2020年5月18日、土佐町早明浦ダム最深部へ、土佐酒造の「桂月 相川譽 山廃純米酒58」が貯蔵されました。この計画は和田守也土佐町長が発案、ダムを管理する水資源機構、土佐町の酒蔵である土佐酒造の協力を得て実現しました。
1年間の貯蔵後、土佐町内の商店や道の駅などで販売し、ふるさと納税の返礼品にもなる予定です。
■ダム最深部、地下100メートルへ
この日、早明浦ダム堰堤にあるエレベーターを使い、土佐酒造とさめうら荘の職員の方たち、土佐町役場職員がダムの最深部へとお酒を運び入れました。
早明浦ダム堰堤から地下100メートルの最深部には、高さ約2.5メートル、幅2メートルのコンクリートの道が作られています。道はダムの水平方向へ1本、垂直方向へ3本あり、途中に階段や急な勾配もあって、まるで迷路のよう。アーチ型の天井からは水がポタポタと滴り落ち、床にはいくつもの大きな水たまりができています。年間の平均気温が12度前後に保たれているダムの内部は、湿気に満ち、肌寒いほど。お酒を運ぶ荷台の音や人の声が反響し、耳元でこだまします。
このコンクリートの道は監査廊と呼ばれ、ダムを点検するために作られたもの。コンクリート片を積み上げて作られたダムは、長期間に渡って水の影響を受けて変形したり、下から浮き上がる力が働くため、日々の点検が欠かせません。
ダム内部の最も深いところ、ちょうどダムの中央を走る監査廊の最奥にお酒は貯蔵されました。
水資源機構の江口貴弘さんは、「ダムを管理をするだけではなく、今回のようにダムでお酒を貯蔵するというかたちで地域に貢献できることはとても嬉しい」と話します。
■選ばれた純米酒
早明浦ダムへ貯蔵されたのは、1877(明治10)年に創業された土佐町の酒蔵・土佐酒造が作る「桂月 相川譽 山廃純米酒 58」。このお酒は土佐町の米どころである相川地区のお米100%で作られ、相川地区の農家さんを「譽め讃える」という意味で「相川譽」と名付けられています。「山廃」と呼ばれる昔ながらの製法で作られていて熟成に向いていること、土佐町のお米100%で作られていることが、今回貯蔵するお酒として選ばれた理由です。
「時が経つにつれて、お酒の味はどんどん角が取れて丸くなる。貯蔵されるのが1年でも、十分変化を楽しめると思う」
土佐酒造の30年来の職人である筒井浩史さんは話します。
「土佐町には清流吉野川の源流があり、環境もいい。棚田を代々大切にしてきた人たちがいるからこそお酒を作ることができる。大切に育てたお米がお酒になることを、農家さんが喜んでくれるのが嬉しい」
職人・筒井さんの視線の先には、お酒造りを支える人たちの姿があります。
四国の水がめと呼ばれる早明浦ダム。
土佐町が誇る酒蔵・土佐酒造。
この元で働く方たちの存在があるからこその、今回の取り組みです。
ダムへ貯蔵されたお酒は、どんな味に変化していくのでしょう。ダムの扉が開けられる1年後をどうぞお楽しみに!