分がミツバチたちの面倒を見られるのかどうか不安だった。「ください」と言っておいて、無責任な奴だと自分でも思う。
急いで車を走らせて現地に行ってみると、真っ暗な庭にぽつんと、出入口を塞がれた重箱式の巣箱が用意されていた。
写真:初期の巣箱。巣箱にはいろいろな種類があるが、これは「重箱式」と呼ばれるスタイル。巣の大きさに合わせて、枠を足していく方式だ。この時点では二箱しかないが、この数ヶ月かけて五段まで成長した。