土佐町の絵本「ろいろい」。コロナ禍の数年も挟んで、約5年かけた長期プロジェクトとなりました。
完成した「ろいろい」は、ジャバラ型の少し変わった形をした絵本。ながーいページを伸ばすと、そこには土佐町の実在の風景や文化、人々が描かれています。
表面には春と夏の町。裏面には秋と冬。
15回に渡る記事で、絵本「ろいろい」を1ページずつ解説していきます。
秋・冬のページスタート!ここは、高峯神社。
土佐町の絵本「ろいろい」。ここから、秋・冬のページのご紹介です。
秋冬編、最初のページは高峯神社からスタート。
こけむしたさんどう あしもとにあさつゆ
りんとしたくうき いちだんずつ いしだんをのぼる
ここは かぜわたる たかみねじんじゃ
このばしょを まもりつづけるひとがいる
「ちょっくら さんぽにいってきます」
土佐町 芥川に建つ高峯神社。今までとさちょうものがたりでは、高峯神社にまつわる記事をいくつも作ってきました。
↓「土佐町ポストカードプロジェクト」
筒井賀恒さん
地域の人たちからとても大切にされている高峯神社。長年、守り人としてこの場所で仕事を続けてきた筒井賀恒さんという人がいます。
高峯神社への道しるべの存在や言い伝え、この場所への深い思いなど、賀恒さんに教えてもらったことはかけがえのないことでした。
↓「4001プロジェクト」
縁の下の力持ち
絵の中の一つ目と二つ目の鳥居の間、よーく見ると、階段の途中にコンクリートのブロックが描かれています。これを設置したのは賀恒さんです。なぜコンクリートのブロックなのか?それにはちゃんと訳がありました。
石段と石段の間には高さがあるので「このブロックがあると、先輩たちが上りやすいろう」と、地域の先輩に相談してホームセンターで1つ100円のブロックを買い、軽トラックで神社のそばまで載せて来て、賀恒さんが一つずつ運びあげたといいます。
ブロックは、この地では日常的に使われているものです。賀恒さんにとって、きっとこの場所は日常であり、生活の一部。70年間、この場所に毎日のように通い、小さな変化に気づき、その時の自分にできることをしてきた賀恒さんならではの仕事のあり方だったのだと感じます。
誰に言われるでもなく、誰かに褒められるためでも認められるためでもない。自らひけらかすこともなく、やるべきことを淡々と積み重ねる。自分のしたことが気づかれないこともあるかもしれない。でも、大切なのはそんなことではないのだ、と教えてもらいました。
控えめにぼそっと「高峯神社の縁の下の力持ちになれたらと思うちょります」と話してくれた賀恒さん。その姿が、今も心に残っています。
作神(さくがみ)、豊穣の神
高峯神社は作神(さくがみ)、豊穣の神を祀っています。
絵の中の三つ目の鳥居の右横には、鷹の石像が描かれています。
「相川の田んぼでスズメの被害があってよ、稲がとれんというのでここへお参りに来たんじゃろう。これは鷹じゃね。鷹がスズメを追い払ってくれた、稲がようとれたということで、相川の集落のもんがこれを奉納した」
賀恒さんはそう教えてくれました。
相川は土佐町の米どころ。鷹の姿から、相川の人たちの切なる願いが伝わってくるようです。
手洗石
絵の右下に描かれているのは手洗石。1887(明治10)年、「土佐町の石原から平石に行く途中の、有馬林道入口のあたりの川原にあった石」を毎年少しずつ運び上げ、今の場所にあるのだそう。そのお話は、土佐町史に掲載されています。
高峯神社への道しるべ
賀恒さんに教えてもらった高峯神社への道しるべを辿った記録です。道しるべは高峯神社へ向かう道々にある石碑で、その地図も記しています。教えてもらうことがなかったら、ただ通り過ぎ知らなかったままだったでしょう。
車も舗装された道路もなかった時代、石碑をたどって山道をのぼり、高峯神社へ参拝した人たちがいたこと。苔むした参道に立つと、その人たちの声が聞こえてくるような気がします。
ひだる、登場
そうそう、秋冬編から、主人公は女の子になっています。木の陰からこっそり見ている赤い子(?)は「ひだる」です。(ちなみに、春・夏編には「えんこう(カッパ)」が登場していました)
ひだるは「おなかがすいたときに取り付く」憑き物。妖怪みたいなものです。山道を歩いていて、急にお腹が空いたりふらっとしたり…。そんな時、昔から「ひだるに憑かれた!」と言っていたとか。
憑かれた時はとにかく、何でもいいから食べるのが一番。山で仕事をする人は、ひだるが憑いた時のために、いつも「お弁当を一口だけ残して持っていた」そうです。
ひだるの姿を見たことがある人は誰もいません。が、下田さんが想像してこの赤い子を描いてくれました。
↓下田昌克さんも、何度も高峯神社を訪れています。
2021年、下田さんは「もう一度高峯神社は見ておきたい」と急遽現地へ。長い山道を歩きながら「この位置に手洗石があって」とか「ここに鳥居がある」などと確認しながら、参道を往復しました。
神社までの道のり、長い長い参道を一枚に収め、これぞ高峯神社という絵を描いてくれた下田さんの手腕にただただ脱帽でした。
ろいろい ろいろい。風渡る高峯神社をあとにして、次へ向かうのはどこでしょう?
ひだるをお供に、まだまだ旅は続きます。